18 予想外の出来事 その二
出されたお茶を勧められ、恐縮している体を取りつつも口をつける。
こうして過剰なぐらい敬うほどにフェリクスとアウグスト、王族といち貴族には明確な違いがある。
実際問題の権力や武力だけになると話はまた別だとは思うが、こうして敬うことが当たり前になっていて民衆からの指示があるのが王族というものだ。
だからこそ接し方には、気を付けるに限る。
そして、武力や財力はそれほどでもないくせに権威ばかりあって面倒なのも王族の特徴だ。
彼らは多くの国に必要な儀式や祭事を行うことによって教会と深いつながりを持ち権威を維持している。
そんな彼らが俗世の娯楽小説について、フェリクスに用事があるなんてこと自体が不思議な事ではあるのだが、さてどのように話が展開されるのかと考えながら、アウグストを見つめた。
すると彼もまたフェリクスのことを見極めるように見つめていて、それからふと笑みを深めてアウグストが先に口を開いた。
「早速悪いが、話をさせてもらいます。といっても本来ならば私はアイヒベルガー公爵と直接話をする必要があると思っています」
「ですが、アイヒベルガー公爵は”国外視察”でお忙しい方ですし、なにより今回の事、時期的にも見てフェリクス卿の独断とお見受けしました」
彼らは似たような笑みを浮かべながら似たような言葉遣いで話をする。それもそのはず、彼らは幼馴み兼友人兼恋人兼夫婦みたいな奴らだ。
本当に身分の高い貴族たちの社会は割と狭い、同じ世代の上級貴族とは全員が小さいころからの知り合いであるし上級貴族と王族の会う回数はそれなりに多い。
だからこそ心根までは知らずとも、どういう人間かぐらいはフェリクスも知っている。
今まではそれなりに良好な関係性を築いていたつもりではあるが、言葉は丁寧でもその内容には、本来フェリクス程度の立場で対応できる問題だと思わない方がいいという意味を含んでおりそれなりに、嫌な言葉だ。
「……そう仰られましても、アウグスト王太子殿下、ローゼマリー王太子妃殿下、私は、こうしてお二方から聴取を受けるべきことをしたとは思っていません」
「なるほど。そういう方向で言い逃れをするつもりですか。しかし、明確な証拠があるんですよ。こうなってしまった以上は今更、くだんの娯楽小説を禁止するわけにもいきません」
「だからといって、あなたの宣戦布告について私たちが何も対応しないわけにはいかないとは思いませんか?」
「……」
……宣戦布告だと?
そんなことをした覚えなどないのに、とてつもなく物騒な話が出てきて、フェリクスは頭を回転させた。
彼らの言葉からやはりルーラの小説に何か王族に都合のよくない事が載っていたと考えるべきだ。
しかし、一応、印刷する本に関しては教会の検閲を受けているし、王族にも認証を通している。
大きな印刷所になるので後から内容に文句をつけられるような作り方はしていない。
それを今更、王太子夫妻が出てきて、内容に宣戦布告が含まれていたという言葉はいくら頭の回転のよいフェリクスでも繋がらない。
「心当たりはありません。しかしこれほど、おおらかで常に冷静なお二方が鬼気迫るご様子で私に聴取をとるということは、私が想定している以上の事が起こっているのだと理解しました」
「……」
「……」
「まずは、疑われるような物を私の独断で作成してしまったこと、そしてお手数をおかけしていることを謝罪させてください」
決してフェリクスは彼らと対立したいと思っているわけではない、しかし責められたからと言って無条件に非を認めるようなこともない。
それをしてしまっては終わりだ。
間違いがないように彼らの疑いを買ってしまったことを謝罪するという明確な謝罪内容を告げて、頭を下げる。
そうすることによって、彼らがまずは少しでも溜飲を下げてくれない事には、本当に何のことだかわからないフェリクスは状況を知ることすらままならない。
下手を打てばこのまま王宮の地下牢に魔力封じの枷をつけられて捕らえられる可能性もある。
そうなれば父が戻ってきて無実を証明するだろうがそれは流石に、格好が悪すぎるだろう。
……それに、きちんと事情を知れば、これほどまでに王族が反応する小説を書いたルーラの真相にも近づける。
「大変申し訳ありませんでした。この件はアイヒベルガー公爵に報告し改めて、謝罪と埋め合わせに参ることを約束させてください。
しかし、信じていただきたいのです。私は誓って王族であるあなた方に害をなすつもりは一切ありません。私はただ素晴らしい文学的才能でかき上げられた小説を世に広めたかっただけです。
このことは、白魔法を使って記憶を見てもらっても問題ないと断言できます」
フェリクスは、つらそうな顔をしながら両ひざの上できつく拳を握り、あたかも王族に対する忠誠心の高い貴族であるという顔をして、彼らに懇願した。




