ダイ9話 モンモンと過ごす夜
ー モンモンの素晴らしい日記 ー
モンモンです。
なんかマグロのおかげで酒場に一晩泊めてもらえることになりましたー!
でもでもでも! 部屋はマグロと同じだったんですよー
だから、この機会にマグロと小さな約束をしました。
いつか、その日が来たら。私はマグロにその理由を話すという、約束を。
「おい、なんでこの状況でそんなに楽しそうなんだよ」
あまり使われていないからか、少し古汚い部屋に俺とモンモンが二人きり。一体どうしてこうなった。俺はどこで選択を間違ったんだろうか。
「楽しいことを待つのではなく自分から楽しみに行きなさい、みたいなことスライムじいさんも言ってたし! どうせなら楽しまなきゃ損でしょ!」
――あのじいさん、そんな台詞残してたのかよ。
「それにしても、スライムじいさんってのは不名誉だな。死因だぞ、死因」
「だってー、普通におじいさんって言っても伝わんないでしょー? どのじいさん? ってなるじゃーん」
まあたしかに一理ある。この場合、酒場のおっさんもじいさんに含まれるし、あの国王も例外ではない。とはいえ、そんな変な台詞を残すじいさんといえば一人しか思い浮かばないのもまた事実だ。
「まっ、せっかくベッドあるんだしゆっくり休もうよ」
「ああ、そうだな。ベッド、一つしかないけどな」
あのジジイ、同室では飽き足らず同じベッドとか完全に俺たちを馬鹿にしている。
「でも昔はよく一緒に寝てたじゃーん。あれ、もしかしてマグロ、恥ずかしくなっちゃったのー? 可愛い私と一緒に寝れるって分かって照れちゃってるのー?」
モンモンは実に楽しそうにクスクスと笑う。一方、俺はちっとも楽しくない。不快極まりない。
「別にそんなんじゃねえし。というかむしろ、お前は俺と一緒に寝たいの? あれ、もしかして一人でおねんねできない感じ? 一人だと寂しいのかなー?」
「ち、違うし! 私だってもう立派な大人なんだから! 昔みたいにお母さんいなくても、大丈夫だから……」
ムキになって反論していたモンモンだったが、徐々にその勢いは消えていき、やがて儚げな表情を浮かべ黙り込んでしまった。
「……飯、どうする?」
とにかく、話題を変えたかった。しんみりした空気は居心地が悪いので嫌いだ。
「今日はいいよ。森の調査すればいっぱいもらえるし、それまでの辛抱ってことにしよ」
「まあ、俺が八割もらうけどな」
「なんで?! おかしくなーい?! 私も行くんだよ! そこは半分こっつでいいでしょふつう!」
モンモンは立ち上がると、腰に手を当てゆらゆらと揺れる。いつもの変な怒り方だ。
以上、俺がこいつといる間に身につけたモンモンの扱い方だ。モンモンにツッコませるような発言をすれば、大抵の場合は元気になる。
さて、空気も元に戻ったことだし寝るとしよう。とはいえ、同じ部屋にモンモンがいることの居心地の悪さは変わらない。
「んじゃ、俺は良い子なので寝るわ。ベッドは特別に譲ってやる」
「え?! 一緒に寝ないの?」
モンモンはベッドに腰掛け、パタパタと叩きながら言う。アホかこいつは。
「そんなのお断りだね。俺はそこの椅子で十分だ」
「えー」
どうしてかモンモンは不機嫌そうな顔をする。小さい子が自分の思った通りにいかない時に浮かべるような顔だ。
「……私は、一緒に寝てもよかったのになあ」
俺はそれに反応しなかった。いや、反応したくなかったといってもいい。
だから、部屋には耳が痛くなるほどの沈黙が訪れた。俺もモンモンも何を言うことなくただ時間だけが過ぎていく。その沈黙はこれがまた居心地が悪かった。
「寝るぞ」
ただ一言つぶやいて、俺は椅子を二つ並べて特製の寝床を作り上げた。背中が痛いが、モンモンとベットで二人きりよりかはいくらかマシだった。
モンモンは反論することなくベッドに寝転んだ。古いベッドが軋む音がした。
「……私が重いわけじゃないからね?」
「分かってる。いいから、はやく寝ろよ」
「寝れないよ。なんだか、寝れない」
「それは多分喋ってるからだ。よし、黙ってみろ」
「……分かった」
「返事したら意味ねえだろ」
「あははっ、たしかに」
モンモンの楽しげな声はゆっくりと暗闇に溶けていった。
それからしばらくの間、部屋は完全な沈黙を保っていた。ほんの少しの雑音と下の階から聞こえてくる酔っぱらいの声と風が窓を揺らす音だけがそこには存在していた。
だが、そんな時間も終わりを告げる。無論、モンモンによって。
「……ねぇ、マグロ」
一瞬、無視してやろうかと思った。割と本気で思った。でも、今無視したらその分の腹いせはまた後日襲ってくる気がして仕方なく反応してあげることにした。
「マグロ、寝てます」
「起きてんじゃん、嘘つきマグロ」
「まったく誰のせいだよ」
「さあ、分かんない。でさ、マグロ。私がマグロを死なせたくないと思う理由なんだけどね」
――なんだよ、まだ考えてたのかよ。
「……なんだと思う?」
「分かったんじゃなかったのかよ!」
思ったよりも大きな声が出てしまった。ついでに眠気もやや吹き飛んでしまった。最悪だ。
「いやーまだ分かんないですよぉー。でも、多分そのうち私の中で答えが出ると思うんだよね。だから……いつかその時が来たら、教えてあげるよ」
いつかその時、か。一体いつになるのやら。俺としてはほんの一瞬の些細な疑問に過ぎなかったのに、まさかそんなに重く捉えられてしまうとは思いもしなかった。
「ああ、いつかな」
「うん、いつか……」
その言葉を最後に、モンモンが口を開くことはなかった――というとそのまま永眠したかのようだが実際は違う。ただ、ようやく眠りについてくれたという話だ。
俺はやっとの思いで手に入れた静寂を存分に堪能しつつ、ゆっくりと眠りについた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回はかなりゆったりとしたお話になりました。
たまにはこんな回があってもいいんじゃないないかな?
また次回もよろしくお願いします!
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