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一度目の異世界 7



「で、できた……! ラーラさん、やりました!」

「やればでき──って、暑苦しいから離れなさいよ」

「へへ」


 無事に魔法が成功し、あまりの嬉しさに抱き付けば、ラーラはそう言って溜め息を吐く。けれど私を押しのけたりすることもなく、また嬉しくなった。


 ──ラーラに魔法を教えてもらうようになってから、半月が経つ。あれから面倒見のいい彼女は結局、毎日のように魔法を教えてくれている。


『ラーラ、ニナに魔法を教えるのが楽しいみたいだよ。ニナの吸収する速さと貪欲さがいいって』

『う、嬉しい……ちょっと泣きそう』

『ニナの頑張りが報われるのは、僕も嬉しいよ』


 まだラーラの口調や態度は少し素っ気ないものの、オーウェンからこっそりそんな話を聞いてからは、全く気にならなくなっていた。


 ラーラが得意とする黒魔法は聖女の使う聖魔法とは正反対のもので、勉強になる。聖魔法が効きにくい魔物も倒せるようになり、ステータスも順調に上がっていた。


 その一方でディルクとの練習も続けているけれど、効率が上がったことで無理なくレベル上げができるようになっている。


 何より今はもう、魔法を使うのが楽しくて仕方なくなっていた。本当にみんなには感謝してもしきれない。


「それでね、みんなに何かお礼をしたいんだけど、何か聖女ならではのものって作れたりしないかな」

「ああ。それならいいものがあるよ」

「えっ、あるの? さ、さすがオーウェン様……!」


 そして誰よりも魔法について造詣が深く優しいオーウェンは、私の一番の相談相手だった。


 今日も彼の部屋を訪ねてそんな相談をしたところ、あっさりと頷いてみせる。


「ちょうど、そろそろ話をしようと思っていたんだ。回復ポーションを作ってみない?」

「回復ポーションを私が?」

「うん。いつもニナは回復魔法を使ってくれるけど、常に一緒に行動できるとは限らないしね。聖女が作るポーションは上級のさらに上をいくと言われているから、誰だって喉から手が出るほど欲しいものになると思うよ」

「なるほど……私に作れるなら、ぜひ教えてほしいな」

「うん。これは僕の専門分野だから、任せて」

「ありがとう、オーウェン!」


 それぞれ魔法や剣を極めたみんなと言えど、やはり相手や数によっては傷を負うこともある。


 当人達は流血しても擦り傷のような顔をするけれど、私はいつも寿命が縮まる思いがしていたのだ。


 既にある程度の怪我は完全に治せるようになっていたものの、ポーションならいつでも持ち運べるし、名案だと私は両手をぎゅっと組んだ。


「どういたしまして、お礼はキスでいいよ」

「…………」

「減るものじゃないのに。あ、恥ずかしいなら僕がニナにしようか?」

「それ、なんの意味があるの?」

「僕が嬉しい」

「じゃあ明日から指導よろしくお願いしますね」


 相変わらずのオーウェンに塩対応をしつつ、部屋を出る際に改めて感謝の気持ちを伝える。


 そして翌日から、私はオーウェンと共にポーション作りの練習を始めたのだった。




 それから3週間が経ったある日の昼下がり、私はテオとディルクの姿を見つけると、駆け寄った。


「テオ、ディルク! いつもありがとう!」

「ん? なんだこれ、水か?」

「なんとびっくり上級ポーションです!」


 そしてお礼と共に透明な小瓶を差し出すと、二人は驚いたように目を見開いた。


 後々知ったけれど、上級ポーションというのはワイマーク王国でも限られた光魔法使いしか作れないという。


 それもかなり長い時間をかけて一本を作るため、全てが国で管理されており、手に入れることは困難らしい。


「やっぱ聖女ってすげーんだな」

「私も思った」


 もちろんまだ半人前の私も、それなりに時間がかかる上に、大半が中級止まりで完成してしまう。


 けれどこれからもっともっと練習して、たくさん作れるようになりたい。ポーションならこの手が届かない範囲の人々まで、救えるようになるのだから。


 本来ポーションは緑色だけれど私が聖女の魔力を注ぎ込んだ結果、綺麗な透明になったため、テオは水だと思ったのだろう。


「オーウェンが鑑定してくれたし、ばっちりだよ」

「本当に助かる。ありがとう」

「うん、どういたしまして」

「これで腕一本くらい吹き飛んでも大丈夫だな!」

「お願いだからほんと気をつけて」


 ちなみに失敗の過程で生まれた大量の中級ポーションは荷物になるため、オーウェンと通りがかった街で売ったけれど、信じられない額になって目玉が飛び出した。


 上級の値段を想像しただけで、変な汗をかいてしまったくらいだ。聖女の力があれば簡単に大金持ちになれてしまうのだと、改めて自分の力が少し怖くなった。


『ニナ、何か欲しいものはない?』

『特にはないかな。あ、美味しいお肉を食べたい!』


 ポーションを売り捌いた帰り道、そう答えるとオーウェンは困ったように微笑み、私の頭を撫でてくれた。


『こんなに頑張ってくれているんだから、もっと色々と望んでもいいのに』

『でも、本当に何もないんだ』

『……そういうニナに、みんな惹かれるんだろうね』


 私くらいの年齢の女性が欲しがるという宝石やドレスにはあまり興味がないし、それ以外に欲しいものも本当に見つからないのだ。元々物欲がなかったこともある。


 とにかく無事に5本の上級ポーションを作れたため、全員にプレゼントできそうだとホッとしていた。



長くなったので分けて、次話もすぐに更新します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 話が面白くキャラクターもそれぞれ魅力的。そしてスイスイと読ませる文章のうまさ!楽しく読んでいます。早く続きが読みたくて日中は気もそぞろでした。
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