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そうだ、スローライフをしよう



「……な、何かの間違い、だよね?」


 アルヴィン様の名前の上に浮かぶどす黒いハートにぞっとしてしまったものの、すぐに何らかのバグが起きているのではないかと理解した。


 正直、呪いとかホラーの類かと思った。


 とは言え、今の私の存在自体がバグのようなものだろう。『まほアド』シリーズに、ステータスがカンストした村娘など登場しないのだから。


 アルヴィン様はさておき、みんなの好感度がMAXなのも間違いなのだろうか。もしも本当なら、思い出の中で良い友人になれていたら嬉しい。


「さて、これからどうしようかな」


 ぐっと両腕を伸ばし、今後のことを考える。


 今のところ、元の世界に帰る方法は死ぬ以外に分からないのだ。死ぬのは怖いし痛いし、本当にそれで帰れるのかも分からない。何より私には、そこまでして元の世界に帰る理由はなかった。


 とにかく、ここで一人で生きていくしかないだろう。


 幸いにも今の私はゲームのストーリーとは無関係らしい上に、前回と変わらない能力があるのだ。


 そして、気づいてしまう。


「あれ、もしかして今の私、金のなる木では……?」


 もちろん手持ちのお金なんてないけれど、私は旅先でいつも薬草を摘み、ポーションを生成していたのだ。それも聖女の力で、かなり質の良いポーションを。


 無料で作れる上にかなりの値段になるそれらを売れば、小金持ちにもなれてしまうのではないだろうか。


 ある程度お金を稼いで魔石を購入し、魔法を付与して魔道具なんて作れば、かなりの高額で売れるだろう。ポーションを作るよりもずっと楽で、割りもいい。


回復(ヒール)


 何気なく手元にある萎れた花に手をかざし、そう呟いてみる。すると花はみるみるうちに色鮮やかに、つい先ほど花開いたかのように元気な姿になった。


 無事に魔法が使えたことにほっとしつつ、私はこの世界でお金に困ることはないと確信する。そう思うと、大体のことがどうにかなる気がしてきた。


 前回はあれほど忙しく過ごしていたのだ、今回は適度にお金を稼ぎながら、スローライフを送るのもいいかもしれない。むしろ全力でそうしたい。


「……よし」


 服についた土や草を手で払い、立ち上がる。


 まずは先ほどのおばあさんに、1週間ほど泊めてもらえないか頼んでみよう。ひたすらに薬草を摘み鍋を借りて、ポーションを大量生成し、近くの街で売る。その後は稼いだお金で、住むところを借りればいいだろう。


 元々仲間達と魔王討伐の長旅をしていた私は、野宿も慣れっこなのだ。断られた場合はその辺でもなんとかなる。自分の身だって、自分で守れる力はあった。


「なんだか、ワクワクしてきちゃった」


 自然に囲まれた田舎で、本当に村娘としてのんびり暮らしていくのもいいかもしれない。元の世界には、私を心配するような家族だっていないのだから。

 

 私を縛るものだって、ここには何もない。完全に自由なのだと思うと、胸の中に期待が膨らんでいく。


 そうして私の第二の異世界ライフ──もとい明るいスローライフは幕を開けた。



◇◇◇



 それから、あっという間に三週間が経った。私はあれから必死にポーションを大量生成してお金を稼ぎ、自らの家を借りるまでに至った。かなり優秀だ。


 当初快く家に泊めてくれ、お世話になったおばあちゃんにもたっぷり恩返しをした。今でもご飯を一緒に食べたりと、仲良くしてもらっている。


 このメイサ村の人達はとても温かくて、突然現れた余所者である私にも良くしてくれていた。そのお蔭で、私は着々と幸せなスローライフの土台を作れつつある。


「ニナ、今週の分のポーション取りにきたぞ」

「ありがとう! すぐに持ってくるね」


 そんな私の城である小さな木の家に、今日もブルーノがやって来た。彼は第二都市セレヴィスタを中心に働く商人だ。


 どっさりと作っておいたポーションを奥から持ってきて託すと、ブルーノは髪色と同じ紺色の眉を寄せた。


「……本当にお前、何者なわけ?」

「実は私も知りたいんだ」

「はは、なんだよそれ。ま、俺としては倍の手数料を貰えるからいいけどよ」


 ブルーノには色々な口止め料として、多めのお金を払っている。身バレを防ぐためにもポーションはある程度質を落として作り、ブルーノから更に数人を介してお店に並べてもらっていた。


 その分の儲けは減るけれど、魔力だって薬草だっていくらでもあるのだ。平和な生活維持のため、念には念をと徹底している。


「ほら、今日の分の代金。盗まれんなよ」

「うん。来週もお願いね」

「おう! またな。森に入るときは気をつけろよ」

「いつもありがとう。ブルーノも気をつけて」


 なんだかお兄ちゃんポジションになりつつある優しいブルーノを見送り、彼の儲けを増やすためにも気合を入れた私は、ポーション用の薬草を摘みに行こうと支度をして外へ出る。


 さっとドアの前の鏡で姿を確認すると、桃色の髪と金色の瞳をした少しつり目の女性が映った。


 元々の私は栗色の髪と瞳をしていて、垂れ目な方。まだまだ変身魔法は不慣れだけれど、(ニナ)だと分かる人は間違いなくいないだろう。


 最初に会った元の姿を知るおばあちゃんにだけは、事情があって身を隠していると伝えてあった。


 軽く髪をまとめて外に出るとなにやら村中が騒がしいことに気が付き、隣の家の前にいたベティおばさんに声をかけてみる。


「あの、何かあったんですか?」

「なんでも、2日早く聖女様がいらっしゃるみたいよ」

「えっ?」


 どうやら新しい聖女はお披露目を兼ねて、国中を回り祈りを捧げているらしいのだ。私の時にはそんなイベントはなかったけれど、色々と変わることもあるだろう。


 とにかく攻略対象の誰かが一緒の可能性が高いと思った私は、鉢合わせないよう明日から数日村を出て過ごす予定だったというのに。


「ほら、ニナちゃん。あの方が聖女エリカ様よ」

「わあ……」


 おばさんが指差す方先には騎士に囲まれ、以前の私が着ていたものと同じ真っ白なローブを身に纏った、それはそれは美しい銀髪美少女の姿があった。


 長い睫毛に縁取られた大きな瞳は美しいアイスブルーで、どう見ても私と同じ日本人の転移者には見えない。


 不思議に思いながらすぐ隣を歩く男性へと視線を向けた私は、思わず「あっ」という声を漏らしてしまう。


 新聖女の隣にいたのは、かつての友人であるエルフのテオだったからだ。



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