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一人目6
正美とは休日に会う事がほとんどだった。
映画やコンサートには頻繁に出かけ、小野の唯一の趣味の時計を見てまわり、必ず勉強の為に話題の食べ物屋にいった。
「肇はやっぱり洋食屋がいいの、私はイタリアンとかも良いと思うけどね」
「洋食屋もイタリアンも変わらないんじゃないかなぁ、うちにはパスタもビザもあるよ。」
「パスタって言ってもナポリタンじゃない」
「ナポリタンはキングオブバスタだよ。」
正美は少し呆れながら、誠実な小野の返答に喜びを感じていた。
彼女にとって小野はうってつけの恋人だったかもしれない。
頑固一徹、一代で町では有名な洋食屋を続けてきた父。
一人娘の男性関係には学生時代から本当にうるさかった。
大学の時にはこの親では自分は一生結婚など出来ないと思うほどだった。
真面目で大人しく料理の腕もいい小野は父親のお気に入りだった。
そんな男が娘の婿に来てくれれば万々歳だと思っていた。
正美も小野と出掛ける時は隠さずに言っていた。
そんな感じで一年がすぎた。