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元聖女ヒロインの私、続編ではモブなのに全ステータス(好感度を含む)がカンストしているんですが  作者: 琴子
第1章 必然の再会

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変化と温もりと



 目を開けると、見慣れた真っ白な天井が目に入った。ぼんやりとして上手く頭が働かず、なんだか思うように身体も動かない。


 視線だけを動かせば、ベッドのすぐ側の椅子に座るアルヴィン様と視線が絡んだ。同時に、自分の右手が彼の両手に包まれていることにも気が付く。


「……アルヴィン、様?」


 掠れる声で、名前を呼ぶ。アルヴィン様は何も言わず、悲痛な表情を浮かべて私をじっと見つめるだけ。


 霧が晴れていくように少しずつ意識がはっきりしてきた私は、地下アジトで意識を失ったことを思い出した。


「アルヴィン様、助けにきてくださって、ありがとうございました」


 私の手を握る彼の手を、そっと握り返す。するとアルヴィン様は何かを堪えるように、きつく唇を噛んだ。


 宝石のようなアルヴィン様の瞳が、悲しげに揺れる。


「……俺は、礼を言われる資格なんてない」

「えっ?」

「今回も前回も、ニナを守れなかった」


 その様子からは、自分をひどく責めていることが窺える。あんなにも早く場所を特定して助けに来てくれたのだ、責めるどころか感謝すべきところだろう。


 前回など、あの男しか悪くない。そもそも私が勝手に一人で出掛けて殺されたことに対して、アルヴィン様に悪い点なんてあるはずがない。


 そう告げたところ、アルヴィン様はかぶりを振った。


「何より、今回の件は俺のせいだ。すまない」


 必死に誰も悪くないのだと訴えても、アルヴィン様には伝わっていないようだった。私はゆっくりとベッドから身体を起こし、アルヴィン様に向き直る。


「アルヴィン様に謝られると、悲しくなります。それに私は今こうして無事なんです。アルヴィン様のお陰で」

「…………」

「助けに来てくれた時、本当にほっとしたんですよ」


 そう言って笑顔を向ければ握られていた手を引かれ、抱き寄せられた。アルヴィン様の体温や優しい香りは、私をとても安心させてくれることに気付く。


 耳元で「無事でよかった」と呟いた彼の声は震えていて、私は静かにその背中に手を回した。どれほど心配してくれたのかを想像するだけで、胸が痛んだ。


「もう二度と、ニナを傷付けさせないと誓う。あの男も絶対に見つけ出して殺す」

「……アルヴィン様」

「とにかく、ニナはまだ休んだ方がいい。交代で見張りをつけるよ。まずはラーラを呼んでくるから──」


 するりと身体を離し、立ち上がったアルヴィン様の手を、私は気が付けばしっかりと掴んでいた。


「ニナ?」

「……え、ええと」


 ほぼ無意識だった私は、自分の行動に困惑していた。けれどひとつだけ、分かることがある。


 私はまだ、アルヴィン様と離れたくない。彼がこの場を離れてしまうのが、とても寂しいと感じてしまう。


「もう少しだけ、一緒にいてくれませんか」

「大丈夫、すぐに他の人間を呼んでくるよ」

「その、アルヴィン様がいいんです」


 そう告げてすぐ、自身が我儘を言ってしまっていることに気が付き、慌てて口を開く。


「ご、ごめんなさい。ずっと付き添ってくださっていたし、アルヴィン様もお休みになられた方が良──」

「ニナ」


 名前を呼ばれて顔を上げれば、口元を手で覆い頬を赤く染めたアルヴィン様の姿があって、息を呑んだ。同時に自分の発言を思い出し、顔に熱くなっていく。


 アルヴィン様は小さく息を吐き私に向き直ると、ベッドの上に腰を下ろした。熱を帯びた瞳で見つめられ、落ち着かなくなる。


「……ニナは本当にずるいね」

「す、すみません」

「君が許してくれるのなら、ずっと側にいるよ」

「許すも何も、お願いしたのは私ですから」

「ありがとう。……だめだ、すごく嬉しい」


 お礼を言うのはこっちだと言うのに、調子が狂ってしまう。けれど、アルヴィン様が笑ってくれて安堵した。


「今日は朝までここにいるから、安心して」

「でも、それだとアルヴィン様が休めないのでは」

「俺は大丈夫だから」


 1日中仕事をした上に私を助けに来てくれ、あの男と戦った後、ずっと付き添ってくれていたのだ。顔に出していないだけで、相当疲れているに違いない。


 部屋に戻ってゆっくり休むよう伝えるべきなのに、とても寂しいと思ってしまう。いつから私は、こんなにも我儘になってしまったのだろうか。


 そしてしばらく悩んでいた私は「あ」と顔を上げた。


「もし良かったら、ここで一緒に寝ませんか」

「え?」

「ベッド、すごく大きいですし」


 先日の宿屋のベッドとは違い、このキングサイズのベッドなら二人一緒に眠っても、間にシェリルが2匹くらい入れそうだ。


 アルヴィン様は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべた後、困ったように微笑んだ。


「お願いだから俺以外の男にそんなこと、絶対に言わないでね」

「は、はい」

「良かった。今夜は一緒に寝ようか」


 自分から言い出したことなのに、いざアルヴィン様の口からそう言われると、なんだかそわそわしてしまう。


「支度をしてくるから、少しだけ待っていて」

「分かりました」

「すぐに戻ってくる」


 私の頭を撫で、アルヴィン様は部屋を出ていく。


 それからすぐに入れ替わるようにラーラがやってきて、彼女は再びきつく抱きしめてくれた。


「本当にニナが無事でよかった。エリカも大丈夫よ」

「よかった。ありがとう、ラーラ」


 エリカはまだ眠ってはいるものの、治癒魔法もしっかり効いたようで、何の心配もないらしい。


 テオも泣き疲れて眠っているようで、明日起きたら黙っていたことを謝って、たくさん話をしようと思った。


「聞きたいことは沢山あるけれど、今日のところはもう暗い話はやめておくわね。で、今晩はアルヴィンと寝るって聞いたけど、どういうこと?」

「それは、その」


 そうしてアルヴィン様が自分の側から離れることに対し、すごく寂しく感じてしまったと話せば、ラーラは「まあ」と開いた手のひらを口元に当てた。


「お前にも乙女なところがあったのね」

「えっ?」

「離れ難くなるなんて、可愛いじゃない。アルヴィンに守られて、流石に意識したのかしら」


 よく分からずにいる私を見て、ラーラは薄く笑う。


「なんだか寂しいけれど、アルヴィンは性格以外は良い男だもの。仕方ないといえば仕方ないわよね」

「どういうこと?」


 尋ねてみても、ラーラは「あいつのアシストはしたくないから、内緒」なんて言って教えてはくれない。


 そうしているうちに、ノック音が響く。


「あら、王子様が戻ってきたわよ。ゆっくり休んでね」


 立ち上がるとラーラはまた明日と言い、あっという間に部屋を後にした。アルヴィン様はラーラにお礼を言い、こちらへと向かってくる。


 夜着姿を見るのは初めてで、普段とはまた違う雰囲気にどきりとしてしまう。冷静になると一緒に寝ようだなんて、とんでもないことを言ってしまった気がする。


「待たせてごめんね、寝ようか」

「は、はい」

「よく眠れる香を持ってきたんだ」

「ありがとうございます。わあ、いい香りですね」


 アルヴィン様の手にあるお香からは優しい甘い花の香りがして、とても落ち着く。すぐに眠たくなりそうだ。


 ベッドに座っていた私は、おずおずと再び横になる。アルヴィン様も、人一人分空いたところに横になった。


 つい緊張してしまう私を見つめ、アルヴィン様は柔らかく目を細める。


「かわいい」

「そんなこと、ないです」

「ニナが世界で一番かわいいよ」

 

 片手を伸ばしたアルヴィン様は私の長い髪を掬い、指先でさらさらと梳いていく。


 そんな仕草ひとつひとつも、まるで好きだと言われているように感じてしまう。


「ねえ、ニナ。抱きしめてもいい?」

「えっ」

「もちろん、それ以上は何もしない」


 いつもはそんなことを聞かないのにと思いながらも、無理を言っている側の私はこくりと頷く。するとアルヴィン様は「ありがとう」と微笑み、距離を詰める。


 やがて静かに抱き寄せられ、心臓が跳ねた。薄い夜着のせいで、いつもよりずっとアルヴィン様の温もりが伝わってくる。


 やっぱり驚くほどほっとして、気が付けば私の口からは彼に対するお礼の言葉がこぼれていた。


「……それは、何に対するお礼?」

「アルヴィン様には沢山良くしてもらっているので」


 いつだってアルヴィン様は私優先で、私のことを一番に考えて、私のために動いてくれている。


「当たり前だよ。俺はニナのために生きてるんだし」

「気持ちは嬉しいですが、そこはご自分のために……」

「俺には責任があるから」


 責任とは一体、何のことだろう。やがて髪を梳いていたアルヴィン様の手が、私の頬に触れた。


「それに、どうしようもないくらい君が好きなんだ」

「…………」

「絶対にニナを、この世界で幸せにする」


 聞きたいことは色々あるのに、アルヴィン様の優しい声や温もり、甘い香りによって瞼が重たくなっていく。


 そっと頭を撫でられ、アルヴィン様の声が遠くなる。


「……好きになって、ごめん」


 そんな言葉を最後に、私は穏やかな眠りについた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘~~~い(n*´ω`*n) [気になる点] 第1作の世界線の時にゲームで言う友情エンドじゃなかったら殺されなかったのかな? エリカも召喚されることなく。 2作目が前のヒロイン(聖女)が友…
[一言] ニナったら無自覚すぎ…♡
[良い点] ニナはまだ無自覚な感じですけど、アルヴィンに惹かれつつある感じですね。自覚してたら、あんなに気軽に一緒のベッドで寝ようだなんて言えないですもんね…笑 アルヴィンがニナのことが好きでそばに…
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