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ショートショート7月~

記憶

作者: たかさば

コンビニでアルバイトをすることになった。


新店オープン、オーナーさんは初コンビニ経営。

アルバイト仲間はすべてコンビニ未経験者。


誰一人スムーズな接客をこなせず、システムがわからず、初心者が力を合わせて少しづつ学んでいくうちに、いつの間にか固い絆のようなものが生まれていた。


お客さんもまた、然り。

地区初のコンビニだったため、大変に珍しがられて貴重な店となった。


かくして、私の働くコンビニは、ずいぶんフレンドリーで、ずいぶんやらかしがちで、いわゆるアットホーム感満載の店になっていったのである。


「おはようございます、いらっしゃいませー!」


「おっはよー、セッタねー!」

「あ、フランクちょうだい。」


毎朝通ってくれる、二人組みのお兄ちゃん。

頭にハチマキ、ボンタン、大工さん?


「あ、いいよ、俺払っとくし。」

「ありがとう。」


同じおにぎり二つづつに同じお茶とタバコ、そしてフランク。

毎朝買うものが決まってるんだな。いつもでっかい兄ちゃんが支払いをする。


「今日も仲良しですね。」

「うん、愛し合ってるからさ。」


ちゅっ!!


でっかいほうの兄ちゃんが、小さいほうの兄ちゃんのほっぺにチュー。


「やめろよ!!」

「ははは、いってらっしゃい。」


いつものやり取りだ。


最初見たときに思わず見とれてしまったのがいけなかったのか、飽きもせずに毎日チューチューと…。

…羨ましいじゃねえか!!!


目の毒なんだか、目の保養なんだか。


…顔なじみのお客さんが、いっぱいいた。

朝のシフトに入っても、夕方のシフトに入っても、顔見知りのお客さんがいて、いつも笑ってレジを打っていた。


いつもおだやかに笑っていたわけでは、決して、ない。

何かしら、事件は起きていたのだ。


停電レジ手打ち事件があったり。

発注ミスでおにぎり100個納品事件があったり。

おでん食べ放題事件があったり。

クリスマスケーキ半額販売事件があったり。

備品販売事件があったり。


色々あって、みんなで笑って、みんなで謝って、みんなで一緒に働いて。


この店で、ずいぶんいろんな経験をさせていただいた。

ずいぶん長い間お世話になった。


…今は昔の、お話になってしまったけれど。




あの店は、ずいぶん、ずいぶん店側も、客側も、優しかった。


気軽に交わす挨拶も。

フレンドリーな空気も。

ミスを許す雰囲気も。


にっこり笑って、声をかけることができた。

目を合わせる、余裕があった。

謝罪に対して、受け入れがあった。



…コンビニが増えすぎてしまったからなのか。

今のコンビニが、少し、別物に見える。


…人に余裕がなくなってしまったからなのか。

今の人間が、少し、変わった気がする。


私の記憶が、改竄されてしまったからなのか。


私も、変わってしまったのかもしれない。

私が、変わってしまったのかもしれない。


私は、これから、変わってしまうのかもしれない。


人と人が交わす言葉、やり取り。


思いやりの言葉は、そこにあるのか。

独りよがりな思い込みはないか。


考えなければ、出せない言葉。


考えても、出してはいけない言葉と気が付かないかもしれない。



このままでは、何もいえなくなってしまう。


言えなく、なってしまう?

言えなくなってしまうと危惧する気持ちすら、無くしてしまうかも知れないと言うのに。


考えれば考えるほど、泥沼にはまっていく。

誰かの心無い発言を聞くたびに、私の言葉が閉じていく。


言葉を閉じたことすら忘れた私が、いずれ誰かに。

どんどん悪い連想が続いていく。


ああ、連想を、やめたら良い。

そう、考えて横になり。


朝起きたら。


すべて忘れて、また苦悩する。


また、苦悩、する。


そしていつか、苦悩することすら忘れてしまい、人であることすら忘れてしまうのではないか。


ずいぶん昔の、思い出せる、思い出したい記憶。


その記憶が消えるのが先か、苦悩が消えるのが先か。


いつの日か、こんなくだらないことで悩んだ日があったなあと思い出せる時が来るかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやぁ、びっくりしましたわぁ。 大工さん……。 コンビニ業界も厳しいですからね。
[良い点] 闇ってますね。後半の描写が薄いのがまた [気になる点] 悪魔になりそう。 [一言] うーん、そろそろ闇っぽいシリアス書いてみようかな?
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