ブランコ
僕は、この生活を始めてから、頭の中がぐちゃぐちゃになったりして、物が手につかなくなると、早めに予備校を出て、家の近くのブランコに腰をかける。
大抵は夜8時をすぎているから、公園には誰もいない。道路に面してはいるが、街路樹がうまい具合に影を作る。
耳に入るのは、僕を知らずに通り過ぎる、車やバイクのエンジン音。
僕だけの宇宙が、そこにはあった。
この揺れる腰掛けは、僕の脳内議論の、いわば議場のような場所だ。
今日の議題は、努力とは何か。
僕のしていることは、本当に努力なのかどうか。
人より劣る点数。結果だけを見ても分かることだ。僕は努力なんかできていない。
親に流されるままに受験をして、落ちて、また勉強して、そしてきっと---。
自分でも、この生活を変えようとはしたと思う。確実に去年よりは、明らかに成長している。しかしこれは、本当に努力の結果なのだろうか。
周りの生徒に合わせて、毎朝予備校へ行き、夜遅くまで机に向かう。これは本当に僕の努力なのだろうか。
みんなは自分で行きたい学校の勉強をする。僕は与えられた課題で手一杯になっている。これは努力と言えるのだろうか。
模試のやり直しなんて、みんなはすぐに終わるのに、僕は量からして倍以上もかかる。やり直してもまた間違う。覚えられない。わからない。努力とはどうやるのか。
頭がぐるぐる廻る。時間の無駄を自覚しながら、僕は寒空のブランコを漕ぎ始める。
伸びた足が砂を蹴散らす。その度に、渦巻いた議論が加速する。
僕には一体何ができるのか。
僕なりの努力、なんて思っても、それは単なる言い訳に過ぎないだろうか。僕の努力は、ただやったという言い訳を作るための、努力のふりなのだろうか。
僕は何を目指して勉強しているのだろうか。
本当に建築を極めたいのだろうか。いや、きっとこれは、知らぬままに流されて、訂正も努めずに放っておいた結果に過ぎないのだろう。
じゃあなぜ、浪人なんかしているのだろう。親にこれまで育てられたために、これまでの学歴を無駄にしたくないからなのだろうか。
僕はいったい、何がしたいのだろうか。
だんだんと加速するブランコは、ついに支柱の上端を超えた。
腕に広がる鈍い疲れが、上着の首元に当たる鋭い寒風が、僕の思考を途切れさせようかと、している。
今手を離せば、このまま頭でも打って死んでしまうな。きっとそうなったら、親は悲しんでくれるだろうな。
変に渦巻いた思考はもはや第3の方向へと舵を切ろうとしていた。
きいきいと甲高い音が響く公園には、僕の他には誰もいない。
目の前の木が茶色く萎びている。
遠く離れたマンションの、灯りが一つ、また一つ。
馬鹿げた考えに達してしまったことを鼻で笑い、僕はブランコを止めた。
着地。
寒さと疲れで痛む手をポケットに突っ込んで、僕は前を向いた。
煌々と並ぶ街頭は、防犯の係を全うしていた。
目線を上げると星が。
遥か彼方、微かに輝いて見えるそれは、僕の何千倍もの命を過ごしている。
悩むことなんてなく、ただそのままに。
ぱらぱらと間引かれた星たちは、僕を見て何か言葉をかけるでもない。
目の前の電灯の方が遥かに明るいのに、僕にはその輝きがとても眩しかった。
処女作です。
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