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「僕が魔法少女だったのは、軽く百年以上も前のこと。
「空姫さんはまだ生まれてるわけないよね。
「空姫さんのお母さんだって生まれてないしね。あはは。
「さてさて。さてさてさて。
「この神殿——そう、魔法少女神殿。
「あ、お墓ってことになってるんだ、へえ。
「でも先代勇者の遺体なんて眠ってないよ。ごめんよー。
「その代わり——僕A子が良いことを教えちゃう。
「良いこと——あるいは悪いこと。
「どちらにせよ、空姫さんがこの世界に来た理由は判明するよ。
「判明させてあげられる答えを持っているからさ、僕は。
「良かったね——って言っていいのかわからないけども。
「この世界——空姫さんにとって、この謎の世界。
「世界の名前は『マデューリンド』。惑星名『マーデル』。
「どちらの名前も空姫さんは興味ないだろうけども。
「まあ、知らないよりはマシって情報さ。
「肝心なのは、この惑星のこと。名前ではなく惑星のこと。
「異世界——あるいは異星。
「それがきみの相棒——ピンボケさんの見解だろう。
「正解ではあるよ。ちょっと惜しいけど。
「大正解は、地球の後継惑星。
「端的に言うなら、第二の地球。
「地球はどうなったかって? それはね。
「地球は爆発したよ。今きみたちが居る時代から、およそ六百年ほど前に。
「残念ながら、惑星の寿命ってやつさ。仕方ないことだ。
「そして誕生したのが、その惑星『マーデル』。惑星年齢はまだ五百歳ほどだから、若い惑星だね。
「わかりやすく言うなら地球の弟だ。妹かもしれないけど。
「その惑星の位置を調べれば真実だとわかるよ。
「あとでピンボケさんに調べてもらうといい。
「きちんと太陽系だから。ウケるよね。
「ウケてないかあ……まあそうか、そうだよね。
「よし、切り替えて。
「きみがそこに居る理由を話そう。
「空姫さんがそこに居るのはなぜか。
「なぜ地球から、地球ブラザーとも言える『マーデル』に転移しちゃったのか。
「細かく言うなら転移というかタイムリープだけどね。
「ややこしいから転移ってことにしておくよ。
「転移の原因——それはきみの力が強すぎたからだ。
「理由は単純だが、納得いかないよね。わかるよ。
「魔法少女の上限。きみも知っているよね?
「そうそう。魔法少女は時代に一人ってやつ。
「一人。確かにきみは一人だ。ずっと一人で戦ってきた。
「かくいう僕も同じく一人だった——が。
「世界の上限を超えてしまったんだよ。単体でね。
「だから世界から弾かれた。仲間はずれと言っても差し支えはない。
「つまりきみは、強すぎたゆえに見放された。
「ウケるよね。いや、ムカつくよね。
「そういう魔法少女は稀に現れるんだ。僕もその一人。
「だからこの世界に飛ばされた。きみたちより遥か前にね。
「僕の魔法は特殊でね、未来を読めるんだ。
「本にして読めるんだよ。未来を。
「だからきみとの会話は、本に書かれた未来と照らし合わせて話しているんだ。
「なので、誤差が生じてるってわけ。ご愛嬌。
「この神殿を造ったのも、きみと話すため。
「きみと会話するためだけの神殿。
「伝えたいことは二つ。
「一つはさっき話した、飛ばされた理由。
「もう一つは、勇者のこと。
「勇者——今も塞ぎ込んで震えている、ユーシアノさん。
「その勇者をどうするかで、世界の舵は大きく変わるから。
「おっと。過去の僕が未来のきみたちに言えるのはここまでだ。
「未来を左右する発言ができるほどの人間じゃないしね。
「それに——あと二分でその神殿は崩れる。
「そして、お客さんが来るよ。
「崩れた瞬間に。黒いローブの人物が来る。
「招いてないけどね、僕は。
「勝手にやって来る。その黒ローブは勇者を狙っている。
「どうするかは、きみに任せるよ。
「なんたって僕はもう死んでるしね。このホログラムは遺品さ。
「僕から後輩魔法少女へのメッセージ。
「身勝手なメッセージでごめんだけど、これだけは言わせて欲しい。
「魔法少女として——どんな世界でも平和を任せたい。
「魔法少女にしか頼めないから、こんな形でのメッセージを許してくれ。
「もちろん、受け取るも捨てるも空姫さんの自由だ。
「世界を救う力があっても、救わなくてもいい。
「たしかきみはそう言っていたね。
「その考え僕は大好きだよ。僕は支持する。
「だからこそ——きみに託すことにしたんだ。
「世界を救う力があったら、救ってしまうきみに。
「あと一分。じゃあ僕はそろそろおさらばするよ。
「僕A子の魔法少女としての役目は終わった。
「きみに託す——それしかできない僕でごめんよ。
「本当なら一緒に戦いたかった。でも、時代がそれを許してくれない。
「また会える日は来ないから、これでさよならだ。
「グッバイ、空姫さん。でもまた会えたら良いね。
「どうかきみに、最高の未来が訪れますように」