タンゴの赤オニ青オニ
赤鬼さんは近くの村人たちと仲良くなりたいと思っていました。
霜月透子様主催のひだまり童話館*「またねの話」参加作品です。
むかしむかし、丹後の国の大江山に、なかのよい二人のオニさんがすんでいました。
ひとりはツノが一本の、女の赤オニさん。
もうひとりはツノが二本の、男の青オニさんです。
夜になると、月あかりの下で、ふたりは向かい合って手をつなぎ、くるくると楽しくおどりました。
山には、たいこのような足音と、えがおがひびいていました。
ある日、赤オニさんが、ぽつりと言いました。
「ふもとの人間さんたちと、なかよくなれたらいいなあ」
それを聞いた青オニさんは、しばらく考えてから言いました。
「じゃあ、ぼくがわるものになるよ」
「えっ?」と、赤オニさんは目をまるくしました。
「ぼくが村であばれて、きみがそれを止めるんだ。そうすれば、きみは人間となかよくなれる」
でも、赤オニさんは首をぶんぶんふりました。
「そんなこと、できないよ。だれかをこわがらせるなんて、いやだもの」
青オニさんは、何も言わずにうなずきました。
それから、何日かたちました。
大江山の近くの漁村で、ふしぎなことが起こりました。
海の水が、ずるずると引いていき、いつもは見えない海の底まで見えています。
「おかしいなあ」
村人たちは首をかしげました。
話を聞いた年よりの村長さんは、顔色をかえました。
「まさか…… 大津波の前ぶれじゃ」
そのときです。
「オニが出たぞー!」
という悲鳴が聞こえました。
浜辺では、赤オニさんと青オニさんが、金棒をぶんぶんふりまわしていました。
どーん!と砂浜をたたくと、砂けむりがもうもうと上がります。
「おらおら! この村はオレたちが占領するぞ!」
「いたい目にあいたくない人は、早く出ていってね!」
「わーはっはっは!」
「みんな早くしてっ。なるべく高いところに行きなさいっ!」
村長さんは、ハッとして、さけびました。
「みんな、今すぐ高い丘へ逃げるんじゃ!」
村人たちは、必死に丘まで走りました。
丘の上で、だれかが海を指さしました。
「あれを見ろ!」
沖のほうから、山のような津波がせまってきたのです。
津波は村をのみこみ、家々をおし流していきました。村人たちは、ことばも出ませんでした。
そのとき、丘のそばを、二人のオニさんが通りすぎようとしました。
「ちょっと待ってくだされ」
村長さんが声をかけました。オニさんたちは立ち止まり、村長の方をむきました。
「ほんとうに、ありがとうございます。わしらを逃がすために、わざとあばれたのじゃな」
オニさんたちは、頭をかきながら言いました。
「……バレてたか」
そのあと、二人は村の復興を手伝いました。
重い木を運び、こわれた家をなおしました。
夜になると、手を取り合って、見たこともない楽しいおどりを見せてくれました。
やがて村が元どおりになると、オニさんたちは山へ帰ることにしました。
去っていく二人に、村人たちはいつまでも手をふりました。
村の子どもたちも「またねー」とさけんで、大きく手をふります。
オニさんたちも、何度もふり返って手をふりました。
その夜、大江山では、いつもより少しだけ、やさしい音のおどりがひびいていたそうです。
* * *
「偉文くん。この話って歌の『赤鬼と青鬼のタンゴ』が元ネタ?」
安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に、従妹の暦ちゃんが遊びに来ている。
彼女はとても物知りの小学生だ。僕が書いた絵本の案を見ている。
「そうだよ。他に『泣いた赤鬼』とか『いなむらの火』という絵本のネタもいれている」
「ふうん。丹後の国って京都だよね。日本海側だから、津波は少ないと思うんだよ」
「うん。津波は太平洋側より数は少ないのは確かだ。そのぶん、住民が油断していて、たまに津波に来たときに被害が大きくなることもあるみたいだ」
絵本の『いなむらの火』は、津波がくることに気づいた老人が収穫した稲に火をかけるんだ。おどろいた住民が高台の稲のとこに集まって、津波の被害をまぬがれる話だ。
ちなみにこっちの舞台は大阪湾だから、太平洋側である。
「偉文くん。お話のラストは、鬼さんのおどりが村に代々と伝わって『赤鬼と青鬼のタンゴ』の歌になった。とすればいいんだよ」
「それは僕も考えたんだけどね。昔の日本でタンゴは合わないんだよ。リズムが違いすぎる」
「昔の日本の鬼の正体は、漂着した欧米人だった、という説もあるんだよ」
「西洋のダンスならありだけど、タンゴは19世紀の南米が発祥だからなあ……」
暦ちゃんは少し考え込んで、それからニコッと笑った。
この顔はまた変なことを思いついたかな。
「大江山の鬼だから、金太郎を登場させるんだよ」
いや、鬼退治してどうするんだ。




