第2話 ハッチ
「もしかシテ......ハッチ?」
「昆虫物語みなしごハッチじゃ無いぞ」
「凛サンって......もしかして昭和のヒト? みなしごハッチは知ってテモ、昆虫物語から知ってるヒトって、あんま居ないと思うんデスケド」
「そんなのどうでもいいわ。さぁ、開けるわよ!」
「ヘイヘイ......」
自分からボケといて、その返しは無いだろう!
などと思いつつも、こんなところで時間を浪費してる訳にもいかない訳で、渋々凛の会話に合わせる大人のポールだった。
すると凛は、直ぐ横に置いてあったバールでハッチをこじ開ける。中々用意周到だ。
「さぁ、降りるべ。外は寒いさかいな」
「タシカニその通り。オリマショウ」
正直この時、ポールはこの下に何が有るのか全く分からなかった。せいぜい小さな部屋が一つ位有って、そこに武器でも置いてあるのかな? 程度にしか思って無い。
そんな下の情景を頭に浮かべながら凛後に続いて、鉄ばしごを1段、また1段と慎重に降り続けるポール。
実際のところは真っ暗で何も見えなかった。このはしごがどこまで続いてるのかも分からないし、どれだけ頑丈なのかも分からない。突然はしごが壁から抜けて、フリーフォール! 何てことも有ったりして......
結局のところ、そんなネガティブ妄想を繰り広げたところで、今更乗り掛けた船から降りれる訳も無かったのである。
そんなこんなで慎重に降り続けること15段。ようやく無事に地面へと足を着くことが出来た次第。多分4~5メートル程度地中に降りた筈だ。
やがて凛は、ピカリと懐中電灯を灯す。すると、
「おう、有った有った......ここや」
そんな言葉を発するや否や、
バチッ。
何かのスイッチを『ON』にしたのである。
ピカッ!
「ウッ、眩しい!」
その途端、ポールの想像を遥かに超えた飛んでも無い景色が眼前に広がりを見せる。
「コレハ......」
「凄いやろ。これはうちらのチームの努力の結晶なんだぜ。見ての通り『大脱走』や!」
今ポールの眼前に広がってるもの......
それは彼女の言った通り、伝説の映画『大脱走』そのものだった。
「ト、ト、ト、トンネル?!」
つまり、それだ。
「これはな......みんな死んじまったけど、うちらチームが命を掛けて造り上げたものなんや。みんなの死に報いる為、今あたしはここに居る訳やな......」
そんな風に語った凛の目からは一筋の涙が......
このトンネルがどこまで続いてるのかは不明だが、ここに至るまできっと至難の連続だったんだろう。
これまで弱い姿など1度も見せて無かった凛。それだけにそんな凛の涙は、火炎放射機の如く、強烈な印象をポールに与えた。それと同時に、
チーム......
凛の口から出たそんな言葉を聞いて、ポールの頭には直ぐに3人の顔が浮かび上がって来た。
圭一サン、美緒サン、そして......エマサン。
今皆さんは無事なんでしょうか?
凛さんのチームの人達みたいに、死んだりはしてませんよね?
ここまで自分のことだけで精一杯だったポール......そんな彼は、今ここに来て急にホームシックに掛かってしまったのである。
シュン......
「おっとすまん、すまん! ついつい思い出しちまった......そんなことよりだな、この先の話をしとかんといかんな。
調べに寄るとこの炭鉱はアリの巣みたいに張り巡らされてるらしいんや。ちなみにこのトンネルは、人目につかん排水路まで掘ってある。
そこから先は、極秘で入手した地図通りに進むって寸法や。まぁ、地図の信憑性は未知数なんやがな」
話は少し逸れるが......
凛がこのトンネルを映画の『大脱走』に例えたのには大きな理由が有る。
そんな理由とは、
①トンネルの間口が人一人うつ伏せになって、ようやく通れる程度しか無いこと。
②そんな狭いトンネルには、2本のレールが敷かれてて、そんなレールの上にトロッコが乗っかってること。(うつ伏せに乗るタイプ)
③更にトンネルの終点まで、天井に等間隔でライトが設置され続けてること。
まぁ、理由はそんなところだ。
(以下参考)
『大脱走』(だいだっそう、原題: The Great Escape)は、1963年公開のアメリカ映画。戦闘シーンのない集団脱走を描いた不屈の名作映画。監督はジョン・スタージェス。出演はスティーブ・マックイーン、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー、ジェームズ・ドナルド、チャールズ・ブロンソン、ドナルド・プレザンス、ジェームズ・コバーン 、デヴィッド・マッカラムなど。




