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初めてのデート 4



「昼寝をする時には、これが普通なんだ?」

「ええと、大人にはしないかもしれませんが、他に寝かしつける方法が分からなくて……」

「そうなんだ。誰かに寝かしつけられたこともないから、よく分からなくて」


 アルヴィン様は何気なくそう言ったけれど、とても寂しくて悲しいことだと、また胸が痛んだ。


 私も母が生きていた幼少期はいつも、温かい温もりに包まれて眠っていたのを思い出す。


 私はそれが大好きで、少しでもアルヴィン様にもそう思ってもらえたらと、あらためて気合を入れ直した。


「子守唄も歌っていいですか?」

「うん。聞きたいな」


 それから私は、有名な子守唄をいくつか歌った。言葉の意味は分からないとは思いつつ、赤ちゃんだって分からないはずだし、こういうのは雰囲気が大切なはず。


 実は元々、歌はよく褒められていたし、少しだけ自信があった。


「ニナは歌が上手だね。俺は苦手だから羨ましいよ」

「ふふ、聞いてみたいです」


 アルヴィン様が歌が下手なんて、ギャップすぎる。


 格好悪いから意地でも私の前では歌わない、なんて言う姿が可愛くて、笑みが溢れた。


「眠れそうですか?」

「どうだろう。でも、とても幸せな気分だ」


 長い金色の睫毛を伏せたまま、アルヴィン様は呟く。いつもよりも幼く見えて思わず頭を撫でれば、私の手にすり寄ってきてくれる。


 こんなアルヴィン様を見られるのは世界中で私だけだと思うと、また嬉しくなった。


「何か他にしてほしいことはありますか?」

「……手を、繋いでくれる?」

「はい、もちろんです」


 もう片方の手でアルヴィン様の手を握れば、ぎゅっと握り返される。


 それから十分ほどして、アルヴィン様からは規則正しい寝息が聞こえ始めた。その寝顔はとても穏やかなもので、ほっと胸を撫で下ろす。


「……かわいい」


 これまで何度か一緒に眠ったことはあったけれど、いつも私が先に寝落ちしてしまっていたため、アルヴィン様が眠る姿というのはほとんど見たことがなかった。


 普段は誰よりも凛々しいものの、今はあどけなさも感じられる。


 そっと頬に触れれば、口元が少しだけ綻んだ。


「アルヴィン様、大好きです」


 ずっと一緒にいたいという気持ちを込めて、呟く。


 手を繋いだまま私も再び横になると、幸せな気持ちで目を閉じた。



 ◇◇◇



「……ニナ?」

「はい。目が覚めましたか?」


 六時間後──既に日が落ち、部屋の中も薄暗くなった頃、アルヴィン様は目を覚ました。


 私も眠っていたものの二時間ほど前に目が覚めており、先ほど寝室へと戻ってきたところだ。


 アルヴィン様は身体を起こすと、既に星が見え始めた窓の外へと視線を向け、驚いた様子を見せる。


「俺、ずっと寝ていたのか……」

「気持ちよさそうに眠っていましたよ」


 よほど疲れていたのだろう。私が部屋の出入りを何度もしても、目覚める様子はなかった。


「ごめん、こんなに眠るつもりじゃ──」


 焦ったように謝罪の言葉を口にしたアルヴィン様の口元に、人差し指を当てる。


「今日は普段お忙しいアルヴィン様に、休んでもらいたかったんです。だから作戦は大成功ですし、謝ったりなんてしないでください。私も一緒にお昼寝しましたし」

「……ありがとう。お蔭でとても身体が軽いよ」


 眉尻を下げて微笑んだアルヴィン様に、笑顔を返す。


「こんなにぐっすり眠ったのも久しぶりかもしれない。今ならどんなこともできそうだ」


 効果は抜群だったようで、今後もこうした機会を作っていこうと誓う。


「夜ご飯も作ったので、食べられそうだったらぜひ」

「いただくよ」


 お礼を言われ、二人で食堂へと移動する。昼寝から起きた後に、二人分作っておいたのだ。


 アルヴィン様はやっぱり何度も「世界一美味しい」と褒めてくれて、浮かれてしまう。


 それからは二人で後片付けをして、私は変身魔法をかけるとアルヴィン様と手を繋ぎ、外へ出た。


 心地よい夜風に当たりながら、どちらからともなく少しだけ遠回りをして王城へと向かう。森の中は静かで、草木の囁くような葉音だけが聞こえてくる。


 世界に二人だけになったみたいだと思いながら、隣を歩くアルヴィン様を見上げた。


「今日はゆっくりできましたか?」

「うん。仕事のことを考えないなんて、久々だったよ」

「アルヴィン様は頑張りすぎですから。これからはもっと、そんな時間を作りましょう」

「ありがとう。ニナと過ごす時間が心地良すぎて、いつか働けなくなりそうだ」

「ふふ」


 もうすぐ王城の裏口に到着するというところで不意に名前を呼ばれ、再び顔を上げる。


 すると次の瞬間には、視界がアルヴィン様でいっぱいになっていた。


「今日は本当にありがとう。ニナが好きだって、思い知らされた一日だった」


 唇が離れた後、耳元で囁かれ、心臓が大きく跳ねる。


「わ、私もとても楽しかったですし、アルヴィン様のことが好きです」

「それは良かった。もう一回だけキスしてもいい?」

「……い、一回だけなら」


 これから先もずっと、アルヴィン様と穏やかで幸せな時間を重ねていきたいと心から思った。



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