表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/81

新しい朝 1



「……あ、あたま……いった……」


 ずきずきと痛む頭を抑えながら、目を開ける。すぐに回復魔法をかければ、痛みはすっと引いていった。


 だんだん頭がはっきりしてきて、昨晩はラーラ達と遅くまでお酒を飲んだことを思い出す。酔うと記憶がなくなる人もいるらしいけれど、私はしっかり覚えていた。


 そして色々と思い出した末、再び布団を被り、叫び出したくなってしまう。


「わ、私……アルヴィン様と……」


 ベッドの上で押し倒され、キスをされた。それも一回だけでなく、何度も何度も繰り返された記憶がある。


『ニナ、逃げないで』

『っアルヴィン様、もう……』


 数え切れないくらい唇が重なり、最後の方はもう身体に力が入らず、されるがままだった。


 熱を帯びたアルヴィン様の瞳や表情が頭から離れず、思わず手足をじたばたとバタつかせる。何事だという顔で近づいてきたシェリルを、私はきつく抱きしめた。


「ど、どうしよう……どうするも何もないけど……」


 やはりこれからは、アルヴィン様との関係も変わるのだろうか。もちろん誰かを好きになるのも、キスをするのも初めてだった私は、どんな顔をして顔を合わせれば良いのか分からなくなる。


 どうしようもなくドキドキして、落ち着かない。気が付けばふわふわと宙に浮かんでしまいそうだ。


 けれどひとつだけ、気になることがあった。


「ねえ、シェリル。アルヴィン様はいつ戻ったの?」


 そんな問いを投げ掛ければ、シェリルはこてんと首を傾げる。もちろん答えを期待していた訳ではなく独り言のようなもので、かわいいシェリルを再び抱きしめた。


 アルヴィン様はいつもこういう時、私の目が覚めるまで側にいてくれるのだ。だからこそ起きた時に姿がなかったのが、少しだけ寂しいと思ってしまった。


「……本当、甘えすぎてるなあ」


 やはり私は自分が思っている以上に、アルヴィン様に甘えきっているのだと実感する。


 時計へと視線を向ければ、もう朝食の時間だった。


 今日はみんなで集まって朝食をとる日で、支度をして向かわなければと頬を両手で軽く叩く。


 それから私は専属のメイドを呼ぶと、いつもよりも丁寧に身支度をしてもらった。


「ニナ様、今日はどこかへお出かけされるんですか?」

「あ、何も予定はないんですけども……」


 お気に入りの髪飾りまでつけてもらったことで、メイドにそんなことを尋ねられ、恥ずかしくなる。


 アルヴィン様に少しでも可愛いと思って欲しかっただけで、私にもこんな乙女な一面があったのだと知った。


「お、おはよう……って、あれ?」


 そうして緊張しながら食堂へと足を踏み入れると、そこにはアルヴィン様とオーウェンの姿しかない。


「おはよう、ニナ。今日はいつも以上にかわいいね」


 そう言って微笑むオーウェンにお礼を言い、私はいつも通りアルヴィン様の隣に席に腰を下ろす。


 アルヴィン様は「おはよう、ニナ」とだけ言い、食事を持ってくるようメイド達に声をかけた。


「お、おはよう、ございます……」


 動揺してしまい、自分でも驚くほど小さな声が出た。


 アルヴィン様の顔を見た途端、色々と思い出してしまい顔が熱くなって、隣を見れなくなってしまう。


「ちなみにここにいない三人は、二日酔いが酷くて起き上がれないってさ。そんなに飲んだんだ?」

「うわあ……朝食後に回復魔法をかけにいかないと」


 オーウェンによると、テオの部屋からはすすり泣くような声が聞こえてきたという。ダメな大人すぎる。


 早めに食べ終え、苦しんでいるであろう三人の元に行こうと決めて両手を合わせ、食事を始めた。


「…………」

「…………」

「…………」


 それからは驚くほど静かな中、食事をした。アルヴィン様が、何も言葉を発さないのだ。普段とは別人で、何かしてしまっただろうかと不安になるくらいには。


 そして私も、自分からアルヴィン様に話しかけるどころか、彼の方を向くことすらできないまま。


 オーウェンもアルヴィン様と私の様子の変化に気が付いたようで、含みのある笑みを浮かべた。


「あーあ、昨晩は僕も参加したかったな。ニナは酒を飲むのは初めてだったんだよね?」

「うん。思ったよりも酔ったけど、楽しかったよ」


 オーウェンは仕事で参加できなかったことを残念がっているようで、今度は全員で飲もうと約束する。


「酔ったニナ、見たかったな。可愛いだろうし」

「ううん。ディルクの方が絶対にかわいい」


 顔には酔いが出ていないのに「ん」しか言わないディルクの姿を思い出し、つい笑みがこぼれた。


 その後もアルヴィン様は喋らないままで、もやもやとした気持ちや不安で胸がいっぱいになる。もしかすると寝落ちする直前、何かやらかしてしまったのだらうか。


 結局料理も、あまり食べることができなかった。



 一応食事を終え、アルヴィン様は今何を考えているんだろうと悲しさを感じながら、食堂を出ようとする。


 すると「ニナ」と名前を呼ばれ、足を止めた。


「本当に、ごめん」


 振り返った先にいたアルヴィン様はそれだけ呟き、私の隣をすり抜け、廊下を歩いていく。


 ひとり残された私はその場に立ち尽くし、小さくなっていくその背中を見つめることしかできずにいる。


「なんで……」


 今のは一体、何に対する謝罪なのだろう。アルヴィン様に何か嫌なことをされた記憶なんて、一切ない。


 けれど今すぐに追いかける勇気も出ず、胸が痛むのを感じながら、私も重い足取りで食堂を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ