ダイ24話 ようこそ、イニティ村へ
前回までのあらすじ
酒場で『神炎の代償と消える少女』について耳にしたマグロとモンモンは、勇者を志す少年・ヨーコワッドと共に森へと足を踏み入れた。古い洋館で魔物に襲われたり、モンモンが一瞬で消えてしまったりしながらも、森の奥の集落に辿り着いたマグロ一行。そこで不思議な少女と出会い、なぜか家事をすることになり──
あー危なかった。
危うく変な宗教に入っちまうところだったぜ。
まだ幼い(あるいはそう見える)子の下着を崇める宗教があってたまるか。
俺はそんなものには入らないぞ。絶対だ。勇者の名にかけて、絶対。
さてと、俺の揺るがぬ信念を再確認したところで早速次の作業――掃除に取り掛かろうと思う。
今回頼まれた雑用はこれで最後。
掃除さえ終わればこの村とはおさらば。そう考えると一気に気が楽になる。同時に、やる気が漲ってくる!
「おっしゃ! 掃除だ! 気合い入れてくぞ! 見てろよ、勇者の底力! とっとと終わらせてこんな村すぐに出てってやる!」
「うわー、まるで勇者が言っているとは思えない台詞だね。”勇者らしく”を嫌う割には勇者の立場を都合よく使うよねー。私、そういうの最低だと思いまーす」
全くこいつはいつも余計なことを堂々と言いやがる。さも自分が正論であるかのような物言いだ。
――まあ、今回に関しては百歩譲ってモンモンの言っていることも正しい、かもしれない。
それはさておき、俺は水に濡らした布を片手に窓の前に構える。
窓拭き掃除。風の冷たくなる頃にはそれはもう地獄の作業だ。今がそうでなくてよかったと心底思う。
キュッキュッと音を立て、弧を描くように窓を拭いていく。とはいえ窓はかなり綺麗で、目視でなんとか確認できる程度の汚れが微量あるだけだった。
これくらいは流石の俺も苦ではない。後は邪魔が入らない限りは問題なく終わるだろう――と思った矢先、窓を挟んで向かい側に満面の笑みのトラブルメーカーが姿を現した。
どうしてこうも面倒なタイミングにこいつは、と思ったがおそらく逆だ。こいつが面倒なタイミングに来るのではない。こいつが来るから面倒なのだ。
さてと。
俺は秘められし学習能力で培った面倒な奴への対処法をとことん試していこうと思う。
くらえ俺の最強スキル……無視!!
『そうやればよかったんだ。すごい……』とどこからか聞こえた気がした。おそらく幻聴だろう。
いやでも本当に。やはり過去は現在を形成し、失敗は成功を導く。
しょうもないちょっかいを出してくる暇魔女(略してヒマジョ)、それをガン無視して窓を拭き続ける真面目な俺。
これはもう明らかだ。育ちの良さが。スライムじいさん、とりあえずありがとう。今度、久々にじいさんの墓に行って花でも供えるよ。(供えるのは初めてとか言えない)
そうしてじいさんに思いを馳せていると、奴は構わずそのしんみりムードをぶち壊してきた。
まるでバカにしているかのように俺の手の動きに合わせて窓を拭き始めたのだ。イラつくほどに楽しそうに。
――なんだこいつ。
素でそう思った。
俺が大きく拭くと大きく、小さく拭くと小さく、憎たらしい笑顔をこちらに向けて。
もし、目の前に窓がなければ俺はこいつに怒りのままに手を出していたかもしれない。だから俺と窓にしっかり感謝してほしい。
おっと、危ない。これ以上モンモンに構っていてはいつまで経っても家事が片付かず、家事マスターとして生意気な少女のもと一生を過ごさなければならなくなってしまう。
そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。やってみて分かったが、俺に家事は不向きだ。一日だけならまだしも、毎日となると話は変わってくる。精神崩壊待ったなしだ。世の中の家事マスターの皆様を心底尊敬する。
――へっくしゅんッ!!
窓越しでも十分に聞こえる大きなくしゃみだった。
そして、くしゃみの主は勢いそのままに頭を窓ガラスに……。
パリンッという音と共に目の前のガラスが一瞬にして崩れ去り、俺の頭にモンモンの頭がごっつんこした。
果たしてこの一瞬の間に何が起こったのか、しばらく理解できなかった。
つい先ほどまで丁寧に拭いていたはずの窓は見事に割れて床に散らばり、頭部はジリジリと痛む。
「えーっと……ごめん」
モンモンはなぜか困ったように言った。
本当に困っているのはこっちの方だというのに。
まあいい。これで、俺の怒りを留めていた唯一の障害が消えたのだ。
「さーて、治癒バカ。どう落とし前をつけてもらおうか」
「落とし前? なにそれ、私何させられるの?」
「俺のお掃除を邪魔した罰だよ。分かったら黙って言うことを聞くんだな!」
「ねぇなんか悪役みたいなこと言ってるよ? 大丈夫?」
悪しきものには成敗を。それは昔から決まっていることだ。仕方のないことなのだ。
「うるせぇ! 俺の目の前にひれ伏して、黙って言うことを聞きやがれぇ!」
俺の怒りもいよいよ限界を超えるという頃、突然ガチャンっと扉が開く音がした。
突然の来訪者に俺とモンモンは言い合いをやめ、扉の方に目をやる。そこには、見知らぬ男が佇んでいた。
白髪混じりの髪、皺のよった額、どことなく漂う荘厳な風格。一体この男は何者なのだろうか。
男は俺たちを交互に見た後、少しの沈黙を経てこう言った。
「お取り込み中すまなかった。どうぞ、構わず続けてくれ。私は見て見ぬふりをしよう」
「誰だ、あんた」
可能性としてはあの生意気少女の親か何かと考えるのが妥当だろう。
「それは私からも言えることだとは思わないかね、少年」
――なんだこいつ、なんかうぜぇ。
「俺はお前とくだらねえ小芝居をするほど暇じゃねぇ。知ってんだろ、俺たちが何者か」
「ふむ、なぜそう思うのかね?」
「普通に考えて、扉を開けた先に知らねえ奴らがいたら、どうぞ構わず続けてくれなんて言わねぇだろうが」
少なくとも俺ならその時点でそいつが何者なのかを確かめようとする。
「ワンダーフールッ! 素晴らしい推理だ、少年。君の言う通りだよ。私は、君たちが何者なのかを知っている」
その男は少し間を空けてこう続けた。
「東の勇者マグロくん、魔法使いモンモンくん。私はこの村の村長、マークロックだ。ようこそ、イニティ村へ」
お久しぶりです。
ここ数ヶ月ほど執筆の時間を取れず、また、モチベも上がらずといった感じで更新が途絶えておりました。
が、今日からまた書きます!
とりあえず週一更新を目指しております。
改めてよろしくお願いします。




