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9 決別 



 

 この事態が発覚するまでは仲睦まじかったはずのリーゼとレオナルトは、言い争いの果てについにリーゼがレオナルトに手を出した。


 ぱちんとはじけるような音が鳴って、リーゼを罵っていたレオナルトも、パニックになっていたヘルミーネも、何とか場を収めようとしていたヴァネッサも静まり返ってリーゼに注目した。


「はぁっ、っ、はぁ、好き勝手言って、何もかも全部台無しですわ。レオナルト、あなたの事などもう顔も見たくありませんわ」


 先ほどの言い合いによって息を切らしたリーゼは、黙り込んだ彼に偉そうに言い放った。


 しかし、一瞬の間をおいて、今度はガツッという鈍い音が響いてリーゼは転倒した。


『おお、こりゃ大変じゃ』

 

 隣でニコラはすこし楽しそうにそう口にした。


「なにが顔も見たくありませんわ、だ、こっちだって願い下げだ。ふざけんな。お前のせいで俺だって最悪だ!」

「っ、っ、はっ、っ~! ぶったわね!」

「当たり前だろ殴られたんだから殴り返して何が悪い!」


 涙声で続けるリーゼにレオナルトも声を荒らげて、応戦する。


 もはや誰にも止められない状況な気もしたが、ラウラはひとつ息をついてから金庫のそばへと向かった。


『ニコラ』

『うむ?』

『こうして私にできることをしてみたけれど、結局こうして私の今までを捨てて行動を起こしても、結果はこれなのね』

『……』

『この騒動が私がここにいたっていう唯一の証、結局この人たちはどこまで行っても、自分の事しか頭になくて私は認めてほしいと思って頑張っても利用されただけだった。


 どこで家族と歯車がかみ合わなくなって、私はこんな風に透明になってしまったのかわからない。


 でも、どうしようもない事にいつまでもしがみついていたって、意味はない。 


 私の価値を認めてくれる場所へと進まなければ停滞している彼らと何も変わらないね』

『ああ、そのとおりじゃ。ラウラ』

『よし。そうと決まれば、私だって自由に振る舞う!』


 そういって、ラウラは彼らの真ん中で透明化の魔法を解いた。

 

 今まで透き通っていた自分の体は当たり前のように実態を持ち、声の響きも透明化しているときとは少し変わる。


「っ!」

「ひっ、え?」


 ラウラが突然現れたことによって、ヴァネッサとヘルミーネは同時に驚き、声をあげる。


 その声はお互いを睨みつけていがみ合っている彼らにもとどき、ラウラは一瞬の間に注目を集めた。


「……」


 この人たちは結局、ラウラが仕掛けたことについて考え直したりラウラの事を認めてくれることもなく、自分たちの事ばかりだ。


 特にリーゼなんて自分の使い込んだお金をラウラのせいにして、言い逃れをしてラウラを追い出そうとまで考えていた。


 ラウラはいつだって彼らに誠実で認めてほしくていい子にしてきた。


 しかしそれは報われない。


 報おうと思うだけ彼らにそもそも尊重されていない。


 だったら、ラウラだって尊重してやらない。


 もう縛られる人生は終わりだ。


「人の婚約者を奪って置いて結局、こんな程度の事でそんな罵りあって見苦しいわね。リーゼ」

「な、なんですって?!」

「あなたは私を使って全部うまくやるつもりだったみたいだけど、そうはいかない。というか優しくしているからって都合のいい人間ばかりだと思わない方がいいと思う」


 顔を真っ赤にして怒るリーゼを無視してラウラは振り返って、ラウラの仕事にも気がつかず、自分の事ばかりで頭がいっぱいで仕事をしなければ家族ですらないと考えるヴァネッサに目線を向けた。


「ヴァネッサお姉さま、お姉さまは確かに大変な地位にいると思います。でも将来の事ばかり考えてストレスをためることよりも、もっと目の前の見えてない事が多すぎたんじゃないですか?」

「……ラウラ、あなたどうやってこんなことを……」

「お母さま、私はあなたにとって透明で存在しない方がいい人間だったと思う。


 それでも私は認めてほしかった。だからこそ今まで尽くしてきた。


 けれどもその気持ちすら利用して、透明で無視してもいい存在を自分たちの利益になるように扱うような家族にはもううんざり。

 

 私は一人で勝手に消えます。ずっと消えてほしいと思っていたみたいだし、今までの無償の奉仕で育ての恩は相殺してね」


 ヴァネッサはこの状況になってやっとラウラの名を呼んだ。


 今まで何度呼びかけても何も言わない、無視してもいい相手だと軽んじていたくせに。


 そして母はやはりラウラの言葉を聞いても目を合わせず顔を背けて、小さくなっていた。


 ……それでもかまわない。もう出ていくんだから。


 また透明化の魔法を使ってこの場所とはおさらばしようと考えてから、ふと存在を思い出してラウラは最後に言った。


「ああ、そうだ。レオナルト。私、あなたの事がちゃんと好きだった。けれどあなたは私の家族に同調して、さらに助長させるような嫌がらせもして結局私の事を蔑ろにした。


 された分だけの仕返しとして、あなたの事ちゃんとご実家にお伝えしているから早めに帰った方が身の為よ」


 そういって、ラウラはまた姿を消した。


『おう! これで心残りなくスッキリ行けるな』

『うん。いこうニコラ』


 ラウラが目の前で消えたことによって、彼らはひどく驚いて口々に恨み言や、ラウラに対する暴言を吐いたりするが、もうそんなものなどどうでもいい。


 そう思えて、ラウラはやっと透明人間から脱却するための道を進み始めたのだった。





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