一人目14
シジマールは日本に来て3年になる。
この工業団地には多くのブラジル人がいる。
家族でいる者や単身でいる者
みんな祖国から遠い日本へ夢を見て来日している。
そこは決して裕福な暮らしがある場所ではないが、幸せだけはあった。
「ハジメ、ディナー食べに来ないか?」
流暢な日本語を話すシジマール
「行ってもいいのか?」
「大歓迎だよ、妻も娘も喜ぶ」
屈託のない笑顔にいつしか引き込まれていた。
シジマールの家はこのあたりの出稼ぎ外国人達が多く住む団地の一部屋だった。
6畳の部屋が2つに小さいキッチンが一つ
家賃は一月1万5千円だった。
奥さんのマリサと4歳になる娘エレンとの3人暮らしだった。
マリサもエレンもシジマールと同じく明るく陽気だった。
「イラッシャイ、ハジメ」
マリサは大歓迎で迎えてくれた。
小野が久しぶり味わう家族の温もりがそこにはあった。
事あるごとにシジマールの家に呼ばれた。誰かの誕生日やブラジルの祭事など。
陽気な彼らの中で小野は味わった事のない仲間がいる楽しさを経験していた。
「ハジメ、またオムライス作ってね」
エレンは事あるごとに小野にオムライスをねだった。
一度作った時にシジマールもマリサもエレンも大喜びだった。
「ハジメ、お店のオムライスみたいだよ!すごくおいしい。」
みんな小野の手つきの良さにビックリしていた。
それから、エレンのために何度かオムライスを作った。
いつも小さいエレンは足元で背伸びしてオムライスの出来るのをじっと見ていた。
そして、美味しそうに食べてくれた。
小野が小さな幸せを感じる瞬間だった。
「いつでも作ってあげるよ」
「ヤッター!今度はドキンちゃん描いてね」