ダイ7話 東の勇者マグロvs元騎士パッツ -決着-
「……は? 不死身だ? お前が? バカにすんのも大概にしろよ」
そんなこと言われても、俺が一番よく分かってないのでなんとも言えないのが実情だ。なんだよ不死身って、と未だに思う。まったく心当たりがない。
「嘘だと思うだろ? それがな、本当なんだよ。現に俺はお前の攻撃をモロにくらっても死んでねえ。おかしいと思わないか? お前の槍はたしかに俺の胸を貫いた。なのにこの通り生きてるんだぜ。それはお前が一番分かってるはずだろ」
「ああ、たしかに俺はこの槍でお前の胸を貫いた。何かに当たった感じもしなかった。血だって出てる。でも、お前は死んでねえ。おい、一体どういうことなんだよ」
「だから言ってんだろ、俺は不死身だって。嘘だと思うならもう一度刺すか? あと、服着ろよ恥ずかしい奴め」
いつまでもそんなもん見せつけるな。大したモノ持ってないんだからさ。
「う、うるせえな。今は関係ないだろ」
「関係大アリだね。お前がこっちに殴りかかってくる時、お前のジュニアが激しく揺れるもんだからおかしくて力が抜けたわ。今も全然集中できねえしよ」
すっかりあの光景が目に焼き付いてしまった。最悪だ。もし記憶を一つ消せるのなら、今日の出来事を選ぶかもしれない。
「……ったく、仕方ねえな。フォル、すまんが少しの間だけ頼む」
「うん、分かったよ」
するとスライムはパッツン野郎にぽよんとまとわりついた。服がないのにどうするっていうんだ。いっそのこと体ごと溶かしちゃおうと?
「よし、これでいいだろ。だから早く教えろよ」
「いやいや、そんなことよりそれ何? 最近の流行り? え、何それ」
なんと、恐ろしいことにまとわりついたスライムがパッツン野郎の服代わりになっていた。あいつの裸体と接触しなければならないスライムが不憫で仕方ない。ついでにパッツンジュニアも溶かしちゃえ。
「これは名付けて、自在生物装甲だ。見れば分かる通り、フォルに鎧のような役割を果たしてもらってる。フォルは溶解に特化したスライムだからこの鎧は大抵のものを溶かすことができる。しかもこの状態でも俺の“強化“は発動できる。まぁ、十二分な強化ではないけどな」
パッツン野郎は長々と説明する。こいつ、俺の不死身の話もう忘れたんじゃないか?
「お前、そういうのを虐待って言うんだぞ」
「俺とフォルの同意の上での行動だ。お前は変に口を出さなくていい。余計なお世話だ」
同意という言葉にそこまでの信憑性はない。当事者だろうが第三者だろうが同じだ。スライム側が嫌々受け入れているとか、脅されて受け入れているといった可能性も無きにしも非ずだ。
「フォルくん、かわいそ……。嫌なら嫌って言っていいんだからね?」
気づけばモンモンはスライムに歩み寄って頭部をぽよぽよと撫でていた。何してんだこいつ。
「おい忘れたのか、そいつはお前の服を脱がした犯人だぞ。そうだ、この際そのお詫びに弾力を分けてもらったらどうだ」
せっかくだし、立場はモンモンの方が上なのだから特に問題のない話だろう。良案だ。
「私そんなマグロみたいなことしないから! あの時は怒ったけど、私そういうのあんまり引きずらないから、大丈夫!」
「なんかお前めっちゃ良い奴っぽくて似合わん。モンモン、無理すんな」
「なんでよ! 私そんな悪い人じゃないし! どちらかといえば良い人だし!」
「おい、目を覚ませ。もう朝だぞ」
「寝言で言ってるわけじゃないから! 本気で言ってるから!」
それはそれでタチが悪いな。自覚がないというのは怖い。
「おい、俺を除け者にするな。ちゃんと服も着たんだから今度こそ教えろよ」
なんだよ覚えてたのかよ。本当にしつこい男だな。
「別に服を着ろとは一言も言ってねえけどな。俺はただ可愛い可愛いパッツンジュニアを隠せって言っただけだ」
「だからちゃんと隠しただろうが。お前の方こそ脳みそ溶けちまったんじゃねえか?」
「だとしたら、脳みそ溶けちゃった仲間だな。先輩って呼ばせてもらうわ。まあ、微塵も敬ってないけどな」
こんな奴の部下なんて死んでもなりたくない。死ねないけど。
「話を逸らすのもいい加減にしろよ、クソ野郎。今の俺は本当にお前を溶かすことができるぞ」
おっと、溶かすことができるのはお前じゃなくてスライムな。
あまりのしつこさに俺も流石に限界なのでとっとと分からせてあげることにする。まったく、手のかかる男だぜ。
「なら、もう一度俺を刺してみろよ。そうして、今度こそ俺を殺しきってみろよ」
簡単な話だ。納得がいかないなら納得がいくまで試してみればいい。何においても、最後に信じられるものは自分自身で導く答えにある。
「いいんだな、それで。今度こそ確実に仕留めるぞ」
「ああ、来いよ」
俺は両手を大きく広げ、空を仰ぐ。さあ来いパッツン。
「舐めやがってぇ!」という叫びと共に奴の槍は再び俺に突き刺さり、思わず「ゔっ」と声を漏らす。相変わらず痛えな。
「今度は確実に心臓を刺した。これでお前の命は確実に終わりだろう」
よほど自信があるのか、パッツン野郎は勝ち誇った表情を浮かべている。
「……残念だったなあ、パッツン。俺まだ死んでねえよ」
本当なら一度で理解してほしかったところだが、相手がパッツンなので仕方ない。流石に二度も目の当たりにすれば理解してくれるだろう。
「な、な……なんでだ! なんで死んでねえんだよ!」
――ちっとも話が進まねえ。
「二回も見りゃあ分かるだろ! 俺は不死身だっつってんだよ!」
「おー不死身だね、ってならねえだろ! 一回でも二回でも三回でも分かんねえもんは分かんねえんだよクソ野郎!」
「それはお前の理解力がお子様程度だからだろ。いい加減分かれ。実際、俺死んでねえだろ。つまり不死身ってことだろうがよクソパッツン」
「その程度の説明で理解できると思ってるお前の方がお子様だろうが。なーにが不死身だよ、そんなのあり得る訳ねえ!」
はぁ、こいつ本物のバカだ。自分で心臓を刺したって言ってたじゃねえかよ。
「じゃあ分かった。納得いくまで俺の心臓を串刺しにしろよ。それだけやれば流石に理解するよな?」
これ以上こいつに時間を割くのは避けたかったが、この先もこの調子だといつかうっかり殺してしまうかもしれないので今のうちに面倒ごとは片付けておきたい。
「よーし分かった。どんな小細工があるのかは知らねえが、何度だってやってやる。そうだな、お前もう服脱げ」
――え?
「お前……そういうアレか。すまん、お前とだけは無理って心に決めてんだ」
「ちげえよこの変態クソ野郎が! 俺だってお前となんかお断りだね」
「誰が変態だよ、この変態パッツンめ。いいから早く俺の心臓を串刺しにしてみろよ」
そう言うと俺は素直に服を脱いだ。これ以上怪しまれ続けるのは時間の無駄だからだ。
「どうなっても知らねえからな」
そう言うとパッツンはもう一度、俺の心臓を刺した。
それからパッツンが納得するまでに俺の心臓は十二回ほど串刺しにされた。モンモンは限界を迎えたようで、「もう無理ぃ」とか言いながらその場に倒れていた。
「おい、お前……」
「これで流石に分かっただろ、俺が不死身だって――」
「……お前、なんで不死身なんだよ?!」
「俺が知りてえよ!」
ついに限界を迎えた俺は、気づけばそう叫びながらパッツンに金的圧縮拳を喰らわせていた。パッツンはうめき声を上げながらばたっと倒れた。
「さて、こいつも静かになったことだしそろそろ行くか」
これでやっと旅を再開できる。魔王に逢うための旅を。
「行くって、どこにー?」
「……え?」
「だから、これから私たちはどこに行くの?」
「……あれ、俺らってどこに向かってるんだっけ?」
「知らないよ! 私はマグロについてってるだけなんだから!」
一難去ってまた一難。ここで一つ大問題が発覚してしまったようだ。
――えっと、魔王ってどこにいるの?
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついにマグロとパッツの因縁の戦いに決着です。
そして大問題が発覚! 旅の目的でもある魔王の居場所を知らないマグロたちは例の酒場に再び?!
そこで聞いた奇妙な噂とは……?
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