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死にたい勇者は空に笑う  作者: 中野ると
東の大地編:第一章 神炎の伝承と消える少女
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ダイ20話 私が治したげるからね


「モンモンの魔法……“治れ“」


 小高い丘で寝そべって夜空を眺めていたところ、唐突にそんな声が聞こえてきた。同時に、俺は緑色の光に包まれる。

 もはや振り返る必要もない。この治癒魔法の主は紛れもなくモンモンだ。


「なにしてんだ、お前」


「なにって、だってマグロ元気なさそうだったから。どうしたのかなーって」


「別にそんなことねぇよ。俺はただ、考え事をしてただけだ」


「どうせ昔のことでも思い出してたんでしょ。分かるよ、私には。マグロのその顔は、過去思い出し顔だもん」


 なんだよ過去思い出し顔って。昔を思い出すことに表情もクソもないだろうに。


「テキトーに喋んな」


「テキトーじゃないもん。ほんとだもん」


「……テキトーに喋んな」


「だから、テキトーじゃないってば! 私にはほんとに分かるんだよ? 当ててあげるよ、マグロはさっきまでスライムじいさんのこと思い浮かべてたでしょ!」


「……なんで?」


 内心、ヒヤッとした。心をすべて見透かされたかのような気がした。


「だって、マグロはスライムじいさんのこと大好きじゃん。口ではバカにした感じで言いがちだけど、それもただ強がってるだけなんだってこと、私は知ってる」


 俺は今まで、そんなことは一切口にしていない。つまり、それはあくまでモンモンの憶測に過ぎない話ということになる。憶測をさも真実かのように語るのは悪辣極まりない行為だ。


 それなのに、モンモンは紛れもなく本気だった。本気でそう思っているのだと、表情が物語っていた。


「残念だが、皆目見当違いだな」


「いーや、そんなことないね。皆目見当合いだよ」


「なんだよ皆目見当合いって。そんな言葉ねぇよ」


「じゃあ、今日は皆目見当合いのお誕生日だね。おめでとう、皆目見当合い」


 はぁ、とため息をつく。

 こいつはいつもそうだ。俺が何か言えばすぐに屁理屈じみた言葉を返してくる。話があちこちに広がってちっとも進まない。


「……あのね、マグロ。私ね、元気ないのは嫌いなの。今はさ、マグロもヨコワッチも元気ないでしょ。そうすると、私もつられて元気なくなっちゃうよ」


 モンモンは小さく笑った。少し、儚さを感じた。


「そんなの、私たちらしくないでしょ? 私たちの人生に暗い雰囲気は似合わない。明るく楽しく、元気に生きる! 散々死にたがってるマグロだけど、マグロはいつも明るく生きてた。私が何か言えばツッコんでくれるし、なんだかんだ人と関わるのも得意じゃん?」


「いやだから、そんなことはないって……」


「そんなことあるよ! だってマグロは、こんな私とちゃんと関わってきてくれた。しようと思えば見捨てることだってできたはずなのに、マグロは私を見捨てなかった。もしかしたらそんなことに意味はないって言うかもだけど、私にとっては十分意味があるんだよ」


 果たして本当にそうだろうか。

 たしかに俺はモンモンと関わることに明確な意味があったとは思っていない。それは成り行きとか、気づけばそうなってたみたいなずっと単純な話だ。


 そんな行動に勝手に意味を見出されても困る。綺麗事に昇華されても困る。


「とにかくさ、マグロ。私はマグロにありがとうって思ってるよ。そして、これからもよろしくって思ってる。だから、言うよ」


 言う? なにを? こいつは一体何がしたいんだ。

 モンモンは小高い丘のてっぺんに立った。その姿はやけに堂々としていた。そして、深く息を吸った。


「明るく、楽しく、元気よく! 私たちは、私たちらしく、バカみたいに生きる!!」


 満面の笑顔でモンモンは声を張った。その自信に満ち溢れた姿は、夜の闇の中で一際輝いて見えた。


「これが私の思いだよ! マグロ!」


 やはり、こいつは昔からちっとも変わらない。

 自分の思うことをありのままに言葉にできる。恥も外聞もなんのその。その生き様はまさに自由。俺とは正反対の生き方だった。


 もしかしたら。


 それが、意味もなくモンモンと関わり続けた理由なのかもしれない。


「そんなでけぇ声出さなくても聞こえるわ、治癒バカ」


「なっ! 誰が治癒バカだって?! 前は治癒バカ魔法使いだったのに! もう魔法使いでもなくなってるじゃん! 私、無職じゃん!」


 モンモンは吹っ切れたようにそう捲し立てた。その必死さがおかしくて、思わず笑ってしまう。

 するとモンモンは嬉しそうに目を見開いてこちらに駆け寄ってくる。


「今、笑ったね! 笑ったよね! いいねえ、明るく楽しく元気よく! やっぱ私たちはこうでなきゃね!」


「残念だが、さっきのはいわゆる嘲笑ってやつだ。お前にも分かるように言うと、バカにしてるって意味だ」


「くぅー! ほんとマグロって最低な言葉ばっかりぽんぽん出てくるよねー!」


「ああ、おかげさまでな」


「……ねぇそれどういう意味?!」


「モンモンはとても優秀な治癒魔法使いだよな、って意味」


「絶対ちがうじゃん。まあ、とにかく私が言いたいのはさ――」


 モンモンの視線がまっすぐこちらに向いている。その瞳はやけにキラキラしていた。



「――元気なくても、私がぜったい治したげるからね!」



 それは、いつしか聞いた言葉だった。


 あの時だ。俺が絶望に呑み込まれて、死を決意したあの時に、そんな俺にモンモンが放った言葉だ。


 あの時から、俺もモンモンもちっとも変わっていない。ただ時間が流れただけだ。変わらず愚かでバカでアホだ。


 相変わらず死にたい俺と、相変わらず死なせたくないモンモン。

 きっと、この構図はまだしばらく変わることはないだろうとなんとなく思った。


 ――俺はいつになったら死ねるんだよ、じいさん。


 夜空を見上げ、心の中でつぶやく。


 ――お前にはまだ、守らねばならないものがあるだろう?


 今そこにじいさんがいれば、きっとそんなことを言うだろう。


 想像して、思わず笑みが溢れる。

 まるで本当に目の前にいて、俺に語りかけてきているように感じたからだ。


 数多の星が輝く夜空を仰ぎながら、俺は笑った。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

正反対の信条を胸に生きてきた2人ですが、それが逆に2人にとって良い方向に働いたのだと思います。

つまるところ、向いている方向はあまり関係ないのかもしれません。

引き続きよろしくです!

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