初めてのデート 2
その日の晩、長時間にわたる魔物討伐でくたくたに疲れ果て、早めに眠る支度をしてシェリルと共にベッドに飛び込んだところで、アルヴィン様がやってきた。
「ごめんね、疲れてるところに。全然ニナと話せなかったから、五分だけ話がしたいなって」
今日はみんなで朝食を食べている最中、魔物の大量発生を知らされたのだ。
対応が遅れては近くの町にまで影響が出てしまう可能性もあったため、食事もそこそこに私達はアルヴィン様の転移魔法ですぐに移動し、夕方まで働き続けた。
そしてお互い別の場所を担当していたことで、会話もほとんどなかった。
「もちろんです。お茶は──」
「ううん、ありがとう。そのままでいいよ」
「……あ」
そう言われて初めて、私はベッドの上で大の字で転がっていたことに気付く。
最近はアルヴィン様に対して気を張らなくなったとは言え、流石に女子力が低すぎると反省し、飛び起きた。
「すみません、はしたないお姿をお見せして……」
「気にしないで。俺はどんなニナも好きだし、嫌いになることはないから」
「本当ですか? 私がすっごく太ったりしても?」
冗談交じりにそう尋ねれば、アルヴィン様は表情ひとつ変えずに頷く。
「俺はニナの見た目も好きだけど、好きになったのはニナ自身であって、どんな姿になろうと好きでいる自信があるよ。顔がぐちゃぐちゃになったとしても好きだ」
「あ、ありがとうございます……」
たとえが恐ろしすぎたものの、アルヴィン様は私がどんな姿でもどんな状態でも好きでいてくれるだろうというのは、ひしひしと伝わってくる。
それからも他愛のない話をしていたところ、私はふとエリカとの約束を思い出していた。
今日はもうアルヴィン様と話す機会がないと思っていたため、明日誘うつもりだった。けれど、善は急げと言う言葉もあるし、今誘ってしまうことにする。
「アルヴィン様、あの……」
「何かな?」
「ええと、ですね」
ただ家でデートしようと言うだけなのに、ものすごく恥ずかしい。普段「好き」と言うよりも、遥かに恥ずかしかった。無性に恥ずかしい。
なかなか言い出せない私を見て、アルヴィン様は形の良い眉を寄せる。
「どうしたの? ニナ」
「その……」
「俺に文句があるなら何でも言って。すぐに全て直すから。ニナの理想の男になれるように努力するよ。最近少し髪を切ったのが悪かった? すぐにどうにか──」
「落ち着いてください」
話が突飛な方向へ飛んでいきすぎている。そもそも自然すぎて、アルヴィン様が髪を切ったことにも私は気付いていなかった。美容師は間違いなく相当な腕だから、絶対に責めないでほしい。
このままではアルヴィン様が暴走すると思った私は、緊張なんて吹っ飛ばして口を開く。
「アルヴィン様がお忙しいことは分かっているんですが、一日だけ私にくれませんか」
「もちろん、ニナのためならいつでも時間を作るよ。何か用事が?」
予想通り快諾してくれてほっとしつつ、私は続けた。
「お家デートをしたいんです! アルヴィン様と」
「……え」
エリカと共に考えたのは、王城の裏の森の屋敷にて、二人きりで丸一日過ごすというものだ。
実は私達は毎日顔を合わせているものの、二人きりで長時間過ごすことはほとんどない。
一緒に食事を作って食べたり、散歩をしたり。そんな恋人としては当たり前のようなことを、一日かけてアルヴィン様とゆっくりしてみたいと思っていた。
「……アルヴィン様?」
アルヴィン様は口元を手で押さえ、俯いたまま何も言葉を発しない。
どうしたんだろうと思い顔を覗き込めば、その顔はほんのりと赤く染まっている。
「ごめん、嬉しくて言葉が出てこなかった。未だにニナからの好意を感じると、夢みたいで戸惑ってしまって」
「もう、いい加減に慣れてください」
先日は逆プロポーズのようなことまでしたのに、アルヴィン様は相変わらずで、笑みが溢れる。
「いつがいい? すぐにでもなんとかするよ」
「私も少し準備があるので、週末はどうですか?」
「分かった。一日空けておくよ」
「ありがとうございます! 当日アルヴィン様は身一つで来てくださいね」
「うん、楽しみにしてる」
アルヴィン様は無邪気に嬉しそうな顔をするものだから、絶対に楽しいと思ってもらえるような一日にしたいと心から思う。
そうして私達は初めてのデートをすることとなった。




