ダイ6話 東の勇者マグロvs元騎士パッツ -強化-
いざ決闘をするにしても一つだけ注意しなければならないことがある。街の破壊だ。壊れれば街は悲しむし、その街を愛する人はきっと怒るだろう。
だからその点だけは念頭に置かなければならなかった――ということを、既に壊れて砕け散った石像の前で考えていた。つまりこれは時すでに遅しというやつだ。
「なぁパッツンー、壊すのはこの石像で最後なー。これ以上壊したらいつ吹っ飛ぶかも分かんねえー」
俺は少し遠くにいるパッツンに警告する。あいつ決闘の準備するの早すぎだろ。気合いが入ってて素晴らしいな、俺とは違って。
「あー? それを言うならお前の方だろうがー。俺なら破壊の心配はないから余計なお世話だクソ野郎ー」
「うるせえ黙れクソパッツン」と俺は小さな声で呟く。あいつからは俺がごにょごにょ口を動かしてることくらいしか分からないだろう。そのせいか一瞬むかっとした表情を浮かべた。
「決闘の前に一つだけ言っておく! 俺は、お前を殺す覚悟だ……!」
上等だ。だが、残念ながらお前に俺は殺せない。俺を殺せるのはこの世できっと魔王だけなのだ。
「じゃあ俺も、一つだけ言っておく! 俺は、お前の練習相手をしてやる、くらいの覚悟だ!」
「ふんっ、舐めやがって。俺はこれでも元騎士だ。てめえの命、ここまでだぜ」
「おっと、少し矛盾しているのではないかな、パッツンくん。元騎士がそんな汚い言葉で殺害予告をするなんて、らしくないでしょう?」
「俺は“元“騎士だ。辞めてるんだから俺には関係ねえよ」
極論だ。それではただヤケクソになっているだけだ。元騎士なんて名乗る資格もねえ男だ。
「……くらえっ、このクソ野郎がッ!」
そんなことは彼にはどうでもいいようで、そう叫ぶなり容赦なく俺の方へと駆け寄ってくる。槍は背中に預けたままだ。なるほど素手でリベンジしようということか。ならばこちらも、素手で。
パッツン野郎は勢いに任せて拳を振りかぶる。大したことないただのパンチだ。俺は右腕を少し引いて奴に向かって拳を振り出す。
途端、俺とパッツン野郎の拳は衝突する。
「へへっ、グータッチ」
勢いの割には威力がなかった。先ほどまでの威勢はやはりハッタリだったか。まあいい、とっとと終わらせよう。
勢いのあまりに生まれた隙をついて俺は続けて拳を振り出す。先ほどよりも大きく振り上げ、狙うは奴のアソコ。
「さて、これで終わりだパッツン! 目覚めろ俺の拳、金的圧縮拳!!」
これはたった今生み出したオリジナル技だ。その名の通り、相手の金的に拳をドーン! ってしてプレスする。
パッツン野郎はぐはっとうめき声を上げながらその場に崩れ落ちる。ここまでか。短い戦いだったな。今回も未だ背負ったままの剣の出番はなさそうだ。
「……ふっ、汚ねえ手使いやがって。今だ……フォル!」
俺の渾身の金的圧縮拳を受けてもなお、パッツン野郎はゆっくりと立ち上がる。
「うん、分かった。いくよ……パッツ!」
するとスライムはパッツン野郎の元へぽよんぽよんと移動し、ぴょんっと跳ねて全身にまとわりついた。
……まさか、これが奴の言っていた“強化“なのか?
なんだか嫌な予感がする。あのスライムってたしか……。
「……お前は知らないだろう。人はありのままの姿の時こそ、本領を発揮するのだ。……ハァーッ!」
次の瞬間、パッツン野郎は全裸になって現れた。嫌な予感は見事に的中してしまった。……ダメだ、めちゃくちゃおもしろい。
「ワハハハハハハッ! なにが“ありのままの姿の時こそ本領を発揮する“だよ、笑わせんな! 本当に裸になるとか、お前脳みそまで溶けちゃったんじゃねえか?」
「きゃー! へんたーい! 本物のへんたーい!」
モンモンはそう叫びながら顔を伏せる。たしかに、あいつほど本物の変態の称号が相応しい奴はいない。
「えっ、変態……」
なんかあいつ結構しっかりショックを受けてやがる。当たり前だろ、人前で全裸になって堂々としている奴なんて変態以外の何者でもない。本当、嫌になっちゃう。
「まあいい! 強化された俺は、もうお前には止められない。今度こそ……くらえッ!」
また拳か。ならば、どれほどまでに強化されたのか調べてみるか。
パッツン野郎は先ほどと同じように拳を振りかぶる。単に学習能力がないのか、それとも狙ってやってるのか。どうせ前者だろう。
「……ハァァァァーッ!」
俺は飛んでくる拳にもう一度グータッチをしにいく。そして再び、衝突する。
「なっ……?!」
しかし次の瞬間、俺の体は遥か後方まで吹っ飛んでいた。なんだあの威力。見た感じ大した変化はなかった。ただ、体に伝わる衝撃は倍以上のものだった。少し油断してしまった。すぐに体勢を立て直して――。
……あれ?
体に上手く力が入らない。きっと変に吹っ飛んじまったからだ。くそ、ならば剣を――。
「今だ……! その命、この槍で貫く!」
背中の剣に手を伸ばすよりも早く、奴の槍は俺の胸に突き刺さった。こいつ容赦ねえな。刺し慣れてるとはいえ、その力で刺されると流石に痛い。そしていつも通り、痛みは苦しみに変わる。
ふと、何やら圧を感じて見てみるとモンモンが両手を腰に当て、顔をぷくっとを膨らませてゆらゆらと揺れていた。はいはい、やられちゃってごめんなさいね。
「はっはっはっは! やった……やったぞ! あの時の復讐を果たした! すまんが、お前の命はここまでだ。せいぜいあの世で楽しくやってろよ」
パッツン野郎は満足そうに笑っている。まぁたしかに、普通この状況にもなれば油断くらいするよな。仕方ない、何も知らないこいつに俺の体について一つ教えてやろう。
「おーい、モンモンさーん」
決闘の前、あいつは自身がスライムの力を借りる代わりに俺がモンモンの力を借りることを許可していた。はい、出番ですよっと。
「まったく、なにやられてんのよ! いくよっ! モンモンの魔法! 治れ!」
これまたいつも通り、俺の体は緑の光に包まれる。その光景をパッツン野郎は黙って見ている。
「……ふんっ、あの世ねえ。行けるもんなら行ってみてえなぁ」
本当に。俺はこの不死身の身体が嫌いで仕方ない。こんなくだらない世界に生きている意味はない。
依然としてパッツン野郎はポカンとしていた。槍で胸を貫いたというのにそれでもなお立ち上がって喋っているのだから当然の反応といえる。
このままでは何も進まないので、俺の身体について教えてあげることにする。
「お前に一つ教えてやるよ、パッツン。実は俺、不死身なんだわ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
フォルが仲間になったパッツはかなり強化されました!
しかし、マグロの不死身の力はそれを上回り……
ついにマグロの真実を知ったパッツ。果たして、この戦いの決着はいかに?!
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