黒き華
「風に舞う白銀の華」のもとになった作品です。
共通点どころかストーリーもまったく違うものですが、間違いなくこれから派生して白銀の華ができました。
白銀の華は多くの読者の方に読んで頂けたので、もとになったこの作品には感謝です。
これはあくまで私が昔書いた作品の一部を抜粋しているので、文章も拙いですし、話もやや分かりにくいかもしれません。
大国リーウェン王国は、異世界にいる勇者を召還することに成功した。
勇者は、世界を巡り魔王討伐を目指して順調に旅をしているのだという。
リーウェンが召還した勇者が魔王を倒せば、リーウェンはさらに力を増す。
それを怖れた他国は、政治的な力を強めるため、勇者の血を欲し始めた。
そこで目をつけられたのは、異世界で平和な生活を送る勇者の妹だった。
彼らは異世界に人を送り込む術を研究し始めた。
リーウェン国の王と勇者は、彼女を守るために彼女をリーウェンの王太子妃とし、手出しできないようにした。
彼女は15歳なので、18の王太子とは年齢的にも調度良かった。
「勇者の妹を召還する」
「本気ですか、殿下」
「私の妃にしたからといって、彼女が無事だという保証はない。他国に奪われたらおしまいだ。それに彼女と結婚式も挙げねばなるまい?」
他国が、異世界とこちらの世界を繋ぐ魔法を開発したらしい。彼女が他国に連れ去られたら、彼女は人質としての役割を果たす。
勇者レオンは妹を溺愛している。…彼女にもし何かあったら、俺は殺されるに違いない。というか、魔王と結託して世界の敵になりかねない。
彼女の召還は成功した。
彼女は、はっきり言って地味だった。彼女がかけている黒ぶちの眼鏡は、彼女の地味さをさらに引き立てている。
正直、期待はずれだった。レオンの話を信じた俺が馬鹿だった。
――――…瑠那ちゃんはなあ、可愛いんだぞ。黒髪はつややかで美しいし、青の瞳は吸い込まれそうなほど綺麗で、桜色の唇はもうたまんない。あの可愛らしい顔でお願いされると、叶えてやりたくなるんだよなあ。俺と似て頭は良いし、将来の王妃にぴったりだと思うぞ。…あ、もちろん性格は良い子だぞ。素直で大人しくて優しい子だ。
可愛くて性格もいいなんて、まさに女神だな。さすが俺の妹!!
何が女神だ。こんな女、どこにでも転がっていそうではないか。…その、見せてもらった小さい時の写真は、可愛かったが。将来はどんな女になるのだろうかと期待していたのに、どの過程で神は間違えてしまったのだ。
彼女を見ると、困った顔をして魔法陣の中に座り込んでいる。仕方なく手を差し伸べると、突然彼女の身体は傾き、そのまま気を失って倒れた。
原因は、召還によるものだった。完全に成功とは言いがたいものだったらしい。
当分、視力や聴力なども失われた状態になるらしい。
彼女を抱き上げ、妃の部屋に連れて行く。彼女は想像以上に軽かった。細身ではあるが、その身体は女性らしく、柔らかい。
…というか、この服露出が多すぎやしないか?腕や足が剥き出しになっているし、胸元も、見えている。
俺は思わず彼女から目を背けたが、腕から伝わってくる感触に体が熱くなった。
部屋に入り、彼女を寝台に下ろす時、彼女の顔から眼鏡が、落ちた。
俺は、彼女に目を奪われた。
すっとした鼻筋、小さな唇…その顔は整ってあまりにも美しいものだった。つやのあるウェーブのかかった黒髪は流れるように広がり、白い肌と対照的だ。瞼に隠された青い瞳が見えないのが惜しかった。
あの時俺は、彼女に一目ぼれした。
それから、俺は目を覚まさない彼女の元に通いつづけた。
視力のない彼女は、食事を口にしなかった。警戒しているのだろう。
俺は彼女の手を握っていることしかできなかった。彼女が、そっと手を握り返してくる。その手に、いとおしさがこみ上げてきた。
絶対にこの手を離さない…そう思った。
彼女は目が見えるようになっても、何も食べなかった。食べさせようとすると、顔をそむける。
「どうして、食べないんだ…」
俺は弱った彼女の身体を抱きしめた。彼女は抵抗もせず、腕の中に収まっている。
大人しくしていた彼女が突然、俺の胸を押して離れようとした。俺は抱きしめたままでいたが、あまりにも抵抗するのでしぶしぶ彼女を解放する。
彼女は、俺の手を取ると手のひらに何か字を書いた。
俺が理解できず、もう一度書くよう促すと彼女はゆっくり書いてくれた。
――――毒。
だから、食事を口にしなかったのか。なぜ、彼女がこの国の文字を知っていたかは気になるが、それ以上に毒が混入されていた事実に驚いた。
「すまない」
俺は気付けなかった自分が許せなかった。
謝罪の気持ちを込めて彼女をそっと、抱きしめた。
犯人は、結局分からなかった。
それから俺は、彼女の食事係を毎日担当するようになった。正直内心は嬉しくてたまらない。…好きな人と一緒に過ごせるのだから。
スプーンを彼女の口元に運ぶ。
彼女は不服なのか、むすっとした表情で顔をそむけている。
自分で食べられると言いたいのだろうが、俺はあえて知らないふりをする。
予備のスプーンに手を伸ばそうとする彼女に、俺がスプーンを渡さないでいると、しぶしぶ彼女は口をあけ、食べ物を口にした。
もぐもぐ咀嚼を繰り返している口元はとても可愛らしい。
「おいしいか?」
そう問いかけると、彼女はにっこり笑った。
その笑顔に思わず見とれてしまう。
俺はたまらず彼女の額に口付けを落とした。
困った顔をする彼女は、とても可愛らしかった。
彼女は何日かすると身体は回復した。もちろん耳も聞こえるようになっていた。
俺は、彼女と意思の疎通を試みようとレオンの教えてくれた英語とやらで話しかけた。
彼女は声を上げて笑っていた。どうやら俺の発音が悪いらしく、通じない。
「英語が通じないなら、どうすればいいのだ…」
「この世界の言葉で喋るという選択肢は?」
彼女はなぜかこちらの言葉が話せた。なぜだ?勇者のレオンでさえ、意思の疎通には苦労したというのに。まあ、彼は頭が良かったのですぐに言葉を覚えたが。
「名乗ってなかったわね。私は白鳥 瑠那よ。…リーウェン国王太子、アルヴィアス殿下?」
彼女は呆然とする俺にくすりと笑った。
なぜ、俺の事を知っている?彼女は異世界で育ったはずなのに。そういえば彼女は、混乱している様子がない。
…まさか、この世界の存在をを知っていたのか?
「今まで面倒見てくださって、ありがとうござました。そろそろ、ここを出て行くわね」
俺は慌てて彼女の腕をがしっと掴んで引き止める。
「出て行く必要はない。俺はお前の妻だからな」
「………は?」
彼女の体がぴしっと固まった。
「……何で結婚?」
「お前の身を守るためだ」
「私は同意した覚えないのだけど」
「緊急事態だったのでな。兄が代筆で署名した」
俺は彼女に婚姻届を見せた。
すると彼女はとんでもないことを言った。
「これ、私の名前が違う」
「…嘘だろう?」
「違うというか、本名じゃない…てことは、婚姻は無効ね」
彼女は、俺を見てにこっと笑った。
「残念だな。国民には発表を済ませてある。お前の名が本名であろうがなかろうが婚姻は取り消せない」
「え~」
彼女は不満そうな顔をしたが、結婚に関してそれほど気にしているようでもなかった。
「………で、本名は?」
「教えないわよ。政治的に利用されるだけだから」
「政治的価値のあるものなのか?それはぜひ知りたいな」
彼女の顎に手を添えて、こちらを向かせる。彼女はそれに動じることはなかった。
彼女は、渋るのかと思ったらあっさり名乗った。
「セレイア。本名は、ルーナリーフィア・セレイア」
「なっ」
…彼女の名乗った姓。それは、何年か前に滅んだ王国の名前だった。彼女は、王女、ということか?でも、王には後継ぎがいなかったと聞いている。
というか、彼女はこちらの世界の者だったのか。どうりで言葉には困らないはずだ。
「今考えたこと当ててあげようか?―――政治の書が欲しい…でしょ?」
「………」
…政治の書、というのは代々セレイアの王族が受け継いでいるものだった。彼らは優れた政治的手腕で自国を発展させていった。彼らの政治を助けていたのが政治の書であると言われている。それには、国を統治する方法が書かれているらしい。
政治に携わる者としては、のどから手が出るほど欲しい物だった。
しかし、国がなくなってからは行方が分からなくなっていた。…まさか、彼女が持っていようとは。
「ほーら、当たりっ!持ってるわよ、今、見せてあげようか?」
そう言って彼女はどこからか本を取り出す。
「よこせっ」
「嫌だ」
「見せてくれるぐらい良いではないか…」
「ま、欲しいならこれからは私を丁重にもてなすことね」
彼女は、悪戯っ子のような笑みを浮かべて言った。
今…確かに彼女は「これから」と言った。
俺は嬉しかった。彼女がまだそばにいると言ってくれているようで。
「ルーナ、お前のことが好きだ。愛している」
思わず胸のうちに秘めていた思いを口にしてしまった。
彼女は驚いて目を見開いている。
呆然とする彼女を、強く抱きしめた。
これから、じっくり彼女を惚れさせることにしようか。




