45 贖罪 その二
ラウラもこのままいけばいつか彼らに会うこともできるかもと思ったが、今までずっと黙っていたリーゼは母の向こうの一番端の席から、満を持しイラついた声をあげた。
「なによ。これじゃ、本当にわたくしたちだけが悪いみたいじゃない」
つぶやくような押し殺した声だったが、すぐにヘルミーネが反応し、厳しい瞳をリーゼに向けた。
「リーゼ、何度も言ったでしょう。私たちが悪かったのよ。それにここで言う事ではないわ。あなたも謝罪をしたいというから連れてきたのに、どうしてそんなことを言うの?」
「だって、お母さまたちはわたくしを置いていく気だったでしょ? あの人が勝手に一人だけ贅沢して自分の好きなようにできるなんておかしいですわ! それを邪魔しないでわたくしたちが損をするなんてありえない!」
『はぁ、どうしようもないのう。人間の性根というのはそう簡単に変わらないものじゃな、ラウラよ』
「あんな、いてもいなくても変わらない地味な人、公爵家に嫁入りするなんてありえないわ。そうだ、フェリクス様! 今からでもわたくしをもらってくださいよ!」
「リーゼ!」
ヘルミーネはしかりつけるような声をあげたが、リーゼは暴走して勝手に立ち上がって自分をアピールするように可愛く笑みを浮かべてフェリクスに視線を向けた。
「リーゼ、やめてください! なんて失礼なことを言うんですか」
「あの人には適当に仕事でもさせておいて、無視しておけばいいのよ。それでも一人でぶつぶつぶつぶつ喋って楽しそうにしてる奇人なんですから! わたくしの方がずぅっと可愛いですわ!」
『どうする、ラウラ、いっそ魔法で痛い目に遭わせるなんてどうじゃ?』
ニコラはそういってふわりと飛んでリーゼのそばに寄った。
ラウラはそんなニコラの言葉に仕方ない気持ちになりつつ、ちょっとわらいながら、どうしようもない妹の目の前に向かった。
彼女以外の家族はきっかけがあって自分たちの間違いを認めることができた。しかし頑なにそれが出来ない人間もいる。
ラウラはそういう質なのは父アルノルトだとばかり思っていたがそうではないようだ。
リーゼのそばによって、ラウラは彼女の両肩に触れて、魔法を使った。
この透明化魔法には様々な使い方がある。
長時間使うのは一人分がラウラの魔力的に限界だが、一人分あれば十分だろう。
だってラウラはもう透明人間ではない。ラウラの姿が本当に消えている時だってその存在を見つけてくれる人がいるのだから。
「きゃあっ」
「……」
ラウラは自分の魔法をといて姿を現した。けれどもそれと入れ替わるようにリーゼは影も形もなくなって声もどこにも届かない。
自分の足元以外に干渉しないようにしてあるので、触れようとしたって触れられないだろう。
「ラ、ラウラ!」
「え、リーゼはどこ? なにどういうことなの?」
突然姿を現したラウラに彼らは目を白黒させ、代わりに姿の消えたリーゼにさらに混乱した。
しかし、その場にいたフェリクスだけは冷静に物事を見て、ラウラの肩を抱き、彼らに言った。
「落ち着いてくれ。……彼女は君らの良く知る神からの罰が与えられたのではないか?」
「よく知る神、ですか?」
「ああ、戦の女神だ。きっと自分の家族を蔑ろにし続けた彼女にそのつらさを思い知らせるためにかぶせたんだろう。古のアマランスの花冠を」
「そ、んな……」
「きっと罰が終わればいつか戻ってくるさ。それがいつになるかは知らないが……今はとにかく屋敷に戻って昔にそういう出来事があったのか調べることから始めたらいいのでは?」
言いつつフェリクスは、ラウラを連れて部屋から出ていく。
彼らはラウラ達を追いかけてくることはなく、彼の咄嗟の説明にラウラは驚きつつもほっとした。
気持ちに任せてやってしまったが、フェリクスが居なければもっと混乱状態になっていただろう。
それに数週間程度でラウラだって魔法をとく。
原因が不明でも、神様のせいだと言われて姿が元に戻れば納得せざるを得ない。
ちょっとばかり仕返しが出来ればいいのだ。それで彼女が懲りなかったとしても、ラウラはもう二度と彼女には会う気はないので問題ない。
「フェリクス、ありがとう」
「……正直驚いたが、まぁ、君がため込むよりずっとましだ」
ラウラのお礼にフェリクスは当たり前のようにそう答えて、その日は家族が帰ってからしばらく、一緒に過ごしてラウラの昔の生活について少し話をしたのだった。




