ダイ2話 人生、金がすべてだからな
ー モンモンの文才溢れる素晴らしい日記 ー
こんにちは、私はモンモンです。
……って、誰に言ってんだよ! 私の日記なんだから私しか見ないでしょ!
……これって日記? それともひとりごと?
まあいいや。早速書いていきます!
旅の初日。勇敢なる魔法使いの私とその下僕のマグロはスライムに遭遇しました。
ある意味、死にました。
誰に見送られることなく国を旅立った俺たちはどこまで続くのかもわからない道をぐだぐだと進んでいた。
門番ですら目も合わせずに「いってらっしゃーい」だ。あんな国、出て正解だとつくづく思う。
「ねえー、そろそろ休憩しなーい? 私、この頃運動不足でさー」
なんか顔が死んでると思えばいきなりそんな弱音を吐くとは。だから大人しく帰れって言ったのに。
「自分に治癒魔法でも使っとけ。そしてそのまま帰れ」
「それだ! でも、私は帰らないから! よーし、モンモンの魔法! モンモンの魔法! モンモンの魔法! 治れ! 治れ! 治れー!!」
そんなでたらめともいえるモンモンの詠唱に合わせ、いつもの緑色の光がピカピカとするものだから、思わず目を逸らす。こんなピカピカしてる奴と知り合いだと思われたくないのでついでに距離をとる。
「うひょひょー! 魔法の光がピカピーカ! すっかり元気になったよ!」
「よかったね、これでおうちにかえれるね」
「だから! 帰らないってば!」
モンモンは俺の背中をぱんっと叩くと、軽快な足取りで俺の数歩前を行く。
すると、しばらくしてモンモンはなんの前触れもなくぴたりと止まり、震える声でゆっくりと言った。
「お、お金が……お金が、落ちてる」
「なに?!」
それはかなり興味深い話だった。俺は立ち尽くすモンモンに駆け寄り、その視線の先にある光り輝く落とし物を見つける。
「よし、誰の金か確かめるために拾おう。そうしよう!」
そう、これはあくまで調査だ。落とし物の持ち主を探るだけ。ただそれだけ。本当にそれだけ。
だが、いざ駆け寄ってみるとお金は100コインが1枚あるだけだった。
「まあいい。この落とし物は俺が預かっておくとしよう」
そう、これは落とし物。いずれ持ち主が見つかった時に返すもの。だからそれまで俺が持っているというだけの話だ。この金で安い飯でも食べようなんて考えているわけではない。決して。
「たしかに100コインあれば安い食事くらいならできるもんねー!」
「ニヤニヤしてんじゃねえよ卑しい奴め。それと、馬鹿正直に口に出すな。そういうのは心に留めておくものだ」
「マグロだってニヤニヤしてるじゃん! まぁ実際、一文無しの私たちからすれば100コインでもそれなりの贅沢はできるし!」
「なにが一文無しだよ。貯金はどうした! 置いてきたのなら今すぐ戻って回収しよう」
「ないよそんなの! マグロは勝手に貯金ある前提で話してたけど、私はひもじ〜い思いをして生きてきたの!」
「なるほど、だからあんまり成長しなかったってことか」
モンモンは始めこそ表情を曇らせていたが、俺の視線が自分の胸元に向いていることに気づくと、みるみるうちに顔を赤くした。
「ど、どこ見てんのよ! わ、私だってこれからボンってなるんだからね! ボンって!」
胸元で訳の分からない動きを繰り返すモンモンだったが、急に動きを止めて黙り込んでしまった。どうしてこうもいきなり機能停止するんだこいつは。
「ね、ねえ、見てよ。あれ……」
モンモンの震える指先に俺は視線を向ける。今度はなんだよ、魔物でも現れたのか?
「まったく、忙しい奴だな……」
その時、キラリと何かが光った。この眩しい光――金だ。ん、金だ?!
俺はモンモンと顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
一目散に光の元へ駆けつけ、それが確かにコインであることを確認する。先ほどと同じ100コインだ。
「これでそこそこの食事ができるね! しかもタダ!」
「おい、さっき言ったばかりだろうが。そういうのは口に出さずに心の中で噛み締めておけって」
「えへへ、ついつい」
ともあれ、まさか200コインを拾うことになるとは。なんて幸先のいいスタートなんだ。最高の旅立ちだ。
「……ってあれ?! あそこにも落ちてるよ?! あ、あっちにも! あっちにも!」
「流石に幻覚だろ。そんなに都合よく落ちてるはずが……」
落ちてる。本当に落ちてる。100コインが何枚も、しばらく先まで道標のように落ちている。
俺たちはもう一度顔を見合わせる。ニヤリと、笑う。
「はっはっはー! 拾え拾え! 金だ金だー!」
あー、なんて素晴らしい日だ! 人生って素晴らしい。人生って楽しい。最高だ。人生バンザイ。旅バンザイ!
「どうなってんのこれ?! ほんとのほんとにお金じゃん! こんなにもらっちゃっていいの? 流石に拾わない方がいいのかな?」
「うるせぇ! 今は金を拾うことだけに集中しろ! 一枚たりとも見逃すな! 拾え! 拾え! 拾いまくれ!」
それから、俺たちは無我夢中で金を集め続けた。少しずつ金の道標に従って進んでいった。その先にはきっと、宝の山があるに違いないと信じて。
拾いながら、俺はつくづく思った。生きているうえで、楽しいと思う瞬間はいろいろあるが、一番はこれだ。
――人は、落ちてる金を拾ってる時が一番楽しいのだ。
なんてったって、人生、金がすべてだからな。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
幸先の良い(?)旅の始まりですね!!
それにしても、どうしてそんなにお金が落ちてるのか?
次回もどうぞよろしくお願いします!
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