1 プロローグ 桜咲く季節にサヨナラ
小田虹里初の、異世界転生。異世界転移。
なろうで執筆するならば、一度は挑戦してみてもいいかな、と。
異世界転生はじめました。
やや堅苦しい文体の中でも、読みやすくなればいいなと考えながら執筆していきます。
主人公の名前は、まだ登場していませんが、諸々異世界での世界線などもしっかり考え、きちんと完結させられるように頑張ります。
まずは、プロローグといえる1章の1話。
読んでいただけると嬉しいです。
まったくの新しい気持ちで、この作品と向き合っていこうと思います。
花を愛でることに最適な春の季節。ソメイヨシノの枝には、こんもりと淡いピンクの花弁が可愛らしく揺れている。そよ風にあわせて流れるように、ゆらゆらゆったり顔を振る。香りこそ、そこまで刺激を持った花ではないが、日本人として生まれると、桜の季節を楽しみにしているのは、私だけではないはずだ。
二十七回目の春を迎え、縁側に座り茶をすする私は目を細めた。小さな庭でも、一本のソメイヨシノは十分に私に春の訪れを伝えてくれる。
「今日も穏やかな一日ですね」
「ワン」
若干二十七歳にして、仏道を選んだ私には、連れ添う妻も居なければ、恋人などという浮足立ったパートナーも居ない。ただ、一匹の柴犬だけが私のよりどころとなっていた。この柴犬の名は、『まめ』。豆しばのため、その頭文字をとって『まめ』と名付けた。安直な名前だが、私は気に入っている。
ペットショップなどでまめと出会ったのではなく、まめは捨て犬の赤子だった。近場の山の麓に段ボールが置いてあり、『なんだろう?』と開けてみた。すると、そこには二匹の犬の赤子が捨てられていたのだ。一月の中旬の頃だった。とても寒かったのだろう。寄り添うようにし、二匹の仔犬は震えていた。
動物を飼ったことが無かった私だが、放ってはおけず二匹を家に連れ帰った。しかし、残念ながら黒の豆しばは程なくして命が尽きてしまった。私の手当が甘かったのだろうか。とても悔やみながら、その子にお経をあげ。せめて無事、成仏できりょうにと丁寧に弔いをした。
このまめは、なんとか生き延び今、二年目を迎えている。ワンともキャンともつかない中間の声で、まめは鳴く。まめの毛並みは黄土色。よく見る柴犬の特徴を持つ。
「おや、西から黒い雲が来ていますね。風向き的に、あと三時間もすれば雨でしょうか。その前に、仏様にご挨拶をしたいところですね」
「ワン」
よいしょ、と。私は年寄りじみた掛け声と共に、ゆっくりと立ち上がる。ちょうど、湯のみの中のお茶も飲み切っていた。茶葉も、お店で購入したものではなく、山に生えている木々の葉を摘み、庭の中で干して乾燥させる。それを煎って茶としている。
基本的には自給自足の生活を楽しんでいた。しかし、令和という現代社会の文明も、多少は利用してもいいかもしれない。生活を豊かにするために、科学は発達したとも呼べる。あえて、田舎の一軒家で茶をすすり、朝と夕方に仏様を拝むだけの日常を送り続けることに徹するだけではなく。時には車にでも乗り、街中の法事に駆り出されるのもいいだろう。人生に強い刺激を求めはしないが、多少の驚きは必要だ。そのため、自動車の運転免許が無いわけでもない。
大学までは、田舎暮らしもせず、それなりの街で生活をしていた。そのとき、自動車の免許も取得したのだが、それは正解だった。
大学での講義のひとつ。全学部共通科目で、『宗教論』という講義があった。私はそれに惹かれ、仲間たちとは別で宗教論を学ぶことにした。もともと信心深いところもあった私は、そこで仏への道に進もうと、人生の方向性が決まったのだ。
はじめは教育の仕事に携わりたいと思い、教育学部に進んだのだが、卒業と共に俗世間に背を向けることになった。ちなみに、共に学んだゼミ仲間は皆、教員の道を歩き始めた。これは、私にとって人生の大きな分岐点だと言えよう。
「さぁ、まめ。雨が降らないうちにお社へ行こうか」
「ワン」
首輪もリードもつけていない。どこかへ逃げ出してしまうのならば、それまでのこと。私のもとでは、この子は生きられないのだろうと、腹を決めていた。しかし、まめは一度も私のもとから逃げようとしない。私はまめを可愛がっているのと同じように、まめも私を慕ってくれているのだろうか。都合の良い解釈かもしれないが、今はそう思うことにしておこうと頷く。
茶色の古びた草鞋を履き、黒の法衣を着用。慣れた山道のお供として、まめも並走する。ザッザッザ……砂と草鞋が重なり合って、乾いた音が響く。
緑道の脇には、様々な木々や草が生い茂る。白い花や、黄色の花など、可愛らしい植物が目を潤す。中には、触れるとかぶれる草木もあるため、注意は必要。
結構な急こう配だが、五年も歩けば慣れて来る。私はまめと共に、植物に癒されながら山の中腹を目指した。
ゴロゴロゴロ。
嫌な音が耳に届く。
「思ったよりも早く、雨に降られるかもしれませんね。あ、…………」
シト、シト、シト…………ザアァァァァァァァァァァ!!!!
あっという間に黒い雲に覆われ、私は咄嗟にまめを抱き上げた。とてつもなく嫌な予感が走り、私は次に待つ『何か』に対して、身構えた。そして、次の瞬間。世界は真っ白な光に包まれた。
いや、そう錯覚するだけで、実際には雷がすぐ近くに落ちたのだろう。地響きを身体全体で感じ、バリバリバリという激しい音は、耳を壊すほどの威力だ。あまりの衝撃に私はふらつく。足元にあった少し大きめの石ころに足を取られ、天と地が逆転した。頭から満ちた緑の世界へ転がり落ちる。その間に願ったことは、手の中のまめだけは、無事に麓へ帰したい。その一心だった。強く、強く、まめを抱きしめる。
…………。
………………………………。
私はきっと、死んだ。
痛みも臭いも、何の感覚もない。
思考している私は、走馬燈でも見ているのだろうか。
それとも、仏を信じ続けた私は、極楽浄土にたどり着けたのだろうか。
「あぁ、終わってしまった」
不思議と口は動いた。いや、実際に動いたのかは分からないが、そのような感触は得られた。唇が重なり合って『ま行』の発音も叶う。いや、それだけではない。草を刈ったあとに香るような、緑の匂いが鼻にかかる。そよそよとした風に、髪の毛はなびく。その感覚には、慣れていない。何故なら私の髪は、顔にかかるはずがない短髪だったからだ。
「私は、生きているのか?」
目をゆっくりと開けた。眩しい光が燦燦と輝く。目の前には、見たこともない、美しい泉。巨大ではなく、程よい大きさ。しかし、周りに建造物はない。
ふぁさふぁさ。
風によって揺れる髪は、短いのとはまるで逆。座っている私のお尻のあたりを超えて、地面に垂れている。それも、黒髪ではない。この世のものとは思えないほどの美しい『紫』である。夢でも見ているのだろうか。這うようにしてやっと、私は泉までたどり着く。私はその水面に映った自身の姿を見て目を見開いた。
「夢、ですね」
紫のうねるような髪。
すべてを呑みこむような血のような赤い眼。
人間とは決定的に異なる姿、山羊のような黒き角。
私はまったくの見ず知らずの地で、身体を起こした。
1話、読了ありがとうございました。
本当にまだ、物語がはじまってもいないようなところです。
今後、ファンタジー要素をたっぷり詰め込んだ、優しい作品になればいいなと思います。
この1話にも、後々の伏線となるものを散りばめました。
この『仏の道を歩んでいた筈が、うっかり魔王に転生してしまったので、世界の片隅で隠居暮らしをはじめました。』の話が進んだのちに。
『あぁ! これは、ここの伏線回収か!』
……と。
感じていただけるようなギミックを、いくつも仕掛けていけたらいいなと思います。
2話の投稿がいつになるかは、現段階未定となります。
できるだけ早めに、続きを紡いでいけたらと思います。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
当方、他にもファンタジーや純文学、詩なども『なろう』に投稿しております。
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