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8 リーゼの計画 その二




 今、金庫が開いて、これからの対策に話が行き、鍵の行方について言及されないような事態にはならないとリーゼはほくそ笑んだ。


「……あれ?」


 しかしリーゼの計画とは違って、その金庫はキイと音を立てて簡単に開いたのだった。


 ……は?


 金庫の扉をひらいたヴァネッサは目を丸くした後、何かを見つけた様子で金庫の中へと手を伸ばした。


 そこには何もないはずだ。


 だってリーゼが色々と欲しいものを買ったり、レオナルトを着飾るために高価なプレゼントを買っていたらすっからかんになってしまったのだから。


 ……何? どうなってるの?


 ヴァネッサは大きさの違う紙が一つにまとめられている綴りをパラパラとめくって見ていた。


 そしてそれに興味を惹かれたヘルミーネも同じようにその紙束を覗き込んだ。


 そしてめくっていくごとに次第に彼女たちの表情は険しいものになっていき、リーゼとレオナルトとその紙束を何度も見比べて、驚愕の表情を浮かべた。


「そんな、ありえない。嘘だと言って?」

「……」


 母はそうつぶやき、最後の一番上のページにまじまじと目を通すヴァネッサはひくっと頬を引きつらせた。


「リーゼ、あなたなんてことをしてくれたんですか」


 ひどく冷たい声がして、リーゼは何かまずい事が起こっているとそれだけは理解して、意味が分からないながらもヴァネッサの手元から紙束をひったくるようにして奪い取った。


「な、なんなのよ! こんなもの入れた覚えなんて……」

「リーゼ、何が書いてあるんだ?」


 隣にいたレオナルトもリーゼと同様にのぞき込んだ。


 急いで紙をめくっていくとそこには、リーゼの名前で買った高価な商品の契約書がずらりと並んでいた。


 ……こんなもの、どうしてここにありますの!


 そして最後の一番上のページにはリーゼが任されたアマランスの花代のすべてを使い込んだことを証明するように、アマランスの花代として貰った金額と使い込んだ金額が丁寧に計算されて記載されている。


 さらに、ヴァネッサに向けて『どちらがごく潰しか理解できましたか? お姉さま。ラウラより』という文まで添えてあった。


 ラウラやリーゼの仕事の管理をしているのは姉であるヴァネッサである。


 今までラウラのやった仕事も全部リーゼがラウラの部屋から勝手に持ち出してすべて自分の名前に書き換えて提出してきた。


 そんな妹の字体だと思っていた、文字を書きなれた美しい文章の字が、ラウラのものだと示すのにはもってこいの言葉にヴァネッサはすべて気が付いたのだろう。


「嘘よね。リーゼ、嘘だと言って? きっと何かの間違いよ」

「鍵をなくしたんなんて嘘をついて、人に取られたことにしようとしていたという事ですか、リーゼ」

「ヴァネッサそんなのどうでもいいじゃない! お金は! お金はあるんでしょう?! 


 使い込んで一人だけ贅沢をして、ディースブルク伯爵家全体の収入になるはずの販売用のアマランス花代を使ったなんてそんなはずないわよね?!」

「お母さま、落ち着いてください。今はきちんと話をしなければ」

「落ち着いてなんていられるものですか! どうするの! お金がないのよ! アルノルト様になんていわれるか! もう討伐祭は三日後なのよ?!」


 取り乱してヘルミーネはリーゼに縋りつくようにつかみかかってくる。二の腕にぐっと爪が食い込んで酷い痛みが伴う。


 ……は? はぁ? なにこれなんで私が責められてるわけ?


 わたくしが悪いっていうの?


「わかった! その男にたぶらかされたのね! そうなのね! だからこんな高額な買い物をしてしまったのね!」

「な、そんなわけないだろ」

「でもこの請求書にあるこの指輪! そのブローチもつけているじゃない!!」

「こ、これはっ勝手にこの女が寄越してきただけで俺は何も知らないぞ!! それにもう貰ったものだ今更返せと言われても無理だ!!」

「二人とも落ち着いてください。リーゼ、私が気になるのはあなたの筆跡だと思っていたものがラウラのものだったという事実です。あの子は勝手に引きこもって仕事もせずに貴族としての役目も果たせない。


 そんな相手と結婚なんてレオナルトが不憫だといったのはあなたではないですか」

「とにかく、こいつが羽振りがいい理由なんて俺は知らなかった! 一族の事に俺を巻き込まないでくれ!」

「じゃあお金はどうするのよ!!」


 ヴァネッサは落ち着けと言いながらも、リーゼに矢継ぎ早に仕事の件を聞いてくる。

 

 使い込んだお金の話も、仕事の件もどちらもこんなのデタラメだと言いたいのに、話が混乱していてどこから否定すればいいのかわからない。


 けれどもおかしい、こんなのはおかしいだろう。


 だって今まで全部うまく言っていた。それなのに、どうしてこんなことだけで周りの評価がこんなにも変わるのか。


 リーゼは間違っていないだろう。


 ただラウラを利用してうまくやっていただけだ。周りをうまく使って自分の評価をあげて楽しく生きるのだって資質だろう。


 間違ってないはずだ。


 利用してやっただけのはず、それがどうしてこんなに責められているのか。


 あんなに贈り物をしてやったレオナルトまでなぜリーゼの味方をしてくれないんだ。


「とにかく、このことはお父さまに報告して、しかるべき措置をとる必要があると思います。それに知っていても知らなかったとしてもレオナルトに贈ったものが使い込んだお金ならば、返してもらわなければなりません」

「そうよ、返しなさい! 今すぐに! 討伐祭に間に合うように!」

「だから、俺は関係ないだろ! こいつが返せばいいんだ。そもそも可愛いだけで何のとりえもない女なんだから娶ってやるのに贈り物の一個や二個、十個や二十個貰ったって足りないぐらいだ! 

 

 それを受け取ってやっただけだってのに、なんでこんなことに巻き込まれなければならないんだ!


 俺は知らん! 責任はお前ちゃんととれよ!」


 言いながらレオナルトはリーゼの事を突き飛ばして、自分はリーゼからは離れようとしていく。


 しかし今までまったく反応できずにいたリーゼは、レオナルトの言葉と行動に目が覚めたかのように彼の腕にしがみついた。


「な、なによ! あなたわたくしの事愛しているって言っていたじゃない! どうせ気が付いていたんでしょう! 喜んで受け取ってましたわ!」

「リーゼ! やっぱりここに書かれていることは事実なんですね。お母さま兵士を呼んできてください、身内のこととはいえ立派な犯罪です!」

「そんなことよりお金はどうするのよ! リーゼ今すぐ全部返品してきて! あなたが全部悪いんだから!」

「このっ、口先だけの性悪男! わたくしは悪くないわ!」


 その場は混乱に包まれた。罪を糾弾し合い押し付け合い、やっとリーゼは正しくこの状況を認識し、とんでもないことになったと自覚した。


 そしてここに来た目的である金庫の鍵がテーブルの上にカコンと音を立てて出現したことに誰も気がつかずに醜い言い争いは続いたのだった。




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