違和感と真実 2
このまま最終話まで一気に投稿します!
「ニナ? どうかした?」
私の様子がおかしいことに気付いたオーウェンが、ふらつきながらも身体を起こす。
本来なら無理をしないでと言うべきなのに、今の私には余裕なんてなかった。
「アルヴィン様に、回復魔法があまり効いていないの」
どうしてだろうと尋ねた途端、オーウェンの青白い顔色がさらに悪くなる。まるで心当たりがあるような反応で、胸騒ぎがしてしまう。
けれどオーウェンは「僕にも分からない」と呟くだけで、それ以上は何も言ってくれなかった。
とは言え、全く効果がないわけではないようで、私は必死に回復魔法をかけ続ける。
「お願い、治って……!」
不安で視界がぼやける中、アルヴィン様の身に何が起きているのかと考えているうちに、ふと数ヶ月前の出来事を思い出す。
「この感覚……どこかで……」
恐ろしく遅い治癒スピードや、まるで何かが邪魔をしているような感覚には、覚えがある。
『回復魔法をかけたんですが、何故か思うように魔法が効かなくて……』
『なるほど、禁術魔法に手を出したんだろうね』
『……禁術魔法?』
『うん。ニナの魔法が効きにくかったのもそれが理由だと思うな』
魔法塔で急に様子がおかしくなったという男性を治療した際、オーウェンとそんな会話をした。
──禁術魔法というのは禁じられた魔法のことで、強い代償を得られる代わりにかなりの危険が伴うものだ。
第一王子であり、元々国一番の魔法使いのアルヴィン様が、禁術魔法に手を出すはずがない。
彼ならどんなことだって、可能にしてみせるほどの力も立場もあるのだから。
偶然似た状況なだけで、別の原因があるに違いない。
そう言い聞かせ、必死に魔力量で嫌な感覚を押し切っていく。それでも。
『禁術を使って命を懸けるほどの願いって、何だったのか気になって』
『ニナにはない? そんな願いが』
『こうなったらいいなっていう簡単な願いはたくさんありますが、命をかけるほどのものというのは思いつかないです。アルヴィン様にはあるんですか?』
『俺? 俺はあったよ』
『あった?』
『うん。もう叶ったから』
アルヴィン様との会話が、いつまでも頭から離れることはなかった。
◇◇◇
それから二時間後、私はみんなが集まっている広間へとやってきていた。
「ニナ、アルヴィンはもう大丈夫なの?」
「うん。目に見える傷は、なんとか治せたみたい」
魔力と体力がかなり削られたものの、アルヴィン様の傷は治すことができ、安堵した。アルヴィン様はまだ医務室で眠っており、意識はないままだ。
今回はなんとか治しきったものの、またアルヴィン様が怪我を負った場合、回復魔法が効かないとなると不安で仕方ない。目覚めた後、原因を探らなければ。
広間にはラーラ、テオ、急いで帰城したディルク、少し顔色が良くなったオーウェン、エリカの姿がある。
「エリカはもう大丈夫なの?」
「はい。落ち着きました、ありがとうございます」
私はエリカの隣に腰を下ろし、 みんなと共に一体何が起きたのかを聞くことにした。
「……神殿でお祈りをしていたら、突然あの男がやってきて襲われたんです。護衛の方々のお蔭で、助けを呼ぶ時間ができて……すぐにアルヴィン様とオーウェンさんが駆け付けてくれました」
エリカがいた神殿までは、かなりの距離があるはず。オーウェンを連れて一瞬で転移したことを考えると、アルヴィン様の魔力量は桁違いだとあらためて実感する。
「それからはずっと、お二人は私を守りながら戦い続けてくれたんです。私の目で見る限り、男の魔力量は前回の倍以上になっていました」
「やっぱり? アルヴィンも『明らかに前回より力が増してる』って言ってたんだ。間違いなく人間ではないし、一体アレは何なんだろう」
「私も色々と調べたり回ったりしていたけど、全く分からないのよね」
殺しても死なない、魔力量がこの短期間で倍になるなんて、どう考えてもおかしい。
この世界の魔法に関することに誰よりも詳しいオーウェンやラーラが分からない以上、その正体を突き止めるのは困難だろうと思っていた時だった。
「……実は、心当たりがあるんです」
エリカのそんな言葉に、全員が彼女へ視線を向ける。
「私がいた神殿は、五代前の聖女様──ルナ様がいらっしゃった場所なんです。ルナ様は大聖女とも呼ばれていた方ですし、私と同じ目を持っていたらしくて……ルナ様のようになりたいと思って、修行の場に選びました」
ルナ様は、第十代聖女だ。
強く美しく慈愛に満ち溢れた方で、聖女としての能力も過去に類を見ないほどだったという。
以前の私も彼女の再来だなんて言われており、よく話は耳にしていた。けれど、当時の魔王を討伐して少しの後、突然消えたと聞いている。
それ以上のことは、誰も知らないそうだ。
「実は二日前、神殿で不思議な光り方をする隠し扉を見つけて……そこにルナ様の日記がありました」
「えっ?」
「人の日記を読むのはよくないとは思いながらも、何か聖魔法についてのヒントはないかと、少しだけ読んでみることにしたんです」
エリカは少し間を置いて、続けた。
「ルナ様は私やニナさんと同じ日本からの転移者で、まほアドのプレイヤーでした」




