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「すみません。気のせいだったようです」

「…………それで? キミも見て来たんだろう? 転生の術を」

「思い当たる節はないんです。転生の術を語れても、どこにそのヒントがあったのか……」

「ふん。まぁ、いいけど。キミが語らないのであれば、僕が語る義務も義理もないね?」

「今は言い返すことはできません」


 これはどうにもならないと、私は『これは参った』と言わんばかりの困り顔を決めた。目を細めれば赤い光も細くなる。その先に映るレクティスは、転生の術について知ることも出来なかったのだが、私からこれ以上の追及を避けることが出来たことで、良いのか悪いのか。どちらともいえない表情を浮かべている。基本的にはつくり笑顔で決め込み、時には冷たく氷のような厳しい目を向ける。そうすることで、恐怖で相手を縛り付けようとしている所作が丸見えだが、かえってそれを狙っているところがある。丸見えのため、相手には直接的に直感的に『恐怖』を見せつける結果となる。

 生まれながらにして魔王。そんな話は今のところない。魔王の起源がどこにあるのかにもよるが、初代魔王も誰かが死んだことによって誕生したとすれば、どこかで『魔王』という姿に進化を遂げるキッカケが隠されている。魔族の誰もが魔王に変異する権利があるのか。それとも、魔族と魔王族と区分されているのだから、魔王族内で変異は限られるのか。


 魔王のカラクリを知ることで、『魔王』をこの世界から消すことが可能となるならば。

 この世界から、憎しみや悲しみ……戦争を失くすことに繋がるのではないだろうか。


「エル。このハーブティーは色が綺麗ですね」

「綺麗だろ?」

「でもどうかな」

「何か、気になる点でもあるんですか?」


 お茶を見ても、感動することはなく。むしろ、嫌な物でも見せつけられているように眉を寄せ、目を伏しながらもエルには厳しい視線を向ける。エルは萎縮し、肩をすぼめて私の方に救いを求める。視線を感じて私は一度、しっかりと頷いた。それで少しは安心した様子で、エルもひとつ深い息を吐いた。


「青い色なんて、気に食わないじゃないか。どの国が信仰していると思っているんだい?」

「国によって、象徴する色が異なるんですか?」

「どこまでもとぼけてみせるようだね? イチルヤフリートくん」

「とぼけているんじゃないですよ。本当に覚えがないんです」

「ほぅ?」


 私の言葉を信じているのか信じていないのか。腕組みをしながらコップを睨む。そこには透き通った青い色のお茶がそのままの状態である。室温も冷たいことがあって、すっかり冷めてしまった。ほのかにゆらゆら上っていた湯気も、今はない。

 ビョウビョウ……強い風が吹いてくる。激しい風は丸太を積み上げて作られたこの家の壁を押す。基礎がしっかりしているのか、暴風が吹いても壊れそうにはない家。これだけの家を建てるにはそれなりの時間がかかるはずだ。目の前に居るレクティスが、それをこなすような人物に今はまるで見えない。しかし、エルは確かに『先々代が建てた』というし、先々代とはつまりレクティスということになる。ここでふと、私の頭によぎることがあった。


 先々代魔王と、今目の前に居るレクティス。

 彼らは、完全一致の『レクティス』ではないのだろうか。


(私だって、過去のイチルヤフリートとは異なるとみんなが言っているんです。もしかしたら、レクティスさんも違った人格だったのかもしれませんね)


 だからといって、どうということはない。私は此処でしたいことは、ハンガーづくりと隠居である。隠居しながら世界平和を願い、お経でもあげたいところ。しかし、私が『魔王』である限り、ただそれを繰り返す日々は許されないものだということには、残念ながら気づいてしまった。気づいたからには、無視をして真っすぐ歩くことはできない。記憶が戻らないにしても、知識は増やさなければならないだろう。私はレクティスさんに頭を下げた。


「色が示す意味など、教えていただけると嬉しいです」

「仕方ないね」


 満更でもないのか。魔王である私に頭を下げられるとレクティスは少々気分がよくなったように見えた。口角が上がったところを確認し、私は内心でほっとする。


「夢幻島に生きる魔族が、何色を重んじているかは分かるかい?」

「夢幻島……それなら、赤。もしくは、緑……でしょうか?」

「夢幻島の魔族の中から魔王が生まれるんだ。それなら“紫”に決まっているだろう?」

「紫…………あぁ、魔王の髪の色が象徴なんですね」

「そういうことさ」

「それでは、この青色は?」


 コツン。

 レクティスは爪でコップの端をはじく。


「青はヨウ国の色。今最も、この夢幻島にちょっかいを掛けてきている大国さ」

「ヨウ国の方々の目の色は、確かに青い輝きでした」

「ヨウ国軍隊が海域を超えてこっちへ来た段階で、キミは先手を打つべきだったんだ。せっかくキルイールが来ていたんだから、殺してしまえばよかったのに」

「その様子も見ていたんですか?」

「僕はすべてを見透かしているんだよ」

「そうですか」


 あっさりとレクティスの言葉を流すと、彼は不満そうに目を細めた。彼は冷酷な眼をしている割には、反応は悪戯っぽく子どもっぽい。本当に数百年という歴史を踏み歩いてきた人なのだろうかという疑問はどうしても抱いてしまう。見た目で年齢は分からないこともあると、私はふむふむ観察する。

 大学を出てからは5年間。里山でこっそりひっそり生きていた私には、この短い期間で様々な種族と人たちと会話することが珍しかった。人間観察は昔から嫌いじゃない。にこにことした表情で、レクティスに問いかける。


「ジクヌフ国は、何色を重んじているんですか?」

「ジクヌフは水色。彼らの目を見ればわかるよ」

「今、力を持っている人間種族はヨウ国とジクヌフ国なんですか?」

「まぁ、そうだね」


 すっかり冷めた青いハーブティー。

 レクティスはそのコップを持ち上げると、口を近づけると思いきや……。


 ぱしゃ。


「…………」


 何を思ったのか。そのハーブティーをエルに向かってぶちまけた。突然のことで、私も止めることが出来なかったし、エルは頭からそのお茶を被った。

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