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 目が覚めるとラウラは、変な夢を見た気がした。


 確か戦の女神だと名乗る美しい人物と、協力して魔獣から人びとを守るというような内容で、それはディースブルクに存在する神話のような夢だった気がする。


 しかし記憶は遠く、はるか昔に体験した出来事のように鮮明には思いだせない。


 けれども一つだけわかることがある。そこではアマランスの花冠は実物ではなく、何かの技術として扱われていたという事だ。


 そしてそれは、今でいう魔法。それをラウラは知って、たしかにそれを受け取ったような気がする。


 けれどもうまく思いだせない、目を開ければ、すでに日が落ちているのか真っ暗で目の前には意識を失った時と変わらず、ニコラが美しい金髪をなびかせてそこにいるのだった。


『おお、良い具合に馴染んでおるなラウラよ!』

『……ニコラ? なにがあったのかよくわからないけれど、あの本はもしかして……』

『そうじゃ、ディースブルク伯爵の魔導書じゃ』


 笑みを浮かべながら彼女はそういい、ラウラは瞳を瞬いた。


 この屋敷にもそんなものがあったのだということにも驚いた。


 それにディースブルク伯爵というと現在は父である、アルノルト・ディースブルクであるがその人ではないことは確かだろう。


 ……ということは昔のディースブルク伯爵がこの魔導書を書いて、それが長らくこの場所で忘れ去られていたということになるの?


 ありえない事もないだろうし、実際問題、不思議な書物であることは事実だろう。これをラウラだけの秘密にしておくことなどできない。


 ラウラはすぐに立ち上がって、問題の魔導書を手に取ろうと手を伸ばす。


『っ、ひゃ!』


 しかし手を伸ばしたところで、すぐに異変に気が付いて、ラウラは飛び上がった。


 自らの手が半透明に透けていて、手をかざすと向こう側のキャビネットが見えるほどに存在が希薄になっている。


 それはちょうどニコラの羽の部分と同様に、キラキラとした魔法の光をはらんでいて、ラウラはあまりの驚きに口を開けたまま固まった。


『のう、ラウラ。お主はわしに対して思う所は沢山あるだろう』


 固まったラウラの指先にチョンと乗ってニコラは優しい声で言った。


 幼女のような丸い頬に柔らかそうな短い手足、着ている白いドレスは風になびいて少し揺れた。


『ただな、わしはお主の為を想ってお主に与えた。お主はどうしたい。この魔導書と力をもってしてディースブルクにさらに尽くし、その価値を証明することを選ぶか?』


 その問いかけは真剣そのもので、暗い部屋の中で淡く光る自分と彼女だけがこの世界に存在しているようであった。


『それとも、本物の透明を手に入れた今。その羽を伸ばすために飛び立つか……好きな方を選べばよい。わしは何も言わぬ』


 ……残るか、進むか。


 ニコラの問いかけにラウラは混乱している頭をいったん切り替えた。たしかに聞きたいこと、聞くべきことは沢山ある。


 今自分がどんな風になっているのか。


 本の名前からして魔法自体の想像は容易い、しかし魔力の関係や使い方など沢山知らなければならない事もある。


 けれどもラウラとニコラ、二人の本題はそこではないのだ。


 ニコラは常日頃からずっとラウラのことを支えてそばにいて認めてくれていた。

 

 そしてやってきた機会。


 確かに透明なラウラは家族にその存在を認めてほしい、けれども、彼らはラウラに価値を見出してはくれない。


 与えられた機会を逃せばきっと次はないだろう。婚約もなくなった、存在も認められずにここにいる意味はない。


「……」


 そして何もできないラウラに、友人は信じて力を与えてくれた。


 友人が望んでくれているのはラウラの幸せだ。価値を認めてもらえるようになってほしいとニコラも想って与えてもらった。


 ……だったら、私は……。


「自由に生きる。私、私を無価値だと思わない人のところで自由に生きたい」

『! よくぞ言ったぞ、ラウラよ! お主は自由じゃ透明人間からは脱却と行こう』

「うんっ」


 そうしてラウラは透明人間をやめることを決意した。


 にべもなく裏切られた初恋をばねにしてやっとできた決断は、果たしてラウラを幸福へと導いているのか、その行く先は女神さまもわからない前途多難の道筋であった。





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