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透明令嬢、自由を謳歌する。   作者: ぽんぽこ狸


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11 これからについて



 いつか恩返しが出来たらいいなと思いつつマリアンネの言葉に応えた。


「そういう風に考えてくれる方がいて、目をかけて貰えて私は幸せ者です。……そう思う気持ちが私にあるようにきっと“彼”のなかにもあるのではないでしょうか」

「……クリストハルトの事かしら?」

「はい」


 マリアンネの言葉がラウラに向けて言われている言葉であり、心配していたという気持ちが本当だというのは理解している。


 しかしマリアンネの言葉の中に別の人間への思いも入っていることをラウラは理解していた。


 それは、彼らはラウラに何かを求めたりはしてこないが、このヘルムート子爵夫婦にも現在進行形で解決しなければならない問題がある。


「クリストハルトも私はきっとマリアンネ様たちに可能性を与えられて喜んでいると思います」


 ヘルムート子爵夫婦には長い間、子供が出来なかった。


 その状況を打開するために彼らが行った努力についてはラウラは知らない。しかしその努力は報われなかった。そしてこの屋敷には迎えられた幼い養子の男の子が一人いる。


 それがクリストハルトだ。


 住まわせてもらっている身なのであまり口出しをするつもりもないし、不快に思われるようなことをするつもりはない。


 しかし、同じ屋敷に住んでいると流石に存在が目に入るもので、彼の行動によってマリアンネたちが仕事に集中できないほどに思い悩んでいるというのをラウラも察していた。


「でも、あの子はまだ幼いわ。自分が親元から離された理由もわからずに、私たちを敵対視しているのかもしれない。自分たちの跡継ぎの為に養子をとったのは事実だもの」

「……引け目を感じずとも、いいのではないですか。詳しくは知りませんが、そのままで幸福であった子供を無理やり養子に取ったとは考えられません」

「…………」

「申し訳ありません。出過ぎたことを言ってしまいました。ただ、きっとあなた方が思いやりに溢れていることを受け取る人間もきちんと感じていると思うと、自己満足で言いたかっただけなのです」

「……そうね。ありがとう。ラウラ」


 マリアンネはラウラの言葉に、笑みを浮かべるがすぐにまた難しい表情をした。


 その目には色の濃い隈がついていて、本来はもっと笑顔が多くて明るい人だったと思う、だからこそラウラも少し悲しい。


 それに歯車が少しおかしくなっているだけで、クリストハルトは絶対に彼らの事を好意的に受け止めているという自信があった。


 ……だって、稀に見るクリストハルトの目は、じっとマリアンネ様たちの事を見つめているもの。


 その瞳にこもった気持ちをラウラが見間違うとは思えない。話をしたい、認めてほしいと望む気持ちが宿った目だった。


 ラウラだって同じように家族を見ていた。


 そうは思うが、思いあっていてもかみ合わないそういう難しさがあるのが家族という物だろう。


 だからこそあまり踏み込まずにラウラはマリアンネとの話を終えて自身の部屋へと戻った。


『それで、次は何をするんじゃ?』


 部屋に戻ってニコラは開口一番そう聞いてきた。


 ラウラは考えつつやった事、やりたいことを指折り数えて、考える。


 実は今日にいたるまでラウラはそれはもう自由に暮らしている。


 ヘルムート子爵家というのは王都にある。王都というのはつまり最強の都会だ。


 なんでもあるし何でもできる。だからこそ、ラウラは透明化の魔法を使って色々やった。


 賭博場にもいってみたし、平民の食堂にもいってみた、それから農場を見学したし、乗合馬車での旅もした。趣味で執筆していた小説をいくつか印刷所を抱えている大貴族の元に出したりもした。


 その小説の中には、ニコラ原案の曙の女神と闇の神の恋愛物語も入っているがそれが物語を書いた中で一番いい出来だ。


 ということで、ちょっとばかり魔法を使ってズルもしたがあの程度は許されるだろう。


 もちろん置いてくれているヘルムート子爵夫婦に迷惑がかかるようなことは一切していない。


 迷惑がかからない範疇で自由に、生きている。そしてラウラは実はもうすぐ成人を迎える。


 ということはあと少しで、お酒が飲めるのだ。


 それを心待ちにして仕事にまい進するのが今のラウラのやるべきことだ。


「話してた通り、もうすぐで私成人を迎えるから胸を張ってお酒を飲めるのよ」

『おう、そうじゃった。いいのう、わしも酒が大好物じゃ!』

「大好物……ニコラって……」


 その体で何かを食べているところも、飲んでいるところも見たことはない、しかし好物があったり魔導書のありかを知っていたりするこの子はいったい何者なのか。


 という、ラウラの人生最大の謎が未だに解決していない。


 しかし聞いて知ってしまったらニコラは正体を明かしたからにはラウラのそばにはいられない、とどこかに消えてしまいそうな気がして、ラウラは意識的に知りたいという気持ちを抑えて笑みを浮かべた。


「そんな姿でお酒好きなんて、っふふ、変なの」

『お主からすればそうなのじゃろうが、わしには関係ない。わしはわしじゃ!』


 その言葉がどういう意味なのか、気になることには気になるけれど、もうしばらくは、ラウラは自分の自由を満喫することに決めている。

 

 なのでとりあえずはミステリアスな友人と適切な距離を保っていこうと考えていたのだった。






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