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第34話「こんな簡単に決めちまっていいことなのかよ……!?」

「はい……?」


「だから出張だよ、出張」


「それは分かるのですが」


 毎度のことながらこの人はいつも言うことが唐突過ぎる。それに加え、彼の言葉には判然としない部分があるのがどうにもやり辛い。

 何から質問を返していけばいいのか思いあぐねていると、会話を聞きつけた八重樫がいつの間にか俺の側にまで迫っていた。


「三浦さん、どうかなさいましたか?」


「ああ、八重樫君もちょうどいいところに。そういえば君にも関係がある話だったよ」


「ちょっと、八重樫にもって……まさか、君たち二人というのは」


「うん? それはもちろん九原君と八重樫君の二人という意味だが、それ以外にあるかい?」


 当然だと言わんばかりの態度は気に食わないが、訊ねようとしていた疑問はこれで一つ解消した。


「なぜ二人で行くことになっているのですか」


 しかしそれはそれで意味が分からないことだった。いつもなら一人で行っていた仕事を、どうしていきなりペアで遂行しなければならないのか。

 俺の表情がよろしくなかったのか、対する課長は少し怯んだ表情だった。


「なんでって、社長からの通達とのことだよ。ペアで仕事を行うことで怠けを防止し、効率的な新人教育を実現するって話さ」


「その理屈は分かりますが。現に今までの多くの仕事はそのように執り行われてきましたし。けれど出張まで同じようにするというのはいくらか急過ぎはしませんか」


「はははっ。実を言うと僕も同意見だけど、あの社長のことだからね。きっと上手くいくだろう、というのが他のお偉方を含めての総意だよ」


 自由闊達な気質がある一条蓮太郎の会社経営は、専ら雇用者に優しく、変な堅苦しさもない。さらには離職率も低く利益も安定している。ゆえに部下からも信頼が寄せられており、俺たちも言われたことには素直に従ってきたのだが。


(流石にフットワークが軽すぎるんじゃねえか? 社長を信用するのも大事だが、もう少しバランスくらいとってほしいもんだ)


「九原君の担当とはいえ本当に入社して日が早い八重樫君も同行させるのは、僕も一瞬気が引けたのだけど……これも社長からの強い推薦があってね」


(いやこれも社長の仕業かよ! なんかこの状況を楽しんでねえか、あのフランスかぶれが!)


(シャチョーってやりたい放題なんですね……)


 同情にも似たミコの声が脳内に響く。たまに出す蓮太郎の茶目っ気が、よりによってここで発揮されるとは。

 諦めたように傍に控えていた八重樫の顔をじっと見つめる。中学生かと見間違うほど小柄で、体格も華奢ではあるが、曲がりなりにも美人といってもいい女だ。

 どうやら俺は、これからそんな奴と一週間行動を共にしなければならないようで。


「どうかしましたか、九原さん?」


 何を考えているのか分からないポーカーフェイス。だがその声色には明らかに愉しげな色が混ざっていて。課長の前だからとわざわざ普段使わない呼称で呼ぶ当たりに余裕を感じて腹が立つ。


「……ですがお話は分かりました。経験が浅く、未だ若輩の身ですが、与えられた仕事はきっちりとこなしますのでっ!」


「おお……! やる気に満ちたその態度、非常に感心だね八重樫君。けれどこれは君にとって少し実践的で、実験的な研修でもある。あまり気負わず、多くは九原君を頼ってしまっていいからね」


「はい、そうさせて頂きます!」


 口を挟む間もなく、あれよあれよと話が大海へと漕ぎ出していく。

 決められたことを告げているだけの課長はともかく、八重樫はなんでそんなノリノリなんだ。少しはものを考えて発言しているのだろうか。即断即決していい内容じゃなかっただろう。


「ちょっと待って――」


「じゃあ確かに伝えたからね。出張は来月の連休明けからの予定だから、一週間ちょっと後になるね。それまでにしっかりと準備を整えておくように」


「はい、三浦さんもわざわざ直接連絡してくださってありがとうございます!」


 俺の言はいとも容易く遮られ、瞬く間に予定が決まってしまった。


(冗談だろ……? こんな簡単に決めちまっていいことなのかよ……!?)


「突然のことにちょっと驚きましたが、頑張りましょうね九原先輩っ!」


 呆然とする俺に、なぜかご機嫌な八重樫。始業開始間もなく、俺の思考は業務に支障が出てしまいかねない程に掻き乱されてしまった。

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