6話 最初の一歩
俺はディスティニィを連れて、街で馴染みの大衆食堂のテーブルにいた。
「んで、俺と組みたいって本気か?」
「はい、本気ですよ」
彼女はニコニコと微笑んで俺に答えた。
「……魔道士なんて引く手数多じゃのか? どうして俺を勧誘するんだ?」
魔道士は貴重な人材だから、パーティ同士で常に引き抜きが横行している。
それくらい有能な人材なのだ。
「アクアさん……いえ、アクア様が命懸けでわたしを助け出してくれた、あの姿……あれを見て、絶対にこの人とパーティを組まないと、と感じたんです」
ディスティニィは、うっとりとした表情でどこか遠い所を見つめている。
「俺……そんな事はした覚えが――」
「……パーティ、ダメでしょうか……?」
彼女は不安そうにして俺に伺ってくる。
魔道士から勧誘されるなんて、願ってもない展開だ。
断る理由なんてどこにもない。
「ダメじゃない。むしろ俺から頼みたいくらいだ」
「ほ、本当ですか!? やった! これでお婆様に怒られなくて済みます!」
彼女の顔がぱぁっと明るくなった。
「じゃ早速だが、ディスティニィの冒険者カードを見せて貰えないか? あんたのレベルとスキルを知っておきたいからな」
パーティを組む上でも、彼女のや冒険者レベル、保有スキルを知っておかなければならない。
これから命を預ける仲間なんだから、これは当然の事だ。
「これが俺の冒険者カードだ」
「はい。これがわたしのカードになります」
彼女はいそいそと腰のポーチからカードを取り出すと、テーブルの上に置く。
もちろん俺もカードを彼女の前に差し出した。
俺のカードを手にしたディスティニィの顔が、徐々に変わっていく。
「ふえええ!? ア、アクアさん……冒険者ランクSなんですね。だからあんなに強いんですね〜」
彼女は目を丸くして、かなり驚いているようだ。
俺は彼女のカードに目を向ける。
そこに書かれている名前を見て、俺も衝撃を受けた。
「ディスティニィ・フォンブラウン……おい、フォンブラウンってまさか、あのフォンブラウンなのか!?」
「はい、わたしはそのフォンブラウンの一族ですよ?」
ぽや〜っとしたこの少女が、まさかあのフォンブラウンの家系だと言うのか。
フォンブラウンと言えば、この業界で知らない奴がいないほど、魔道士として名門中の名門。
常に歴史に名を残すような人物ばかりを輩出する一族。
どうやら俺はとんでもない幸運を拾ったのかも知れない。
「……でも、そんな有名な一族がどうしてパーティに加入してないんだ……あ、あああ!?」
カードの裏目に書かれた内容に驚いた俺は、おもわず立ち上がってしまった。
冒険者ランク:D
冒険者レベル:D
保有スキル:無し
習得スキル:生活魔法
書かれている内容に俺は一瞬目眩がした。
「……アクア様?」
ディスティニィは不思議そうにして俺を見ている。
「いや……なんでもない」
再び席に座って、俺はディスティニィのカードにもう一度目を通した。
何度見ても変わる事がない事実。
まさかフォンブラウンの一族なのに、冒険者ランクとレベルがD。
それに生活魔法だなんて聞いた事がない。
「……なあ、ディスティニィ。この生活魔法ってなんだ?」
「ああ、ええっとですね……生活魔法って言うのは、お風呂のお湯を出したり、薪に火を焚べたり、濡れた衣服を乾燥できる便利な魔法なんです……えへへ」
ディスティニィは恥ずかしそうに照れている。
森でディスティニィが妙に歯切れが悪かった事に納得がいった。
生活魔法とやらでゴブリンなんかに勝てるはずがない。
と言うか、そんな魔法で俺を助けに戻ってきてどうするつもりだったのか。
「……で、森にいた理由は何だ?」
「あ〜それはですね……スライムを一匹倒せたから、森の魔物にも勝てるかなぁって……アクア様? 顔色が悪いみたいですが、どうしたんですか!?」
スライムを倒したくらいで調子に乗った新人が、森に入って大怪我をしたり、全滅したりと割とよく聞く話だ。
まさか、フォンブラウンを名乗る人物が、そんな浅はかな事をしようとは……
「アクア様、そんな困った顔するなんて……やっぱり、パーティを組むの後悔してますよね。いいんです、こんな事は今まで何度もありましたから……」
彼女は項垂れて、今にも泣きそうな雰囲気を漂わせている。
見捨てる訳にはいかないな。
仮にここでディスティニィを見捨てたとしたら、俺はリノア達と同じになってしまう。
それに一度パーティを組むって返事をしたのだから、約束を反故する訳にはいかない。
「……それでだ、ディスティニィ。パーティを組むんだから、最低、あと二人は必要だぞ」
「……え? アクア様……?」
顔を上げたディスティニィの目からは、涙が溢れ出している。
「いいんですか? わたしなんか……?」
「俺とディスティニィはパーティなんだから、良いも悪いもないだろ。ほら、さっさとギルドへ行って、仲間を募集するぞ!」
「あ!? 待ってください、アクア様ぁ!」
俺達は食堂を後にして、ギルドへと向かう事にした。
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