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死にたい勇者は空に笑う  作者: 中野ると
序章 死にたいと願う旅へ
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ダイ1話 死にたい勇者は旅に出る 前編


『もうすぐ魔王が復活するので、いきなりですが勇者を決めさせていただきます。』

 

 そう書かれた貼り紙を見つけ、俺は胸に秘める思いを隠しきれずにいた。

 

「ねぇ、なんでそんな嬉しそうな顔してるの?」

 

 隣にいるモンモンは俺の顔を覗き込むようにして言う。相変わらず余計なお世話だ。

 

「いや、俺はただ昔のことを思い出してただけだ。思い出し笑いってやつだ」

 

「なーにが思い出し笑いよ! どうせ魔王に殺してもらおうウワハハハー! とか考えてたんでしょ? ほんっとどうかしてるんだから」

 

「……お前、ついに人の心を読む魔法まで使えるようになったのか? ほんと、おめでとうな」

 

「こんなこと自分で言うのも悔しいけど、私に使えるのはマグロの致命傷を回復させるような治癒魔法だけ! ってか、こっちはマグロが考えてることなんてお見通しなんだからね! いっつもどうやって死ぬかってことだけ考えてる」

 

「静かにしてくれ。俺は今から魔王様のことで頭がいっぱいなんだ。お前の声の入る隙は一切ない」

 

「うわー、敬っちゃってるよ。これでマグロは立派な人類の裏切り者だね」

 

「よし、そろそろ国王のとこに行くぞ。はやくあいつに勇者として認めてもらおう。流石に金くらいくれるだろ」

 

 もしもくれなかったら? その時は王を人質に取って金を巻き上げよう。そうだ、それしかない。

 

「いや、国王“様“でしょ。しかもあいつって言ってるし……。ねぇ、それ国王様の前で言っちゃダメだよ?」

 

「そうだよな。国王の目の前まで行って暴言吐いたら即刻死刑執行で国家権力に無念の敗北を喫してハッピーエンドになっちゃうもんな。そんなこと流石にしないから安心しろ」

 

「もういいや。私、いつでも出せるように魔法の準備してるから」

 

「……お前まさか、あの恥ずかしい魔法を公の場で、しかも国王の前で使うのか? わーお、すげぇメンタル」

 

「誰が恥ずかしい魔法よ! あれは立派な治癒魔法! 大抵の傷はパッと治せちゃうんだから!」

 

 と、ムキになってる羞恥神モンモンをよそに俺は早速国王のいる城へと向かうことにする。

 

 ここトウティウム国は、スシターべ大陸の東の大地、最大の国でこれまでにも何人か勇者を世に排出している。

 というのも、スシターベ大陸の東西南北のそれぞれに一人ずつ、その強さを認められた“四方勇者“がいる。四方勇者は大陸の安寧を保つ英雄として数百年前から存在しているらしい。

 

 まぁ、東の大地に至っては、ここ数十年まともな勇者が現れず、いても天に召されたか戦力外通告されて帰ってきたかのどちらかに終わっている。じゃあここ大国でもなんでもないじゃん……。

 

 生まれ故郷が大陸一の弱小国であることに心底失望しつつ、俺とモンモンはひいひい言いながら階段を上る。

 

「ねぇ……階段、こんなに長い、意味なくない? もう、少し低いとこに、つくれば、いいのに……」

 

 モンモンが死にそうになれながら愚痴っていた。このまま死んだらそれが遺言になるけど、大丈夫?

 

「ほら、あれだ。バカは高いところが好きって言うだろ」

 

 俺が例のじいさんから聞いた知識を惜しみなく披露していると、なんだか視線を感じてふと上を見る。そこには前髪パッツンのクソダサヘアーの若い男が立っていた。

 

「お前の言うバカとは、まさか国王様のことじゃないだろうな?」

 

 その男は手に持った槍をこちらに向け、憎悪に満ちた目でそう言った。見た目によらず声が低い。なんならかっこいい。いいなー、俺もこういう声がよかったかも。

 

「いい声してますねー、お兄さん。よければ俺の声と交換しません? 今なら半額で──」

 

 そこまで言ったところで、ビュンっという音とともに俺の横を何かが通り過ぎていった。

 

「次ふざけたら、命はありませんよ」

 

 なるほど。あの男が持っていた槍を投げたのか。当てるつもりだったのか、あえて外したのかは知らないが、せっかくならちゃんと胸を貫いて欲しかったと思う。どうせ死なないだろうけど。

 

「ちょっと! 危ないじゃないですか! マグロはまだしも私に当たったらどうするんですか!」

 

 モンモンは両手を腰に当ててゆらゆら揺れている。このみっともない動きはこいつの昔からの癖だ。

 

「ご安心ください。レディに無礼な真似は決して致しませんので」

 

 おいおい、それって差別ってやつじゃねえか? なんなら俺の「バカは高いところが好き」発言はモンモンの問いがきっかけだ。だったら俺とモンモンは同罪。つまり同じ扱いを受けなきゃおかしい話だ。

 

「ところで、先ほどの私の質問にまだ答えてもらっていませんね。もう一度だけ聞きます。あなたの言うバカとは、国王様のことではないですよね?」

 

 はぁ。しつこい男は嫌われるってじいさん言ってたけど、なるほどこういうことか。こんなパッツン騎士に構ってる暇はないし、とっとと真実というものを教えてやろう。

 

「質問に答える前に、一つだけ教えてやるよ。さっきの発言において、俺は一度も“国王“とは言っていない。だから俺のいうバカが国王のことを指してるかどうかなんて俺以外にはわからないはずなんだよ。でも、あんたは勝手に“バカ“を国王だと解釈した。それはつまり──」

 

「だ、黙れー!!」

 

 パッツン騎士は顔をこれでもかと真っ赤にして怒鳴った。だが次の瞬間、「あ、あれ?」という情けない声とともに動きがぴたりと止まった。

 

「もう一つだけ教えてやろう。あんたが探してる槍はあの下の方の家の壁に突き刺さってるあれだよ。ほら、あの豆粒みたいなかわいいやつ」

 

 なんだかかわいそうになってきてご丁寧に指で示して教えてあげるも、パッツン騎士の怒りは収まらずそのまま俺に殴りかかってきた。

 

「こ、この野郎、舐めやがってー!」

 

 俺はそのアホみたいな攻撃を風の如くすっと交わし、そいつの腹に渾身のパンチを雷撃の如くドーン!

 するとうめき声を上げながらパッツン騎士はその場にばたっと倒れた。なんだよもう終わりかよ。

 

「じゃあなー、パッツン騎士〜」

 

 パッツン騎士にさよならをして、俺は国王がいるであろう大きな扉の方へ進む。一方でモンモンは気絶しているパッツン騎士に治癒魔法を使っていた。こりゃ魔力の無駄使いだ。

 

 巨大扉に手をかけ、グッと力を入れる。押しても押してもびくともしないので今度は引いてみる。されど状況は変わらず、扉は開く気配を見せない。

 

「ねぇ、マグロ。『本当の入り口はこちらです』ってそこに書いてあるけど……」

 

 そんな馬鹿なと半信半疑でモンモンの視線の先に目をやると、そこにはたしかに張り紙があって、すぐ側には普通の扉もあった。

 

「うん、そだな。あったな、普通の扉」

 

 ……じゃあ、このでっかいのなに?

 

 俺はあまりにも紛らわしいデカ扉に一発蹴りをお見舞いし、それから普通の扉を開いた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

こちらは前編になります。主人公の旅立ちまで描いていますので、ぜひ続けて後編もお読みください!

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