7話 リノアパーティのその後【追放した側の視点】
アクアを解雇した翌日の午後。
行きつけの酒場にある丸テーブルをんで、私達パーティには新しい仲間を迎え入れていた。
「彼はサクサイ。回復と攻撃魔法が得意な魔道士。さ、みんなに挨拶をして」
「サクサイと言います。よろしくお願いします」
彼はハーディーとハンズに丁寧に頭を下げた。
「俺はハンズ。よろしくだ、サクサイ」
「あたしはハーディー。あんたと同じ魔道士よ」
丸テーブルに座っている二人も、サクサイを笑顔と拍手で歓迎してくれた。
「サクサイ。あなたの活躍に期待しているわよ」
「そーそー。あんな無能な錬金術師よりかは役に立つに決まってるでしょ。きゃははは」
「ふむ。ハーディーの言う通りだ」
ハーディーの言葉に、ハンズは苦笑いして頷いている。
「そんなにダメな人だったんですか?」
「ダメもダメ。役に立たなすぎて、いっつも荷物持ちさせたし」
「敵が現れたら即逃げる……全く男らしくない奴だったな」
ハーディーがプッと吹き出したのをきっかけに、三人は大声で笑い出した。
そのまま私達は笑いながら談笑を始めていた。
しばらく経ち、私は頃合いを見計らって三人に話し始める。
「実は今日、墳墓の二十階層より先の探索許可がギルドから承認されたわ」
おお、とハーディーとハンズの二人が感嘆の声を上げた。
「そうか……いよいよ二十階層より先に進めるのか」
「さぁて、どんなお宝があるのかしらねぇ」
興奮を抑えきれない二人とは変わって、サクサイはキョトンとしている。
「……あの、リノアさん。墳墓って、まさかあの古代王朝の墳墓ですか?」
「ええ。その墳墓よ」
古代王朝の墳墓。
街から半日歩いた場所にあって、ギルドが踏破を最優先にしている迷宮。
ギルドの管理下にあり、私達みたいに冒険者ランクS級かA級じゃないと入る事を制限されている。
その危険な迷宮の二十階層より先に進める許可を今日ギルドから貰えたのだ。
「許可を貰えたパーティは、あたし達以外の他にもいるだろうけどさ……最初に二十階層より下に進むのはあたし達しかいないよね」
「もちろんだ。俺達が最初に未踏の階層にたどり着いてやろうじゃあないか!」
「僕も微力ながら力を貸してますから、前任者より期待してくださいね」
「うん、決定ね。それじゃ、ハンズは一週間分の食糧と回復薬の準備をお願い。準備が出来次第、墳墓へ向かうわよ」
私達四人は酒場を後にした。
○
ハンズが一週間分の食糧と回復薬を詰め込んだ荷物を背負ってくると、街の入り口にある荷馬車に乗り目的地へと向かう。
そこから先に、なだらかな起伏や小山の続く地形にひっそりと隠れるようにぽっかりと口を開けた場所がある。
そこが地下墳墓への入り口だ。
「……ふむ。新しい足跡があるな。もう先に入った連中がいるようだな」
入り口付近の地面には四、五人の足跡が残されている。
「少し出遅れたけど焦る必要はないわ。私達も進みましょう」
私達も墳墓の中へと足を踏み入れた。
ひんやりとしたカビ臭い空気に、サクサイは鼻を押さえて嫌そうな顔をしている。
私と他の二人はそれに慣れているから、気にする事なく早足で進んでいく。
サクサイも遅れまないように必死で後をついて来ている。
「……僕、この墳墓と言うか……迷宮は初めてなんですよね」
光苔が迷宮の通路を照らしているから、中は比較的明るい。
照らし出されているサクサイの顔は、どこか怯えているようにも見える。
「ふははは。大丈夫だ、サクサイ。俺達はもう何度もこの墳墓に潜っているんだ。だから心配する必要はないぞ」
サクサイの不安を吹き飛ばすように、ハンズは大声で笑い出した。
ハンズの言う通りだ。
何度も潜った墳墓だから、心配する必要はない。
サクサイが入った事で戦力も上がり、踏破は以前よりも簡単な事だと私は考えていた。
でも、その慢心とアクアがいなくなった事が、後で大きな問題を引き起こす事に、私はまだ気づいていなかった。
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