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初めてのデート 1



 男の襲撃から、ひと月が経った。


 オーウェンとアルヴィン様の体調も無事に回復し、三度目の戦いに向けてエリカも王城で再び生活する日々を送っている。


 あれからも男について調べたものの、ルナ様の日記以外の情報は得られていない。


 私達以外にもこれまで聖女はいたけれど、ルナ様以外の元にあの男は現れていないようだった。


『まほアドシリーズのヒロイン』として転移してきた聖女の前にしか、現れないのかもしれない。


 男がどこに潜んでいるのかなど、全く足取りは掴めないまま。けれど必ず、再びエリカを狙ってくるはず。


 きっと、()()()()()()()()()()()()のだ。


『あの男を三回倒せば、聖女が元の世界に帰れるほどの願いを叶えられるアイテムがもらえるんだろう? それさえあれば、アルヴィンを救えるんじゃないかな』

『確かに、その可能性はありそう』

『ああ。できることは全てやろう』


 オーウェンとディルクと三人で話をした際には、そんな話になった。禁術魔法の代償を回避する方法についても、いくら調べても分からなかったため、今はそれに賭けるしかなさそうだ。


 とにかく今の私達にできるのは、いつでも万全の状態で男を迎え打つことのみ。そう、思っていたのに。



「ほ、本当に、いい加減にしてほしいんだけど……」

「ほらニナ、口を動かす前に手を動かした方がいいぞ」

「おっしゃる通りで……浄化(プリフィケーション)


 私は本日何度目か分からない浄化魔法を展開すると、目の前の熊の魔物を倒した。


 けれどそのすぐ後ろからまた、別の魔物の姿が見え、溜め息をつきながら両手をかざす。


 私のすぐ側でテオは複数の矢を同時に放ち、一気に三体の魔物を倒してみせた。


 ──私達は今、まほアド2のイベントである「北の森での魔物の大量発生」の最中にいる。


 大量発生後、すぐに王城に知らせが届き、いつものメンバーはもちろん、騎士団と協力し、正気かと製作側に突っ込みたくなるほどの数の魔物を討伐し続けていた。


 お蔭で万全の状態で男を待ち受けるどころか、心身共に追い込まれている。


 今、あの男が現れないことを祈るばかりだ。


「ニナ、怪我はない?」

「はい。魔力も問題はないんですが、ただ疲れます」

「そうだね。ニナ達から話は聞いていたけど、この量は流石にどうかしてるな」

「私も心からそう思います……」


 魔物を倒しつつ私の側へやってきたアルヴィン様は「無理はしないで」と言うと、高ランクの魔物が多い方へと戻っていく。


 私はテオと共に低ランクの魔物が多い場所を担当している。もちろんアルヴィン様の言いつけで、ひたすら数をこなすだけの仕事だ。


 お蔭で怪我ひとつないものの、緊張感もない。


「ほんっとつまんねえな、この辺り。俺、ディルクと代わってもらおっかな」


 文句を言いながらも、テオは美しい射形で矢を放ち続ける。黙っていれば格好いいのにと思いながら広範囲に魔法を展開し、蛇の魔物を一掃した。


聖なる矢(ホーリー・アロー)!」


 そんな中、少し離れた場所からはエリカの声と共に魔物の悲鳴が聞こえてくる。低ランクとは言え、一気に数体の魔物を倒せたようだ。


「あいつ、すげー成長したよな」

「うん。別人みたい」


 初めて出会った頃からは想像もつかないくらい、エリカは聖女として成長していた。私だけでなくアルヴィン様まで、珍しく驚いた様子を見せていたくらいだ。


 血の滲むような努力を重ねてきたに違いない。


 そしてエリカはやはり、魔力の量が圧倒的に多いようだった。私よりも遥かに上だろう。


 だからこそ、膨大な魔力量を制御できず、これまで魔法を上手く使えなかったのかもしれない。


 いつか完璧に使いこなせる日が来たら、私よりもすごい聖女になると確信していた。


 それをエリカに話したところ「絶対にありえない」と全力で否定していたけれど。


「魔力を無駄に垂れ流しすぎよ、もっと均等に」

「はいっ!」


 エリカの側には、ラーラの姿がある。エリカの目覚ましい成長を彼女も無視できなかったようで、最近はこうして魔法の指導をすることも少なくない。


 二人の様子に胸が温かくなりつつ、自身の聖魔法でじゅわっと目の前で溶けていく魔物のグロテスクさに泣きたくなる。こればかりはいつになっても慣れなかった。


「エリカ、あっちの神殿で頑張りすぎて、何度か気絶したくらいらしいぜ」

「えっ、そうなの?」

「ああ。あいつも焦ってるみたいだ」

「……そっか」


 無理をしなくていい、頑張りすぎなくていいと声をかけてあげたいものの、まほアド2のラスボスである邪竜が現れる時期は、刻々と近づいている。


 けれどエリカの今の様子を見ていると、心配はなさそうだった。邪竜は最終的に聖魔法で倒す必要があるものの、みんなで体力を削ることはできるのだから。


「よし、この辺りは大方片付いたかな」


 視界には生きている魔物の姿はなくなり、息をつく。


「みたいだな。アルヴィン達も余裕だろうし、俺らは魔核でも拾ってようぜ」

「そうだね」


 魔物のエネルギー源である魔核はお金になるため、低ランクでもしっかり拾っておく。そうしているうちにエリカがやってきて、私の腕にぎゅっと抱きついた。


「ニナさん、お疲れ様です!」

「お疲れ様。エリカ、すごかったね」

「ありがとうございます! ニナさんにそう言っていただけて嬉しいです」


 太陽みたいな眩しさで、エリカは嬉しそうに笑う。私が想像している以上に、いつも笑顔の彼女はプレッシャーの中、必死に努力をしてきたのだろう。


「でも、これでノーマルイベントは終わりだね。無事に終えられそうで良かった」

「はい! 後は邪竜さえ討伐すれば、すっきりです」


 ヒロインの誘拐など、まほアド2でのノーマルイベントはこれで全て終わりだ。


 あとはバグを倒して邪竜を討伐すれば、エリカは心置きなくエンディングを迎えられるはず。


「全部終わったら、あらためて告白しようと思っていて……ってフラグみたいですね、ふふ」


 この状況下で笑いにくい冗談を言うエリカは料理人の想い人とは順調らしく、ほっとする。


 攻略対象の誰とも恋に落ちず、無事にラーラとも親しくなった彼女は、私と同じく友情大団円エンドを迎えるのだろう。


「ニナさんとアルヴィン様も、順調そうですね」

「い、一応、そうなのかな……」


 私が逆プロポーズして以来、アルヴィン様は常にご機嫌だった。背景にぽんぽんと咲き乱れる花が見えそうなくらい、浮かれている。


「あっでも、まだデートはできていないんですか?」

「うん、あれから色々あったから」


 デートの約束をしていたものの、男の襲撃もあり、タイミングを逃してしまっていた。


「まだ絶対に遅くないです! 今の私達にできるのは、とにかくいつも通りに過ごしながら心身ともに良い状態に整えることだって、オーウェンさんも言っていましたから! デートくらい、したっていいと思います!」


 両手をぐっと握りしめ、エリカはやけに熱のこもった様子で語りかけてくる。


 彼女は心から私とアルヴィン様の仲を応援してくれているようで、照れ臭くなってしまう。


 けれどエリカの言う通り、王城に籠っていても魔力が増えるわけでも強くなれるわけでもない。


 特にステータスがカンストしている私に限っては、これ以上の成長はないのだ。


「それにアルヴィン様は働きすぎで心配だって、ディルクさんも言っていました」


 アルヴィン様は国随一の魔法使いとして活躍する一方、次期国王としての国務もこなしている。


 常に多忙で、丸一日休んでいるところなんて見たことがないくらいだ。


 私も休んでくださいと声をかけているものの、「大丈夫だよ」と笑顔を返されて終わってしまう。


「でも、ニナさんからデートをしようって誘えば、絶対にお休みを作ると思うんです」

「た、確かに」


 自分で言うのも何だけれど、アルヴィン様が私の誘いを断るとは思えない。


 彼を休ませるためには、最も有効な手かもしれない。


「何よりデートって、お出かけをするだけじゃないですから。二人でお家にこもってゆっくりするのも立派なデートだって、友達が言ってました! お家デートです」

「お家デート……」


 私自身、もっとゆっくりアルヴィン様と一緒に過ごせたらいいのにと思うことは多々あった。


「二人で家の中で穏やかに過ごすことで──」

「料理を一緒にすると、お互いに──」

「そもそもお家デートは二人の関係を深めるのに有効だと言われていて──」


 それからも魔核を拾い集めている間、エリカの熱弁を聞かされ続け、結局私からアルヴィン様をお家デートに誘う約束をしてしまったのだった。



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