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エピローグ
数十年後。
近代的な建物の一角に、
「戦中報道資料館」と書かれたプレートが掲げられていた。
展示室の中央には、
一冊の古い原稿がガラスケースに収められている。
《死者の暗号――国家が殺した真実》
その横に、小さな札。
「寄贈:不明」
ガラス越しにそれを見つめる一人の学生が、
友人に呟いた。
「すごいな……これ、本当に戦時中に書かれたのか?」
友人が頷いた。
「うん。
でも作者の名前は、結局わからなかったらしい。
誰かが残して、誰かが繋いだんだって。」
二人の会話が遠ざかる。
展示室の照明が落ち、
ガラスケースの中の原稿だけが淡く光を放っていた。
ページの隅、かすかに見えるインクの跡。
それはまるで、こう記しているように見えた。
「記録は生きている。
語る者がいる限り。」
「国は滅んでも、記録は死なない。
人が語り、人が書き、人が思う限り――
それが、未来の“桜機関”になる。」
― 終幕文




