一人目8
店での仕事に対し、オーナーマスターは厳しい対応になっていた。
小野は自分がまだまだだと思い、これもオーナーマスターの愛情だと思っていた。
その奥のオーナーマスターの気持ちなど微塵も感じていなかった。
一方で正美との関係は順調に進んでいた。
会えば結婚式や新婚旅行の話しになり、正美は目を輝かせて話しつづけた。
小野は30歳を越えて、一つ夢があった。
唯一の趣味である時計を買う事だった。
高校時代、高橋と言う友人がいた。
小野と高橋は気が合い、いつも一緒だった。
暇があれば高橋の家に行き、たわいもない時間を過ごした。
その高橋の親父が大の時計好きだった。
所有する時計は30本以上あり、パテックフィリップからAランゲ&ゾーネやオメガ、ロレックスなど有名時計ばかりたった。
事あるごとに高橋の親父は時計について語った。クオーツと自動巻きについてや、ムーブメントや歴史について。
小野は興味をしめしたが、
息子の高橋は全く無関心だった。
高校卒業の時に限定のGshockを高橋の親父からプレゼントされた。
この時計の樣に強く正確な社会人になれ、そしていつか、磨き抜かれた唯一無二な機会式の時計のような価値のある社会人になれ!
いいはなむけの言葉だと小野は思い、それ以降時計を勉強し、休みの日には時計屋をめぐり、いつかいい時計を買うと心に決めていた。