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最終決戦 1



「嫌な天気ですね。私、雷が苦手なんです」

「実は私もあまり得意じゃないんだ。音楽でも流そっか」


 今日は朝から空は暗い雲で覆われ、土砂降りの雨が叩きつけている。時折、雷の音がして、私の部屋にてお茶を飲んでいたエリカはびくりと肩を震わせていた。


「でも、お家デートが上手くいって良かったですね。アルヴィン様、すごくご機嫌ですし」

「うん。エリカも色々協力してくれてありがとう」

「いえ! ニナさんにはお世話になっていますから」


 一昨日の報告をしながらエリカの作ってくれたお菓子を食べ、午後の穏やかな時間を楽しんでいた時だった。


「────」


 不意に悪寒が全身に走り、顔を上げる。


 斜向かいに座るエリカの腕を引き寄せるのと同時に、ほぼ反射で防御魔法を展開した。


「く……っ」

「きゃあああ!」


 一秒も立たないうちに窓ガラスは割れ、防御魔法の範囲外の私の部屋は半壊していた。


 シェリルをディルクに預けていて良かったと安堵するのも束の間、聞き覚えのある楽しげな声が響く。


 何が起きているのか、瞬時に理解した。


「あれ、ニナもいたんだ。ひさしぶり」


 窓ガラスが全て割れ、窓枠だけ残った先のバルコニーに浅く腰掛けていた男は、血色の悪い唇で弧を描く。


 風で漆黒の髪が揺れ、嘲笑うかのように深い闇のような目を細めた。


『どうして、私たちを殺そうとするの』

『僕がそういう風に()()()()()からだよ』


 予想通り、再びエリカの命を狙いにきたのだろう。


 けれど前回からまだひと月ほどしか空いておらず、こんなに早くやってくるとは思っていなかった。


 敵襲の知らせもなく、この部屋に辿り着くまで、見張り達は音もなく殺してきたことが窺える。今の音でようやく、城全体に伝わったに違いない。


 私達だけでは間違いなく倒せるはずがなく、少しでも時間を稼ごうと息を呑む。


「よいしょっと」


 手すりからひょいと降り、こちらへ近づいてくる。男の顔を見て、声を聞くだけで手足が震えた。


 それでも、この時を何度も想定し準備してきたのだ。エリカを片手で抱きしめたまま、防御魔法に注力する。


「僕さあ、こう見えて負けず嫌いなんだ。だからきみたちを殺す前に、あいつらを殺そうと思ってわざわざここに来てあげたんだよ」


 あいつらと言うのは、間違いなくアルヴィン様とオーウェンのことだ。なぜ王城にまでわざわざ乗り込んできたのか、納得がいった。


 私達を全員まとめて殺すためだ。


 三度目は、一度目二度目よりも更に強さが増すと聞いている。男からすれば敵の本拠地である王城に乗り込んでくるほど、自分の力に絶対的な自信があるのだろう。


「特にあの金髪は絶対に許せないなあ。僕のことを二度も殺したんだから」


 笑顔ではあるものの、その顔にはアルヴィン様への怒りがはっきりと浮かんでいる。


 頬を切り裂く傷が、青白い顔の中で浮いていた。


「──ニナ!」


 すぐに騒ぎを聞きつけたアルヴィン様とテオがやってきて、男と私達の間に立つ。アルヴィン様は剣の切先をまっすぐに男へ向け、テオは弓を構えている。


「遅くなってすまない」

「はい、私もエリカも無事です」


 男から視線を逸らさずにいるアルヴィン様に対し、背中越しに答える。


 そんな私達の様子を見て、男は可笑しそうに笑う。


「かっこいいねえ。本当に絵に描いたような王子様だ。お姫様の前で、ぐちゃぐちゃにして惨めにしてあげる」


 そう言い終えた瞬間、視界から男が消える。気が付いた時には、男はアルヴィン様と剣を交えていた。


 激しい火花が散り、重い連撃が繰り出されていく。


 男の手にあるのは剣と言うにはあまりにも歪な黒いもやの塊のようなもので、男が振り切った際に触れた壁はどろりと溶けていた。


「さすが、いい剣使ってるねえ」

「…………」


 アルヴィン様は冷静なまま男の言葉には一切反応せず、亀裂の入った床を蹴り、剣を振るう。


 一方、テオは全身に怒りを滲ませていた。アルヴィン様と交戦する男だけを正確に射続けており、防ぎきれなかった矢は深く突き刺さり、その身体からは赤黒い血が噴き出している。


 前回同様、男には痛覚というものがないのか、怯む様子はない。


「絶対お前のこと許さねえからな!」

「ははっ、許してなんて頼んだっけ?」


 私があの男に殺されたと知った時、泣いてくれた友人想いのテオは心の底から怒ってくれている。男はそんな様子を見て、けらけらと笑っていた。


 やがて大破したドアから、ディルクとオーウェン、ラーラも駆け込んできた。オーウェンは私達の元へとやってきてくれ、二人はすぐにアルヴィン様達に加勢する。


「こんな場所までわざわざ来てくれたなんてねえ」

「相当な自信があるようだ」


 とは言え、こういった状況ももちろん想定し、備えていたのだ。今頃、王城内の人々も指示通りに動いているに違いない。


「……あれは流石に、厳しそうだ」


 オーウェンも一目見て、男の今回の強さを悟ったのだろう。普段の冗談混じりの口調であっても、表情は明らかに強張っていた。


 四対一でも、男に分があるように見える。間違いなく男はまだ本気を出していないし、この先、苦しい戦いになるのは間違いないだろう。


「大丈夫? ひとまずこの場所から、二人とも──」

「エリカだけをお願い」

「えっ?」

「私はここで、みんなのサポートをする」



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