初めてのデート 3
あっという間に迎えた当日、私達は今、お揃いのエプロンをしてキッチンに立っている。
ちなみにシェリルは今日ディルクと過ごしており、朝からぶんぶんと尻尾を振ってご機嫌だった。
「料理なんて初めてで、少し緊張するな」
「その割にプロみたいな手つきで、私の立場がなくなりそうです」
朝から二人でのんびりお茶をしたり森の中を散歩したりと、穏やかな時間を過ごした。
ここまでは普段と変わらないけれど、今日はアルヴィン様を誘って料理をしてみている。
エリカの「料理などの共同作業は仲が深まる」というアドバイスを参考にした結果だ。
「刃物全般の扱いには自信があるんだ。そもそも俺は長剣より短剣の方が得意だし」
「そうなんですか?」
「うん。短剣同士の接近戦なら、ディルクに勝てる自信があるくらいには」
普段と違うことをしていると会話の内容にも変化があり、初めて知ることが多く、とても楽しい。
そもそも器用すぎるアルヴィン様が、一度も途切れることなくするすると野菜の皮を剥いていくのを見ているだけでも楽しいから困る。
「……料理って、こんなにも手間がかかるんだね。時折シェフに感謝を伝えないと」
「ふふ、みなさん喜ぶと思います」
「明日から食事のたびに、色々と考えてしまいそうだ」
アルヴィン様は器用に鍋を片手で振りながら色々と考え込んでいて、なんだかかわいい。
「ニナはすごいね。俺の知らないことを沢山知ってる」
「私だって同じ気持ちですよ。生まれた世界も身分も違うんですから、当然です」
そんな私たちが出会って恋に落ちるなんて、きっと奇跡みたいな確率なのだろう。
これから先、お互いの価値観の違いから喧嘩だってする日がくるかもしれない。けれどアルヴィン様となら、絶対に上手くやっていける気がした。
その後は、一緒に作った料理をアルヴィン様は何度も何度も「美味しい」と言って嬉しそうに食べていて、心が温かくなった。
次は何を作ろうかと当たり前に未来の話をできるのが、何よりも嬉しい。
「食器は俺が洗うよ。ニナは休んでて」
「アルヴィン様に食器を洗わせたなんてバレたら、側近の方に怒られそうです」
「ここには俺達しかいないから大丈夫」
結局、お言葉に甘え、広間のキッチンが見える位置のソファに腰を下ろす。
「ふふ」
王子様であるアルヴィン様が皿洗いをしている姿なんて、世界中で私しか見られないだろう。
こうしていると本当に平和で、普通の恋人同士みたいで。あの男のことも全て、悪い夢のように思えてくる。
「ニナ」
「あ、もう終わ──っ」
ぼんやり考えごとをしているうちにアルヴィン様は皿洗いを終えたようで、名前を呼ばれて顔を上げる。
同時に唇を塞がれ、一瞬にして顔が熱くなった。
「頑張ったから、ご褒美をもらおうと思って」
「……もう」
「ニナのお蔭で、どんなことだってできそうだ」
アルヴィン様は悪戯っぽく笑うと、私の隣に腰を下ろした。午後になり、天気の良い今日は日差しもぽかぽかとしていて、とても暖かくて心地良い。
「次は何をするの?」
デートは全て私主導のため、アルヴィン様は軽く首を傾げてそう尋ねてくる。
実は次の予定こそ、今日の目玉だった。
「次はこれから、一緒に昼寝をしてもらいます」
◇◇◇
「……本当に、今から寝るの?」
「はい。思いっきりお昼寝しましょう」
一応用意されていたものの、これまで全く使わずにいた寝室のキングサイズのベッドの上で、私達は現在向かい合って寝転がっている。
アルヴィン様は少しだけ戸惑った様子で、じっと私の顔を見つめていた。
──そう、今日はひたすらアルヴィン様に身体を休めてもらうのが目的なのだ。
デートとしてはどうかと思うものの、お昼ご飯をお腹いっぱいに食べてすぐに寝るなんて、最高に休日という感じがする。休みの日、好きな時間に寝て起きることに幸せを感じていたことを思い出す。
けれどアルヴィン様は何故か、戸惑った様子だった。
「昼寝をしたことがないんだ」
「えっ? 今まで一度もないんですか?」
私の問いに、アルヴィン様は頷く。
次期国王として、物心ついた頃から一日中決められたスケジュールで過ごしていたという。そのため、昼間に寝るなんて発想すらなかったと話すアルヴィン様に、私は胸が締め付けられていた。
同時に、意地でも寝てもらおうと燃えてくる。
「この時間に寝ると、すごく気持ちいいんですよ。私がアルヴィン様を寝かしつけてみせます」
私は身体を起こすと、アルヴィン様の近くへと寄り、片手で寝転んでいるアルヴィン様の背中をとんとんとゆっくり叩いてみる。
するとアルヴィン様は、不思議そうに私を見上げた。




