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第2話 死の予見

 その後の俺たちの快進撃を止められる者はいなかった。


 俺は未来が見えることは仲間たちにも秘密にしていた。そして、眼鏡が見せる未来をもとに、敵を倒していった。位置的に難しい場合は、味方に情報を伝えて、敵を撃っていく。この連携によって俺たちは負けなしだった。


 相手がランカーともなると、苦戦を強いられることもあった。未来の見える俺であれば、自分の死を回避するのは難しくないが、他の仲間はそうはいかない。


 そこで、俺は先行しすぎない程度に、前に出て、できるだけ敵の注意を俺に向かわせることで、上位ランカーを相手にすることにした。


 上位ランカーだけのことはあって、撃たれる瞬間はすぐに見えてきたが、これを回避するのは難しくなかった。例え、背後から撃たれたとしても、背後から来るという事実が分かるのだから、対策は取れる。


「向かいの茂みに注意をしてくれ」


 俺は物陰に隠れて、周囲を伺いつつ、味方に情報を流した。はっきりと相手を見ていないので、隠れられそうな場所に注意を促すことしかできない。しかし、その予想はドンピシャだった。


 民家の庭の茂みから相手のアバターが出てくると、ゾップがすぐさま弾丸を撃ちこみ、まずは一人目を倒すことに成功した。


 こうして、死を予見できる俺がおとりとなることで、上位ランカー相手に勝利を勝ち取った。途中でタクとキャットがやられてしまい、全くの無傷というわけにはいかなかったが、俺たちは喜び合った。


「ここ最近、ハヤマルの調子がめっちゃいいじゃんか」


 タクが嬉しそうにそう言った。


「まぁね」


 未来が見える眼鏡なんて信じてもらえないと思って、俺は適当に相槌を打った。


「なんかいいことがあったとか?」


 タクがそう言うと、すかさずキャットが「彼女ができたとか?」と言ってきた。


「そんなわけないじゃん。会社に行くか、イツメンでゲームしている俺に、出会いなんかないよ」


 そう言って、喋っていると、のどが渇いてきた。そういえば、ドリンクの買い置きを忘れていて、冷蔵庫には飲み物がないのを思い出した。ちなみに、今の冷蔵庫には消費期限が不明のマーガリンしかない。


「ちょっと、コンビニで買い物してくるからさ、適当に時間潰してて」


「オッケー」


 仲間たちの了承が得られたので、俺はヘッドホンを外した。みんなを待たせまいと急いでいた俺は、財布とスマホだけ手に持つと、すぐに家を飛び出した。


 マンションを出て、表通りを目指した。表通りにはコンビニが数件あるが、ここから一番近い青い看板のモーソンに行くことにした。住宅街を抜け、表通りに出て、モーソンの位置を確認すると小走りで向かった。


 モーソンまであと目と鼻の先というところで、俺の眼前に白い車が突如現れ、俺の視界はその車で覆われた。フロントガラスの向こうで気を失っている運転手の姿まではっきり見えた。


「うわあああああああ」


 俺は思わず大声で叫んでいた。そして、その場に立ち止まり、自分の体を触った。何ともない。どこも痛くない。それどころか、俺の目の前には車もない。


 人が行き交う表通りで大声を出したことで、仕事帰りのサラリーマンやOLから好奇の視線に晒されていることに気が付くと、急に恥ずかしくなってきた。何だったんだ、今の光景は。そんなことを考えながら、目の前のコンビニに向かおうと足を動かした次の瞬間。


「ガッシャーン」


 目の前のコンビニに一台の車が突っ込んでいった。それと同時に様々なものが破壊される音があたりに響き渡った。そのことで辺りは騒然となり、周囲のOLが甲高い叫び声をあげ、体格の良い男性が怪我人がいないか声をかけていた。


 騒然とした周囲の状況とは反対に、事故の現場を俺は茫然と見ていた。車のボディカラーは白だ。さっき俺が見たのと同じ車だ。どうなっているんだと、俺は頭を押さえようとして手に硬いものが当たる感触に気が付いた。


「眼鏡、かけたままだ」


 その時、気が付いた。この眼鏡をかけていたおかげで、俺は事故に巻き込まれずに済んだのだ。きっと、あのままコンビニに入ろうとしていたら、突っ込んできた車に引き殺されていただろう。


「ははは、すげえ。現実でも使えんのかよ」


 これさえかけていれば、事故に巻き込まれそうになっても、それを回避できる。そうそうないことだが、死を回避できるならそれに越したことはない。俺は事故の現場には不似合いなにやけた顔をしていた。そして、事故に巻き込まれなかったこと以上に、この眼鏡の効果に興奮していた。



 次の日から、俺は会社に行くときも眼鏡をかけるようにした。会社の同僚などからは視力が落ちたのかと心配されたが、ただの伊達メガネでファッションだと言った。ファッションを言い張るにはこの眼鏡は少々野暮ったいデザインなので、周囲の人間はあまり納得はしていなかった。


 仕事を終え、駅前のスーパーで夕飯の弁当を買うと、帰路についた。駅前では飲み屋の店員が呼び込みをし、何人かのスーツの男女が店に入っていく光景が目に入った。


 俺は下戸だし、リアルの飲み会なんて面倒なだけだと常々思っている。それよりも、オンラインで顔も知らない友人たちとゲームをしている方が何倍も楽しい。今は早く家に帰ってゲームをすることしか頭になかった。


 その時、俺の視界が何かで覆われ、真っ暗になってしまった。何事かと思い、その場に立ち止まり、周囲を見渡した。しかし、いつの間にか視界は戻り、辺りはいつもの駅前商店街の光景が広がっていた。


「また、未来が見えたのか?」


 しかし、状況が不明瞭だった。何が起きたのか分からず、このまま前に進んでよいのか分からず、俺は10秒ほど、その場にとどまった。すると、数メートル先の工事現場の足場が不自然に変形していくのが見えた。


「ガシャガシャ、ガシャーン」


 足場が崩落し、金属パイプなどが大量に落下してきて、商店街の道の一部が瓦礫に覆われた。そこは、俺がいつも歩いている道だった。立ち止まらず、歩き続けていたら巻き込まれていただろう。また、命拾いした。


 しかし、その時の俺の中は喜びとは程遠い感情に支配されていた。


「昨日の今日で、また死にそうになるなんて、ある?」


 俺は死を回避できた喜びよりも、自分の周りで起きていることに恐怖した。

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