第4話 排水路
「じゃあ、開けマスヨ」
「よし、行ってみよう!」
ポールはフゥ......一つ大きく深呼吸すると、ハッチの中央に設置された円形のバルブを時計と逆に回し始めた。
少し錆び付いてはいるものの、比較的小さな力でバルブはどんどん回って行く。ギーコー、ギーコー......
「凛サン、この向こう側ガ排水路ッテコトハ、開けた途端にドバー! ウワァー、ヤラレタッ! ナンテことは無いデスヨネ?」
「まぁ、どうだか......有り得ん話でも無いわな。でもそん時はそん時だ。また考えようや」
石橋を叩いて渡ることは確かに重要。かと言って、あまり石橋を叩き過ぎても、先に進めない。きっと彼女はそんなことを言いたかったのだろう。
それ以上ポールは何も言わなかった。ただ無心にバルブを回し続け、それが開く瞬間を待つばかりだった。
やがてそうこうしてるうちにも......
ガチャン。何の支障も無く、バルブを最後まで回し切るポール。
「じゃあ、開けマスヨ。いいデスカ?」
額に浮き上がった油汗を拭いながら、開錠レバーに手を掛けると、
「どうぞどうぞ、いつでもどうぞ」
余裕の表情を浮かべながら余裕の返事をするリーダー凛だった。その余裕は一体どこから来るのかは全く不明だ。でもまぁそんな経緯で、
ガチャン。
ポールは言われた通りにレバーを下へ落とす。すると僅かな隙間から、多量の湿気を含んだ生暖かい風が吹き込んで来た。
どうやら、濁流が流れ込んで来ることは無かったらしい。それだけでも救いと言えよう。
「じゃあこの先は、これを頭に付けるべし」
見れば凛は、ヘッドライトをポールに差し出してる。当たり前の話では有るが、ここから先の排水路に照明などと言う気の効いた設備が有る訳無い。中々用意周到な凛だっだ。
今2人が足を踏み入れた場所は、予想に違わず排水路。高さ、横幅、共に3メートルを優に超える非常に大きなものだった。
水はと言えば、足首程度の高さをチョロチョロと流れてるだけで、通行する上で支障となるようなものは、ほぼ皆無と言えた。
強いて障害を挙げるとするならば、それはほぼ100パーセントに近いような湿度と、自然に汗ばむ程度の蒸し暑さくらいなものだったであろう。
ちなみに上流側、即ち左側に目を向けてみると、そこは完全なるブラックホール。一体どこまで続いてるのか想像すら出来ない。
また逆の下流側、即ち右側に目を向けてみると、遥か遠くの先に僅かながらの光が見え隠れしている。その光源は全く持って不明だ。
果たしてこれから進むべき道は、ブラックホールなのか? それとも光なのか? その答えを知ってる者が居るとすれば、きっと彼女だけだったのだろう。
「凛サン、どっち?」
「君ならどっちだ? ポール君」
「左のブラックホールでショウ。右へ行ったら、セッカク排水路に入ったのに、外へ出ちゃいソウデス」
「ならそうしよう。ポール君が言うなら間違いな無いんやないか?」
「イヤ......そう言う問題じゃ無いト思うんデスケド......。分かりマシタ。ジャア、左へ進みマショウ」
この時ポールは、凛と言う公安のチームリーダーの人物について、少しだけ分かって来たような気がしてた。
当然のことながら、この炭鉱跡の地形について多少なりとも理解してるのは凛だけだ。にも変わらず、何かを聞いた時、彼女はまず『君はどう思う?』と必ず返して来る。
きっと今のやり取りも、
まずは自分で考えてみろ! 考える前に指示を貰って動くだけじゃ成長しないぞ!
多分、そんなリーダー本能が働いた結果の会話だったに違い無い。
なので、ポールが選んだ左へ進むと言う道は、きっと凛の選んだ道と一致してたんだろう。命掛けの選択な訳だから、さすがに違ってたら言う筈だ。
やがてそんな心理を理解したポールが、ブラックホールへと向かって第1歩を踏み出して行ったその時のこと。
ゴゴゴゴゴッ......
「ちなみにポール君、君は今右へ進んだらせっかく入った排水路から出ちゃうって言ってたわな?」
ゴゴゴゴゴゴゴッ......
「エエ、言いましたヨ、ダッテ朧気に光が見えたモンデ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「自分優秀やな。確かにその通りや。じゃあ何もトンネル何か掘らなくても、そこから入ってくればいいじゃん! なんて思ったりしたやろ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「エエ、ソウ思いマシタヨ。デモそれが出来ないナニか大きな理由が有るんでショウ?
ソンナことより、なんですカネ? 何かブラックホールの向こうカラ、ゴゴゴゴゴッ! って聞こえて来てるんデスケド」
ブウォ~ン! ブウォ~ン!
ゴゴゴゴゴッ!!!




