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死にたい勇者は空に笑う  作者: 中野ると
東の大地編:第一章 神炎の伝承と消える少女
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ダイ25話 何かがおかしい


 その男は自らを村長と名乗った。

 言われてみればそんな風格が漂っているようにも思う。


 さて、これでようやくまともな村人と会話できる。今のところ、この村に来て会話という会話をしたのはあの生意気少女だけだ。とはいえ、あれは会話なのかどうかも怪しいのでほぼノーカウントだ。


「君たちのことは噂に聞いているよ。なんてったって長年空席だった東の勇者の座がようやく埋まったんだからね」


 まさかそんなにも早く噂になっていたとは。これまで出会った中でそのことを指摘した人は皆無だったのであまり実感が湧かない。


「まぁ、別に俺は勇者になりたくてなった訳じゃないですけどね。なんというか、手段って言うんですかね」


「なかなか面白いことを言うね、君は。そんなことを言う勇者は他にはいないだろう。まあ、そんなことは君の勝手で、他人がどうこう言う筋合いはないがね」


「ははっ、そうっすね。俺は俺で勝手にやりますよ」


 そうだ。俺は他の勇者がどうかなんて気にしない。普通とか常識とか、そんなものには興味がない。俺は俺だ。


「ところで、君たちはどうしてこの村に来たんだい? こんな辺境の小さな村に勇者様の御用なんてないと思うのだが」


 ――ん?


 村長ともあろう人がこの村に関する伝承を知らない?

 さてはあの伝承は村の外の人間が勝手に広めたものなのか?

 答えは定かではないが、ここは正直に答えておこう。


「酒場で神炎の伝承について聞いたんすよ。こわーい店主が調査してきたら報酬をやるって言うもんだから仕方なーく森に入ったらひゅーんって瞬間移動して気づいたらここにいた、って感じっすね」


 我ながら簡潔に説明できている気がする。

 一つ気になったのは、村長の反応だった。どうやら“神炎の伝承“というワードに反応を示したようで、微かに表情を変えた。


 ――こいつ絶対知ってるだろ、伝承。


 俺は確信した。どう考えても知ってる奴の反応だ。隠しきっているつもりなのかは知らないが、この程度の小細工に騙される俺ではない。人を騙す者は己もまた騙される。が、人を騙す者は騙されることにも慣れている。


「うむ……神炎の伝承? とは一体なんだね。ぜひ教えてほしい」


 ――いや、嘘くさいなぁ!


「……あの、絶対知ってるっすよね」


「どうしてそう思うのだね。本当に初耳だというのに」


 一体いつまでこの茶番を続けるつもりなのだろうか。本気で隠し通すつもりなら、そのワードを聞いた瞬間に表情を変えるべきではなかっただろうに。


「……ふふふふ。私はもう分かってしまいましたよ」


 なんだか耳障りな話し方だと思えば、なんとその声の主はモンモンさんではないか。なにやってんだ、こいつ。


「さぁ! 名探偵モンモンの推理ショーの幕開けです!」


「いや、いいから。そういうのいいから。ってか推理もクソもないから」


「まあまあ、落ち着きたまえ助手くん。これから私がズバリ真相を言い当てるところなのだからね」


「誰が助手だよ、この治癒バカ」


「ちょっと! 前も言ったけど、私は治癒魔法使い! 治癒バカじゃないから! そこんとこよろしくね!」


 ――こいつ流石にちょろすぎるだろ。


「え? 魔法使い? あれ、名探偵なんじゃなかったでしたっけ?」


「あ……。いや、そうだよ? 名探偵だけど、なにか?」


「はいはい。ヘッポコ探偵さんはお話の邪魔なので離れたところでぐっすり寝ていてくださいねー」


「なんで?! 私、本当に分かるよ?! 真相、言えるんだから!」


「何が真相言えるんだよ! だ。どうせ、村長さんは伝承のことを知っていますよね! ってだけだろ。誰でも分かるわバカ探偵」


「べ、べつにそんなことないから! 全然、ないから!」


「お二人とも落ち着いてください! ほら、村長さんも何か言いたげにこちらを見ていますし」


 名探偵モンモンの暴走に喝を入れたのはヨーコワッドだった。やはりモンモンよりずっと大人だ。面構えが違う。


 ヨーコワッドに言われて村長の方に目をやると、たしかに何か言いたそうな曇った表情を浮かべて佇んでいた。


「うむ、そこまで言われてしまっては隠し通せまい。モンモンくんの言う通り、私は伝承について知っている」


 村長がそう言うとモンモンは「ほら見ろ」とでも言いたそうにドヤとこちらをチラ見してきた。心の底から込み上げてくる怒りをなんとか抑えながら、村長に問う。


「教えてほしいっす。その伝承についての詳しい話を」


 知らないままではどうしようもなかった。酒場のおっさんに具体的な説明を求められた時、確実に詰んでしまう。


 この状況でこれ以上隠し通すことはできないと村長は理解しているはずだ。きっと伝承について話し始めるだろうと勝手に期待を寄せていた。


 しかし、村長は眉間に皺を寄せ、難しい顔できっぱりと告げた。


「それはできない。私には、そのことについて君たちに話すことはできない」


「なんでですか?! さっき知ってるって!」


 誰よりも先にモンモンが突っかかった。


「私は知っているだけで、話せるとは言っていない。理由は分からないが、どうしても言葉にできないのだ」


 ――何を言ってるんだ、こいつは。


「話せない理由が分からない? どうしても言葉にできない? そんな適当な理由で納得いくと思うか?」


「すまないが、何度問われても答えは同じだ。それに君たちは言わば部外者。君たちがそれを追求する必要もないし、私がそれを教える義理もない」


「たしかに仰る通りかもしれません。ですが、ぼくたちが知ろうとする権利は少なくともあるのではないでしょうか。具体的な理由が示されていない以上、易々と引き下がれないというのが現状です」


 ヨーコワッドはやけに真剣だった。多分、俺を全力で庇ってくれているのだろう。なんで良い奴なんだ、こいつ。


「……れ。……まれ。……だまれ」


 突然、どこからかそんな声が聞こえてきた。

 それはモンモンとヨーコワッドにも聞こえていたようで、一瞬にして場の空気が変わった。


「……黙れ」


 その声の主が村長であることに気づくまで、そんなにはかからなかった。

 一体どうしたのだろうか。先ほどまでの村長と比べると全くの別人のようだった。


 まるで、第二の人格が現れたような。そんな表現が適していると言えるような状況だった。


「お前たちは……我々……逆らえない。すべてはロペシス様の下……」


 途中で何度も声が途切れ、何を言っているのかが少しも理解できなかった。


「ねぇ、マグロ……。なんか、変だよね?」


「ああ、変だ。ただでさえ変だったのに、もっと変になっちまった。こいつは手遅れだ」


「ちょっと、ふざけてる場合じゃ……」


 その時だった。村長はフラフラとよろめきながら、どたんとその場に倒れ込んでしまった。


 すぐにヨーコワッドが駆け寄り、村長の容態を確認し、俺の目を見てこう言った。


「どうやら気を失っているみたいです。ぼく、村の人を呼んできます!」


 そう言うとヨーコワッドは一目散に家を飛び出した。


 その間に俺は一度、頭の中を整理する。

 一体この村で何が起こっているのだろうか。

 ここに来るまで、そして来てからもずっと異変続きだ。


 間違いなく何か大きなことに巻き込まれてしまっていると、俺の勘が訴えていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

異変続きの旅、果たしてマグロたちに待ち受ける“運命“は一体……。

第一章、後半戦の開幕です。

怒涛の展開をお見逃しなく!


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