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死にたい勇者は空に笑う  作者: 中野ると
東の大地編:第一章 神炎の伝承と消える少女
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ダイ15話 邂逅


 そこには――人がいた。それも、何人も。

 そして何より、そこは同じ建物内とは思えないほど綺麗な空間だった。


 ――これは一体どういうことだ?


 ふと隣を見るとそこにヨーコワッドの姿はない。

 これは夢なのか? 白い光に包まれて――それ以降の記憶がない。あの時、俺は何者かの魔法を喰らったのか?


 いくら思考を巡らせてもこれだという結論には至らない。余計に頭が混乱していくだけだった。


『三日後にはいよいよ初の魔物討伐だな。まあ、俺たちにかかれば東の魔獣・ヒュドラなんて敵じゃねぇ』


 一人の男がそう言った。白い光が顔のあたりを覆っていてそれが誰なのかは分からない。

 東の魔獣? ヒュドラ? これは何の話だ?


『正確にはヒュドラの分体よ。本体ほどの強さはないわ』


 今度は女性だ。壁にもたれかかって話している。


『とはいえ、東の魔獣の分体ともなればそこらの魔物とは比べ物になりません。用心してかからねば、返り討ちに遭いますよ』


 丁寧な口調でそう言ったのはまた別の男だ。


『その通りだ。それに、強いのはあいつであって俺たちじゃない』


 その男は吐き捨てるように冷淡に言った。その近くにはあともう一人、男が座っている。

 なんとなく、雰囲気で察する。おそらくこの男が集団のリーダー的存在なのだろう。圧倒的な余裕と強者特有のオーラを感じる。


『ははっ、やめてくれよ。俺たちは個人じゃなくて集団で強い。だからこそ、俺は東の勇者になれたんだ。俺一人じゃ絶対に不可能だったよ』


 ――東の勇者、だと?


 今、たしかにそう言っていた。ということは、俺は過去もしくは未来の光景を見ているのか? そんなことがありえるのか?


『いいか、みんな。俺たちは三日後、森に災いをもたらす魔獣・ヒュドラの分体を討伐する。東の勇者一味の初仕事だ。明日の朝ここを発ち、一日かけて集落を目指す。そのために今夜はゆっくり休もう』


 リーダー格の男の意気揚々とした発言に周りも次々に賛同の声を上げる。

 俺は心の中でリーダー格の男に感謝をする。ここから一日の距離に集落が存在する。これは集落の位置を特定する上で非常に重要な情報だ。


 そんなことを考えていると、またあの白い光が空間を包み始める。結局これが記憶なのか、はたまた幻覚なのか分からず終いだ。

 そして視界が完全に光に覆われた頃、俺の意識は少しずつ薄れていった。






   ◇ ◇ ◇






「――ょう! ……しょう! 師匠!!」


 ヨーコワッドの懸命な呼びかけで俺の意識は戻った。


「よかった。師匠、大丈夫ですか?! 師匠の背中の剣が光り始めたかと思えば、急にバタンと倒れたのでとても心配でした」


 ん? 今、なんて?


「……剣が光った?」


「はい、扉を開けた瞬間に剣が白く光り始めました。あんな光景、初めてなのでびっくりしました」


「うん、俺も全然知らない。というかこのボロ剣、ピカピカするくらいの余裕があるならもっと早く知りたかったぜ。俺はてっきり今にも壊れちまうんじゃねえかって思ってたんだ」


「なるほど。パッツさんとの戦いで師匠が剣を使わなかったのはそういう理由があったからなんですね!」

「ああ、その通りだ」


 ――ほんとだよ、別に剣使うの怖かったからとかじゃないよ。


「ともあれ、ボロ剣が白く光ったってのは不可解だな。大体こういう時って力の発現! ってことなんだろうが、別に幻覚を見る能力なんていらねえしなー」


「えっと……幻覚というのは?」


「そういや言ってなかったな。俺はさっきまで謎の光景を見てたんだ。それが夢なのか記憶なのか何なのかはちっとも分かんねえが、そこに出てきた男は自らを東の勇者と名乗ってた」


「東の勇者……。それはつまり、その方は過去もしくは未来の東の勇者ということなんでしょうか」


 ヨーコワッドは難しい顔で言う。なんでこいつそんなに真剣なんだよ。


「分かんねえな。第一、過去だろうが未来だろうが、なんで俺が知らない男の幻覚を見なきゃいけねえんだって話よ。可愛い女性ならまだしも……」


 おっと、子どもの前であまりそういうことは言わない方がいいな。まあ、年齢は三つしか変わんねえけど。


「たしかにそうですね……」


 またしてもヨーコワッドは真剣な表情で考え込む。

 一方の俺はそこまで真剣ではなかった。考えて分かる気もしないし、そもそもあまり考える気にもならない。


 きっといずれ分かる時が来るのだろう、という漠然とした予感のようなものがあるだけだった。

 何より、今はモンモンを探すことが最優先だ。幻覚で見た光景から集落の大体の位置も把握できたことだし、さほど難しい話ではないはずだ。


 その瞬間、ひゅーっと風が吹いて古びた窓がバタンと開閉した。

 外を見ると辺りはすっかり暗くなっていた。今日はここまでか。


「今日はここで一晩過ごすぞ。汚くてボロくて最悪の宿だが、まあ外で野宿よりはマシだろ、多分」


「分かりました。明日こそ絶対、モンモンさんを見つけましょう!」


「ああ、必ずな」


 モンモンは必ず見つける。そして無事に三人で村に戻り、おっさんから報酬を頂く。

 こんな目に遭ったのだ、報酬は倍にしてもらいたい。


 俺たちはそれぞれ汚いベッドの表面をパタパタと叩いてゴロンと寝転がった。

 思えば、久々の休息だった。ここまで休む間もなく捜索にあたっていた。いついかなる時も休息は不可欠だ。


 そのせいか、ベッドに寝転がった俺たちは一瞬にして眠りについた。眠りについてしまえば、汚いベッドもボロい宿も気にはならなかった。


 そうして俺たちは深い眠りについた……はずだった。


 少し経って、ヨーコワッドによって俺は起こされた。


「てめぇ、師匠がぐっすりおねんねしてるってのにどういうつもりだ」


 心地よい睡眠を妨害された寝起きの俺はかなり不機嫌だった。


「すみません、師匠。なにか、嫌な予感がして起きてみたら……」


 ヨーコワッドの声は震えていた。顔はこわばっていた。

 そこでようやく、何か異変が起きていることを察知した。一体、なにが起きている?


「この建物なんですが……」


 俺は固唾を飲んで次の言葉を待った。

 そして、ヨーコワッドは深刻そうに言った。


「――魔物に囲まれています」


ここまで読んでいただきありがとうございます!

さて、今回でマグロが見た“幻覚“は物語における重要な要素になります。

あの光景の真相は章の最後に明かされますので、お楽しみにお待ちください。

次回 謎の現象が魔物に囲まれたマグロたちを襲う!

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