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特撮好きの妹が大変メンドーなのでどうにかしてください

作者: 四角三角

 正直に言うと、俺こと石森爽真いしもりそうまの妹……石森莉愛いしもりりあは非常にメンドくさい。


 特に……大好きな作品が絡んでくると数倍メンドくさくなる。



「あー、もう! 我慢できない!」



 作業を開始して10分、ついに痺れを切らした莉愛がベッドから立ち上がる。


「このクソ兄貴──」


 そしてガッと胸ぐらを掴まれ。



「テメェこら! 初代様とジャック様を間違えて並べてんじゃねぇぞ! それにまず宇宙警備隊隊長のゾフィー様から飾っていけやボケが! あとセブン様そこじゃねぇから! おんどりゃ目ん玉腐っとるんか!?」



 勢いよく罵声を浴びせられた。


 あ……プッチン♪



「こんな判別素人に分かる訳ねぇだろうが! キチンと並べられたかったら後ろに名前と番号でも書いとけや!」


 透かさず胸ぐらを掴む手を握り返し、感情に任せて反論する。


 ただでさえ数分前に気分を害する出来事があった為、今は若干怒りまでの点火が早い状態であった。

 というかもう点いちゃった☆


「元はと言えばテメェが壁殴ったのが原因だろうが! 変な振動与えなければウルトラ戦士様たちは崩れずに済んだんだぞボケが!」


「だったら壁に立て掛けるんじゃなくて固定でもしとけば良いじゃねぇか!」


 互いに一歩も引かず、大声だけが室内に響く。




 ▲




 事の発端は、20分前に遡る。


 最近ハマり出した対戦アクションゲームでオンラインに潜っていたところ、完膚なきまでに叩きのめされた。

 こちらは一切手も足も出せず、ただ殴られて画面外に吹き飛ばされ、ストックを減らされるだけの数分間を味わった。

 それだけならまだ良い……問題はそのあとだ。



【GAME SET!】



 勝敗を決定する音声、それが鳴る前に対戦相手は──。



(シュッ、シュッ)



 スクワットをしてきたのである。


 これは立派な煽り行為で、明らかなマナー違反だ。

 脳に電撃が走り、怒りへの導火線に火が点き始める。

 鮮明なガラスの心に到達する前に、俺は次の対戦を選択する。


 まあ…………スクワットだけならまだ許そう……よくある事だし。

 次マッチした対戦相手には八つ当たりするようで可哀想だが、今度は俺が完膚なきまでに叩きのめせば良いのだから。


 そう心に決めた瞬間、SNSに通知が入った。

 画面を開くと、ダイレクトメッセージを受信していた。

 送信者の名前を確認すると、先ほど対戦した相手とネームが同一であった。

 お、もしかしてスクワットした事を謝りにでも来たのかな?



【ザーコwww】



 脳に再び電撃が走り、導火線が尋常じゃないスピードで燃えていくのが分かった。


「ヴンッ!」


 気付いた時には、俺には一生縁の無い意味の違う壁ドンを実行していた。

 すると──。



 ガシャーン



 隣の部屋から、何かが散らかる音が聞こえた。



『あーッ!?』



 同時に莉愛の悲鳴が上がる。

 あ、鍵閉めとかなきゃ。

 自室に駆け込んでくるのは安易に予想できた為、急いでドアノブの鍵をロックしに向かう。



 ガチャ



 負けた。



「テメェこのクソ兄貴! なにしてくれとんのじゃ貴様ぁ!」


 頭に思い描いていた数倍険しい表情で侵入してくると、大口を開けて怒声を浴びせてきた。


「おう、莉愛。お兄ちゃんは今壁ドンしただけだから気にするな。おやすみ」


 よし、このまま廊下に出して鍵をかければ俺の勝ち──。


「とぼけんな!」


 く、二連敗……。


「お前が壁殴ってくれたおかげでウルトラ戦士様たちのアクキーが全部崩れたじゃねぇか!」


「あ、アクキー……?」


 聞き慣れない単語に疑問符を浮かべて目をぱちくりさせる。


「アクリルキーホルダーだよ! ちょっとこっち来いや!」


 そして胸ぐらを掴まれ、部屋に連行される。


「ほら見ろ!」


 視界に広がった光景、莉愛の部屋は確かに壮絶な状態になっていた。

 床に散らばった、〝アクキー〟と略称された大量のキーホルダーグッズだち。


 それらは全て、特撮ヒーローの代表作品のひとつ……『ウルトラマン』のデザインが印刷されていた。

 しかも1つ1つ微妙に姿形が違う……まるで歴代の校長の写真を見ているかのような気分だ。


「これ、兄貴のせいだからね!」


「随分集めたな。計いくらだ?」


「誤魔化すな!」


 ち、話を逸らせなかったか。


「散らかしたんだから、ちゃっちゃと直してね」


「はいはい……」


「ちゃんと順番通りに全部直さなかったら、蹴り入れるから」


「へいへい……」


 まあ10対0で俺が悪い訳だから、素直に非は認めよう。


「そこのボード立て掛けてから引っ掛けてね」


「ほいほい……」


 落ちたのはキーホルダーだけではなく、大きいコルクボードも一緒になって倒れていた。

 指示通りに立て掛けると、均等に画鋲が刺されてあるのが分かる。


 本当……好きな物に関してはとことん拘るな……。

 取り敢えずこれ以上刺激する前に、さっさと済ませるか。


「なぁ、順番知りたいからスマホ持ってきて良いか?」


「ダメ。そう言って部屋戻ったら鍵かけるんでしょ」


 バレたか……。


 仕方ね……こうなりゃ知らないながらでも頑張ってみるか……。

 まずは平成から攻めてみるか。

『ティガ』『ダイナ』『ガイア』は何となく順番知ってたから、これは自信が持てる。


 問題は昭和だ。


 え~っと……コイツの名前は確か『セブン』だったから……セブン……7……7番目だな。

 で、この2本角のあるヤツが『タロウ』で、莉愛が時折『ナンバーシックスっ!』って叫んでいるのを聞いた事があるから、六番目で確実だな。


 で、コイツが……初代……え、これダブってんじゃん?

 顔同じじゃん、どこが違うの……?

 えっと……取り敢えずコイツが1番目でコイツが……。



「あー、もう! 我慢できない!」



 そして現在に至る。




 ▲




「これで良いか?」


「うん、オッケー。次からは気を付けてよね!」


 背中に怒声やら罵声を浴びつつ、時折蹴りも入れられ、ようやく全部並べる事ができた。

 しばらくウルトラ恐怖症にでもかかりそう……。


「はいはい……しっかしお前よくここまで集めたな。合計いくら注ぎ込んだんだ?」


「ん~、大体3万ちょい」


「は!? 3万!?」


「なにそんな驚いてんの? こんなの普通だよ」


「普通って……お前……」


 こんな腹の足しにもならないモノ全部で3万も使ったのかよ……。

 それだけでゲーム機1台買えるじゃねぇか……。


「これ1個いくらするんだ……?」


「500ちょい」


「はぁ、こんなのに!?」


「こんなの言うな!」


「だって、こんな薄っぺらいんだぞ……?」


 戻したばかりのアクキーの内1つを取って指差す。


「やめろ、ゼロ様を離せ!」


 すると莉愛の語気が強くなる。


「あ、ああ、ごめんごめん……」


 急いで戻すと、握り締めていた拳を引っ込めた。殴る気だったな?


「でもよぉ、いくら好きでもコレに3万って後悔とか無いのか?」


「は?」


「だってよ、遊べないし食べれないし、ただ飾るだけじゃん」


「もう一度言ってみろ……貴様にバーニングディバイトを叩き込んでやる……」


 あれ、いきなり戦闘モード?


「落ち着けって。でも怒るって事はそういう思ってる部分もあるって事だろ?」


「そうだよ。でも好きなんだから集めても良いじゃん」


「でもよぉ、こういうのもなんだが……卒業の目処とか立てておいたほうが良いんじゃないのか?」


「よし禁句を言ったな。ベノクラッシュを叩き込むそこを動くな」


 あ~、メンドくせ。


「だから落ち着けって。それに考えてもみろ。今は良いかもしれないけど、50・60にもなってこの趣味続けてたら恐らく同年代で浮くと思うぞ?」


「別に良いもん。避けたければ避ければ良いじゃん!」


「はぁ、孤独死予備軍か」


「アタシの事はほっといて、兄貴はまどかちゃんの事でも一生懸命考えてたら?」


「なんでアイツの名前が出て来るんだよ。今関係ないだろ?」


「さあ、どうでしょうね~。円ちゃん見てる時の兄貴って、アタシが特撮に集中している時以上に集中しているよ……」


 目を細め、ニヤッと口角を上げてきた。


「な……お前デタラメも程々にしろよ!?」


「デタラメじゃないもん真実だもーん」


「いいや絶対デタラメだ!」




「うるせぇッ!」




 その怒号は第三者の介入を表していた。


「あ……」


「母さん……」


 ドア付近に母親が立っていた。

 時計を見ると長針は『8』を示しているから、お風呂が沸いた事を伝えに来たのだと思──。




「特撮に卒業なんて無いんだぞ! ぶちのめすぞ!」




 まさかの攻撃対象を俺に絞ってわざわざ叱りに来ただけのようだ。

 さすが……莉愛にウルトラ愛を叩き込んだだけあるわ……。




 ▲




「キィーン……キィーン……」


 翌朝、洗面所で顔を洗おうとすると先客が奇行に走っていた。

 左手に黒いケースを持ち、反対には銀色をベースとしたベルト状の装飾品を握っている。


 なんだっけか……『龍騎』だっけ……?

 早く終わってくれないかな……。


「キィーン……キィーン……」


 擬音を口から発しつつ、鏡に反射する自分を睨み付けていた。

 そして目付きが変わり出す。

 来るぞ……。



「フッ! シュウゥゥン、ピユーン!」



 左手に持っていた黒色のケースを前に突き出すと、今度は装着を連想する擬音を口から表現しだした。

 中央に龍の顔を模した紋章のケースを一旦床に置き、急いでベルトを腰に巻き付け出す。

 装着が中々気に入らなかったのか、何度も調整し直していた。


「変身ッ!」


 そしてベルトがベストポイントに位置したのか再びケースを持ち、右腕を左斜め上にかざして専門の呪文を口にした。

 最後はケースをベルトのバックル部にスライドさせるように装填、すると今度はベルト本体から音が鳴り出した。


 これがいわゆる、莉愛が憧れるヒーローになる為の疑似体験が可能な変身プロセスの一連の流れとなる。

 傍から見たら姿形は変わってないというのに、本人は変わったと錯覚しているのか『シャッ』と右手でガッツポーズを取って鏡に入るかのように突入して行った。


「…………」


 勿論実際に入れる訳ではなく、鏡に触れる寸前で停止してくれた。


「気済んだか?」


「ん、満足した。どうぞ~」


 洗面所の利用権を交換してもらうと、ベルトを外した莉愛が自室に戻っていく。


「明日は紫色の蛇にするのか?」


「はぁ? 王蛇って呼べし!」


 珍しく話しでも振ってみたらキレられた。


 あ~……メンドくせ……。




 ▲




「灼熱の獅子ガオレッドっ! 孤高の荒鷲ガオイエローっ! 怒涛の鮫ガオブルーっ! 鋼の猛牛ガオブラックっ! 麗しの白虎ガオホワイトっ! 閃烈の銀狼ガオシルバーっ! 命あるところ、正義の雄叫びあり! 百獣戦隊……ガオレンジャーっ!」


「気済んだか?」


「ん、満足した」


「そっか。じゃ、行くぞ」


 互いに制服に着替え、ローファーに履き替えて玄関から出る。


 莉愛はいつものように長い栗色の髪を耳よりも下で結び目を両サイド作り、ツインテールというよりかは〝おさげ〟に近い形に結っていた。

 校則にギリギリ引っ掛かりそうではあるが、今のところ気付かれていないナチュラルメイクも施されており、傍から見ればギャルっぽく見える。


 こう黙っていればスクールカースト上位に君臨できそうなレベルの可愛さなのに……。


「忘れ物無いか?」



「イエッサー、ルーディング。ポコン……テンガン、ネクロム。メガウルオウド。(ダダダダダダダドゥルドゥルドゥーン)クラッシュザインベーダーっ!」



 中身がこれじゃあなぁ……。


 嫁の貰い手どころか彼氏すら出来なさそうでお兄ちゃん心配になってきちゃったよ……。


「なに泣いてんの?」


「いや、もう……好きに生きなさい……」


 恐らく今『?』を思い浮かべているだろうが、気にするな妹よ。

 もし誰からも貰われなければお兄ちゃんが頑張って養ってあげるから!


 でも働かずに特撮三昧しないように。

 そんな下衆な事しだしたら毎日コレクションを1つ1つお金に変えていくからね☆

 バレたら殺されそうだけど。




 ▲




「あ、ソウくん。リアちゃん。おはよう♪」


 登校中、幼馴染の谷矢円たにやまどかさんと遭遇した。

 腰まで届く綺麗で長い黒髪……引き締まった体躯、それでいて端正な顔付き……相変わらず可愛いな。


「あ、お、おはよう……」


「円ちゃん、おっはよ~」


 気さくな挨拶に、俺たち二人は対照的な返事をする。


『…………』


 そして恒例、登校中の男子生徒たちの鋭い視線を受ける。


 そうだよな……今や彼女は学園内でアイドル的存在だからな……。


 幼少期は肥満体質で可愛いの『か』の字も無かった彼女は、ある日を境にダイエットに励み、今の体型を手に入れた。


 その努力の甲斐あって、中学・高校と彼女に一目惚れしないという男子は存在しなかった。

 だから幼馴染である俺がこうして話していると、周囲の連中が睨んでくる訳だ。



『ゾググス? ボソグ?』

『ギジャ、ラザザジャギ』

『ギベ……ギベ……』



 おっと彼らが口にしているのは恐らく普通の言語じゃないな?

 ここでは人間の言葉で話してくれ。


 ただ恐ろしいところが、殺気を含まれていることだけは伝わってきた……。


「どうしたの? 顔色悪いよ?」


「え、あ……いや」


「大丈夫だよ円ちゃん。お兄ちゃんゲゲルの対象にされただけだから」


「へ、ゲゲル?」


「ははは、げ、ゲームの事だよ!」


「よく分かったね?」


「え、当たってたの……?」


「うん、ウルトラビックリした」


「うふふ、相変わらず仲が良いのね」


 谷矢さんが俺と莉愛の遣り取りに微笑んだ。

 その笑顔があまりにもドストライク過ぎて、心臓の鼓動が早くなると同時に顔が熱くなるのを感じる。


「…………」


「な、なんだよ……?」


「べ~つに~」


 莉愛の謎の視線は気になったが、そこまで追求する事ではないと思い、一旦忘れる事にする。


「それにしてもゲームかぁ、久し振りにみんなでやりたいね?」


「あ、ああ。そ、そうだね……」


「そう言えばゲームのヒーローっていたよね? ほら、リアちゃんが凄い笑い方で真似してた作品」


「あ~なんだっけ……あ、確かエグゼット。エグゼットだっだと思う」



「エグゼイドだから! 中途半端な知識で語ってんじゃねぇぞこのタッコング!」



「はいすみません」


 公衆の面前で思いっ切りキレられた。

 あ~……マジでメンドくせ……。


「ふふ、リアちゃん本当に大好きだもんね」


「当ったり前、でなかったら無趣味で自殺してるところ」


「悲しい事言わないでくれお兄ちゃん泣いちゃう……」


「平気平気、ウルトラ戦士様たちから新しい命貰うから」


「それお前が地球救う為に戦うってことだろ?」


「手始めに俄か知識晒すクソ兄貴から消す」


「慈愛のねぇヒーローだな!?」


「二人とも、その辺にしておかないと遅刻しちゃうよ?」


「え、あ、マジだ! 予定より10分も遅れてる!」


「は、マジで? タイムフライヤー呼ばないと」


「現実を見てくれ!」



 こうして今日もメンドーな妹と過ごす1日が開始された。

閲覧していただきありがとうございました。

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