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一難去ってまた一難



 けれどテオはやがて、子供みたいな笑みを浮かべた。


「ニナって、俺の大切な友達と同じ名前なんだ。お前もきっといい奴なんだろうな」

「…………」

「助けてくれてありがとう。助かった」


 そんな言葉に、胸がじわじわと温かくなる。私はテオのこういう素直なところが好きだった。


 そして今も私を大切な友達だと思ってくれていることが、何よりも嬉しい。つい私がニナだと名乗りたくなるのを、ぎゅっと両手を握り締めて堪える。


「いえ、どういたしまして。少しでもお力になれたのなら良かったです」


 予想外のことではあったけれど、二人を助けられて、テオとこうして話せて良かったと思う。


 どうか二人がこれからも無事に過ごせますようにと祈りながら、私は小さく頭を下げた。


「わざわざお礼までいただいて、ありが──」

「頼みがあるんだ」


 急に真剣な表情を浮かべたテオに、嫌な予感がする。


「エリカに聖魔法を教えてくれないか? 聖魔法は聖魔法を使える人間にしか分からない感覚があるんだろ」

「……それは」

「今のこいつは全く魔法を使いこなせていないが、聖女に選ばれた以上、感覚さえ掴めば何とかなるはずだ」

「…………」

「それに、エリカも頑張っていない訳じゃない。一人でずっと練習をしてるのも知ってる。少しでいい、手助けをしてやって欲しい。頼む」


 テオの言葉にエリカさんはぐっと唇を噛み、長い睫毛を伏せた。戸惑う私に、テオは続ける。


「……五ヶ月後、邪竜が出現するという予言があった」

「えっ?」

「このままじゃ、絶対に倒せないに決まってる」


 邪竜というのは聖魔法でしか倒せない魔物で、『まほアド2』ではラスト間際に出てくるはず。


 どうしてこんなに早くと思ったものの、私の時にも全てがゲームシナリオ通りに進んだわけではなかった。順序が入れ替わるくらい、何度もあった記憶がある。


「私、は……」


 テオの言う通り、どう考えてもこのままではエリカさんは邪竜を倒せない。その場合、彼女やこの世界に何が起きるのか私には分からない。正体を隠したまま私が魔法を教えるリスクとは、比べ物にならないはず。


 正直、邪竜くらいなら私が倒すこともできるけれど、これはエリカさんがヒロインの物語なのだ。


 エリカさん自身の手でエンディングを掴み取らなかった場合、どうなるのかも分からない。無事にエンディングに辿り着いたところで、私のようにR指定かというくらい酷い死に方をすることもある。


 それでもすぐに首を縦に振れずにいる私に、エリカさんは深く頭を下げた。


「ニナさん、どうかお願いします! 私、この世界が、この世界の人達が好きなんです。精一杯頑張りますから、私に聖魔法の扱い方を教えてくれませんか……!」


 彼女の気持ちは、痛いくらいに分かる。私だって、この世界もこの世界の人々のことも好きなのだ。そのために頑張りたいという気持ちも、よく分かってしまう。

 

 やがて私は「顔を上げてください」と言うと、エリカさんの手を静かに取った。


「……分かりました。上手く教えられるどうか分かりませんが、やらせてください」

「あ、ありがとうございます……!」


 前聖女だと隠したままエリカさんがコツを掴むまでの間、魔法を教えるだけ。もちろんその間も、スローライフに向けて着々と準備を進めるつもりだ。


 テオも嬉しそうに笑顔を浮かべ、私の肩を叩いた。


「ありがとうな! 礼ならいくらでもする、金も払う」

「いえ、金銭は受け取れません」


 お金はもちろん欲しいけれど、友人であるテオからもらうのも、エリカさんに魔法を教えることに対して金銭をもらうのも嫌だった。


 するとテオは困ったような反応を見せたけれど、何かを思いついたように「あ、そうだ」と口を開いた。


「じゃあ、良い男を紹介するのはどうだ?」

「えっ?」

「ディルクって奴がいるんだけど、公爵令息で騎士団長で顔も良いのに、俺の友達のニナに失恋してさ、ずっと結婚できずにいるんだよ」


 …………なんて?



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