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一度目の異世界 6



 やがてラーラは顔を上げると、じっと私を見つめた。


「……お前、もうこのレベルの魔法を学んでいるの?」

「は、はい。このひとつ前の本は全て習得しました」


 そう答えれば彼女は「ふうん」と呟き、立ち上がる。そしてそのまま歩き出し、私の横を通り過ぎていく。


 やはり駄目だったかと肩を落としていると、ラーラはカフェの出入り口で足を止め、くるりと振り返った。


「どんくさいわね。何ぼうっとしてんのよ」

「はい?」


 呆れたような顔で睨まれ、困惑してしまう。そんな私を見て、ラーラは大きな溜め息を吐いた。


「召喚魔法、覚えたいんでしょ。こんな狭い所じゃ色々ぶっ壊すことになるから、外に出るって言ってんの」

「……えっ」


 私に魔法を教えてくれようとしているのだとようやく気付き、胸の奥からじわじわと喜びが込み上げてくる。


 どうして急に教えてくれる気になったのかは分からないものの、慌てて駆け寄ると、私は頭を下げた。


「あ、ありがとうございます! ラーラさん!」

「ふん、覚えが悪かったらすぐに部屋に戻るからね」

「はい! 精一杯頑張ります!」

「声でか」


 それから、ラーラは召喚魔法について驚くほど丁寧に教えてくれた。言い方は少しきついものの、教え方はかなり的確で分かりやすい。


「このド下手くそ! もっと力を抜きなさい!」

「は、はいっ!」

「いい? 描いた魔法陣全体に均等に魔力を込めるの。そうして次に、召喚するものを──……」


 その様子からは魔法がとても好きなこと、誰よりも深く学んでいることが伝わってくる。


 けれど結局、召喚魔法は聖魔法と同様、感覚が他の魔法とは違うらしく失敗ばかりを繰り返してしまい、その日だけでは習得できなかった。


 それでもラーラは途中で私を見限ることはなく、指導し続けてくれていた。


「あの、本当にありがとうございました!」

「……ええ」

「ものすごく勉強になりましたし、少し感覚を掴めた気がします。やっぱりラーラさんはすごいですね」

「はっ、当たり前でしょう。私を誰だと思ってんのよ」


 ラーラが部屋へ戻った後も、せっかく教えてもらった感覚を忘れないよう、私は一人で練習を続けた。



 そして翌朝。みんなでいつものように朝食をとっていると、ラーラが「ちょっと、お前」と私に声をかけた。


「はい、何でしょう?」

「昨日の続き、教えてやってもいいけど」

「えっ? いいんですか!?」

「食べ終わったら私の部屋に来れば」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ラーラはそれだけ言って、さっさと食堂を出て行く。


 私達のやり取りを見ていたらしいテオやディルクは、かなり驚いた反応を見せていた。


「えっ、お前らいつ仲良くなったんだよ」

「仲良くというか、昨日魔法を教えてもらったんだ」

「へー、ずっと無視されてたのにな。なんでだろ」

「私もどうしてかは分からなくて……」


 焼きたてのパンを齧りながら、テオは不思議そうにこてんと首を傾げる。もちろん私もラーラに魔法を教えてもらえて嬉しいものの、理由はさっぱり分からない。


 そんな中、オーウェンはにっこりと微笑んでいた。


「ほら、僕の言っていた通りだろう?」

「どうして分かったの?」

「……ラーラの故郷は魔法至上主義でね。魔法が使えない人間には価値がない、って考えが根付いているんだ」


 中でも有力な一族の長女として生まれたラーラは厳しく育てられ、血が滲むような努力をしてきたという。


 そのため魔法が一切使えない私を認められず、冷たい態度をとっていたのだろうとオーウェンは言った。


「その分、ラーラは魔法を習得するまでに必要な努力もその大変さも辛さも、誰よりも知っているはずだよ」

「……うん」

「だからこそ、この短期間でニナがあの魔法を学ぶまでに至った努力を、ラーラは認めると思ったんだ」


 そんなオーウェンの言葉に、胸が打たれた。自分の頑張りが認められたようで、少しだけ視界がぼやける。


「そういう風に育ってきた子だから、悪気も他意もないんだ。嫌いにならないであげてほしいな」

「もちろん。嫌いになったりなんてしないよ」

「それは良かった」


 同時に、これまでのラーラの態度の理由や、突然私に魔法を教えてくれた訳など、全てを納得した。


 何より、育った環境がどれほど人格形成に関わるかということを私は知っている。


「本当にありがとう、オーウェン! 私、もっとラーラさんと仲良くなれるように頑張るね!」

「うん。応援してる」

「ごちそうさまでした。行ってきます!」

「頑張れよ」

「ディルクもありがとう!」


 嬉しさで胸がいっぱいになり、やる気に満ち溢れた私は急いで食事を終え、ラーラの元へと急いで向かった。

 



「……後はアルヴィンだけだね。いい加減、少しは認めてあげればいいのに。ニナはすごくいい子だよ」

「別に認めていない訳じゃない」

「そっか。アルヴィンもニナのことをよく知れば、信じてみたくなると思うけどな」


「──俺は一生、他人を信用するつもりはない」


 私が立ち去った後、オーウェンとアルヴィン様がそんな会話をしていたなんて知らないまま。



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