一人目15
日本の景気は上がらなかった。でも、それなりに仕事はあり、多くを望まなければ楽しくもあった。
ところが、アメリカで起きた金融不安は恐るべきスピードで景気を悪化させた。
期間労働者の小野達にも冷たい風が吹き出した。
派遣切り!まずは年寄り、そして外国人だった。
すでに三交替だった勤務は二交替に変わり、休みも多くなっていた。
「ハジメ、とうとう俺達も切られる」
シジマールが珍しく神妙な顔で言った。
「どうするの?」
「日本に居たいけど、このままではブラジルに帰るしかないね。」
小野は心が痛んだ。
真面目に働く外国人達を小野は見てきた。
そりゃ、中には悪い奴もいる。
それは外国人に限った事ではなかった。
しかし、今の小野にはどうする力もなかった。
それから一週間後、シジマールたち外国人労働者はクビになった。
テレビのニュースは派遣切りの話題を取り上げてはいたが、だからって何も変わらない現状があった。
シジマール家族は一ヶ月後にブラジル帰国した。
帰り際にシジマールは絶対連絡するからと笑顔で言った。
小野もそれにおうむ返しのように答えた。
エレンは寂しさを身体いっぱいで表現し、出発ぎりぎりまで小野にまとわり付く状態だった。
「ハジメのオムライスおいしかったよ。また、食べれる?」
小野は今にも涙がこぼれそうになるのを我慢して。
「大丈夫、きっとまた食べるよ。」
それが大人嘘と気づいいるのか、エレンは精一杯の笑顔で頷いた。
シジマール家族は笑顔を絶やす事なく日本からさっていった。