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万年カノジョなしの俺、婚活の相棒は指輪の精霊でした。  作者: 鈴谷凌
5章「光を失った宝石」
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第23話「そんな重たい顔してると幸せが逃げちゃいますよー」

 長かった彩萌の探し物騒動もこれにてようやく終幕。そして夜が近づいていることもあって俺たちは早々に別れる段になった。

 ツァイトとミコはそれぞれ物の姿をとり、一条家の迎えの者が慌ただしくやって来た。


「彩萌様、いったい今までなにを……!」


 ドラマか映画みたいな非現実感を纏った黒服の女性が、無駄に体の長い乗用車を停めて駆けてくる。


「申しわけありません美織みおり様……少し、己の不勉強を反省していたところですわ」


「……? まあ、お話は後にしましょう。九原さん、状況は把握しかねますがなにやら彩萌様を助けていただいたご様子。一条家を代表してお礼を述べさせていただきます」


「しょせん成り行きですよ。社長令嬢が困っていて助けに入らない社員なんていません」


「ご謙遜を。とにかく今回も助かりました。このことは一条社長にも報告させていただきますね」


「はは……恐縮です」


 社会人になって五年。一条彩萌の付き人、松崎美織ともすっかり顔馴染みとなってしまった。

 すっかり慣れたやり取りを交わし、松崎は先に運転席に座る。

 それに続こうとしていた彩萌は、車内に足をかけようとし、ふとその動きを止めてこちらの方へ視線を寄越す。


「あの、九原さん? わたくし今回のことはいずれ直接お礼させていただきたいと思ってますの……ですから、その……」


 言葉は短く切られ、瞳は潤み、頬は熱を帯びていた。近づきがたい思いが如実に感じられて、俺は一瞬だけ足が竦んでしまったが。


「何かあれば連絡を頂ければ。変な共通点もできてしまったことだし、相談とかあればお気軽に」


 この期に及んで逃げることはしたくなく、俺は声を震わせないようにはっきりと強調して言葉を紡いだ。

 心内にあれば色外にあらわると言うが、花が咲くような笑顔を浮かべる彩萌を見る限り、どうにか誤魔化せたみたいだった。




「ああ、やっと着いたか……」


 薄暗い道で足を止め、まばらに明かりがついたビルを仰ぎ見る。昼に出ていったきりの弊社だが今では妙な郷愁さえ感じるほど。

 それだけ今日という一日は濃かったのだろう。ミコと共に出社し、八重樫に振り回され、七井に怯ませられ、その上あんなにも輝かしい成長の芽を間近で目にしてしまった。

 ふうと息を吐けば、生気も共に出ていくような気がして、どっと疲れが押しよせる。


(お疲れさまでした、晃仁様っ)


 俺を労おうとしてくれているのか、妙に弾んだミコの声が頭に響く。

 今回は良くも悪くもこいつに引っ張られたものだと、俺の意識は早くも一日を振り返りはじめているが。


(まだ生憎とやることが残ってんだよな)


(そうなんですか? もうひと踏ん張り、ファイトですっ)


 残っていた同僚と軽く挨拶を交わし、宛がわれたデスクにどかっと腰を下ろす。

 今週最後の日報を作成し、同じ営業とその日の情報を共有していると、沸々と疑問が湧き上がってくる。


(なんかさっきから妙に優しくねえか?)


 帰り支度をしながら問いかける。視線を投げた先にある指輪がくすんだ光を発していた。


(……わたしはいつでも優しいです)


(お前はそのつもりなのかもしれんが。今はなんというか、やけに気遣いが感じられる)


 ミコは基本的に俺に対して積極的で、それがかえって煩わしくもあったのだが。今の態度にはそういった押しの強さが一切なかった。

 手を動かすついでに訊ねた簡単な問いだったが、対するミコの様子は一転して重いものだった。


(うー……この話は帰ってからにしませんか?)


(ん? まあ、その方がいいか)


 帰ってから、ということはそこそこ考えがあってのことなのだろう。

 ちょうど俺も、帰ってから話すことがあるとミコに告げていた。つまりこいつの話はそれに纏わることか、もしくは同じくらい真面目な話題だということ。


 つくづく濃い一日だと何度目かの溜息が零れる。


「あ、九原先輩だ。どうしたんですか、そんな重たい顔してると幸せが逃げちゃいますよー」


 どこぞの色ボケ精霊のようなことを言いやがる。俺はわざとらしく視線を鋭くにらみつけたが、相手の顔を見て呆気にとられる。

 声の主は八重樫で間違いなかったが、思いのほか真面目な面持ちをしているのが意外だった。

 どうにも気まずくなって視線を逸らす俺に、八重樫は片手で口を隠して静かに笑う。


「本当に今日の先輩はへんですね」


 またそれか。聞き慣れ、幾度となく反芻はんすうしてきた言葉に失笑する。誰しもがそう言うなら俺が変わったという事実は確かなのだろうが、その良し悪しについては判断しかねる。

 言葉にならない声を漏らしていると、八重樫はふとその双眸そうぼうを見開いた。


「あ、そうだった。こんな風に話している場合じゃありませんでした。社長がお呼びですよ、先輩」


「一条社長が?」


「はい……えっと、もしかして私とのことが原因で叱られるとか……? だとしたら本当に申し訳ないので私も一緒に……」


「いいって。多分違うし、用件も見当ついてる」


 相変わらず表情豊かなヤツだ。似合わない気遣いをかけてくるのはもう間に合っていた。きっぱりと了解を示して重い腰をあげる。

 八重樫に言ったようにこれはそんな危機的な用件ではないと思っているが、それでもあの御仁ごじんと相対するとなると些か消極的になってしまうのは止む無しだった。



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