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死にたい勇者は空に笑う  作者: 中野ると
序章 死にたいと願う旅へ
1/29

ダイ0話 死にたいんだから死なせてくれよ!


 鋭利な刃物を胸の前にすっと持ってくる。もうこれで何度目だろうか。すっかり慣れたもんだ。


 今さら躊躇する必要も意味もないので、ほんのわずかな希望を込めてぐっと刃物を胸に突き刺した。

 何度もこうしているから前よりは痛みを感じにくくなったけど、やっぱり刃物を胸に刺すと痛いんだよな。そのことは俺が誰よりも知っている。

 血がどろどろと流れて、肺が潰れるような息苦しさで死にそうになる。

 

 でも、死なない。

 死にそうになるだけで、やっぱり今日も死なない。

 いや、死ねない。

 

「もー、マグロったらまーた死のうとしてるよー。どうせ死なないのによくやるねー」

 

 そう言いながら呆れたような顔でこちらを見ている彼女は、俺の幼なじみのサー・モンモン。とっても可愛い名前だ。顔は悪くはないんだが、性格はかなり悪い。なぜなら俺を死なせてくれないからだ。

 

「もしかしたら今日は死ねるかもしれないだろ。あと、前から気になってたんだけど、なんで俺のことマグロって呼ぶんだよ。俺にはマーグロッドっていう素敵な名前があるんだが」

 

「それくらい知ってるよ! でもマーグロッドって言いにくいし、略してマグロ! なんか美味しそうでいい名前だと思わない?!」

 

 なんだよ美味しそうな名前って。もしかしてこいつ、俺を食べごろまで取っておくために俺を見張ってるのか? 最後はよだれ垂らしながら調理して終了ってか?

 

「お前の価値観ってのはちっともわかんねぇなあ。まぁ、わかりたくもないけど」

 

「それを言ったらすぐ死のうとするあんたの考えと、それでも死なないその体の方の方がちっともわかんない!」

 

「そんなの俺だって知らねえよ。普通に生きてたらいつのまにか不死身になってたんだから。せめて『あなたはこういう理由で不死身にしました。(返品可能)』ってことくらいは教えてくれてもいいよなー。未知イコール恐怖」

 

「もういいから! 今から治すから大人しくしてて!」

 

 そう言うとモンモンは片方の手をこちらに向け、目を瞑り意識を集中させる。

 

「さー、いくよ! モンモンの……魔法! 治れー!!」

 

 酷くシンプルな詠唱と共に俺の身体は緑色の光に包まれる。この緑色がいきなり紫色に変わって毒ガスで死んだりしないかな。しないか。

 

「よし! モンモンの魔法、完了っと」

 

 なにが完了だよまったく。余計なお世話だっての。

 

「あーあー今日も死ねなかったー。一体いつになったら死ねるんだか」

 

「って言う割には、最近ずっと同じ死に方だよね。もうあれ何十回も見たんだけど。もしかしてネタ切れ?」

 

「いいや、違う。これは初心に帰るっていうんだ。初心忘れるべからずって近所のじいさんも言ってたろ?」

 

「でもあのおじいさん、そう言いながらスライムにやられて亡くなったよね? なんか説得力なくない?」

 

「まったくこれだからバカ魔女は。スライムにやられるとか、ある意味初心だろうが」

 

「……たしかに」

 

 迫真の表情でこくりと頷いたモンモンは心底感心しているようだった。さすがはアホ。馬鹿正直に俺の冗談を受け入れやがった。

 

「まぁとにかく、俺はこの不死身の呪いを打ち破るのに忙しいんだ。暇な魔女のお遊びに付き合ってる暇はないの。さ、帰った帰った」

 

「だーれが暇な魔女さ! 私は立派な魔法使いだよ! それに、私がこうやって治してあげてるからあんまり痛い思いしなくて済んでるんだよ?! もっと感謝してもよくない?!」

 

「寝ぼけてんのかクソ魔女! お前がこうやって治してなければ、もしかしたらもう俺は死んでたかもしれないんだぞ?!」

 

 そう。もしかしたら、あの時に。

 あの日、まだ俺がとても可愛いお子様だった時の話だ。

 モンモンと一緒に崖っぷちに咲くという伝説の花を探しに行った時だった。俺はつい足を滑らせかなりの高さの崖からひゅーんと落下してしまったのだ。

 最後に見たのがモンモンの目玉が飛び出そうなくらいに驚いたアホ顔だなんて最悪だ、とか思いながら崖下に落ちた。

 

 でも、俺は死ななかった。治癒魔法どうこう以前に、俺の身体にはただ痛みが残っただけだった。それはもう痛くて痛くて仕方がなくて、どうして死なせてくれないんだと子どもながら強く思った。

 少し経って、うめき声を上げながら暴れている俺の元へモンモンが駆けつけ、治癒魔法を泣きながら使って俺の怪我を治した。

 

 その出来事によって、俺は自分が不死身であることに気づいた。モンモンの母親で大魔法使いのサー・トロモンさんに聞いてみたけれど、不死身の魔法なんて聞いたことがないと言っていた。

 それから今日に至るまで、俺は死ぬことに最善を尽くして生きてきた。ものすごく矛盾だらけの人生だ。

 

「それでも、どうせ死んでないよ。私は言い切れる。だって、今こうして生きているから!」

 

 モンモンは自信満々だった。その自信は一体どこから湧いてくるのだろう。まったく不思議なやつだ。

 

「なるほど。さすがは大魔法使いのモンモン様だ」

「でしょ」

「うん」

「だよね」

「うんうん」

「その通りよね」

「うんうんうん」

「生きたい?」

「ううん」

「……じゃあ、死にたい?」

「うん」


ここまで読んでいただきありがとうございます!

新連載です! 楽しみながら全力で頑張ります!

感想や評価のほうもお気軽にお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] モンモンとマグロくんの掛け合いにクスリときました。ふたりとも実に仲が良い!
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