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2話 道具屋と本と指輪

 慣れしたしんだパーティをクビにされた。


 俺は悲しみと絶望から夜の街を疾走していた。

 鼻水と涙を垂れ流しながら街の中を全力で、だ。


 道ゆく通行人にぎょっとされたり、指刺されたりしていたけど、今の俺にはどうでもいい事だ。


 好きだった連中に俺は捨てられた事への、ショックが大きい。


 酒場を出てからどれくらい走ったのだろうか。

 いや、何処を走っているのかさえ分からない。


「……はぁはぁはぁ……あ〜! くっそ!」


 思わず壁に八つ当たりしたが……殴った右手がジンジンして痛い。

 痛みで少しだけど冷静さを取り戻してきた。


 はぁ、これからどうしたもんかな……ん?


「……あれ? ここは何処だ……?」


 いつの間にか見たことが無い路地裏に迷い込んでしまっている事に俺はようやく気づいた。


 街からの明かりがそれほど届かない薄暗くて狭い路地。

 建物と建物に挟まれて細くなった通り。


 闇に潜むように酔い潰れて地面に座り込んでいる輩や、ヤバそうな取引をしてる輩の姿がチラホラと見える。


「うわ。こんな場所に居たら、絶対に変な連中に絡まれるな」


 仲間がいないから、ちょっと心細くなってくる――

 って、何弱気になってんだ? 俺は冒険者だろ?


 そう考えていた俺の視界に、突然暖かな光が目に飛び込んできた。


「……あん? なんだ? こんな夜遅くに開店してる店……?」


 地上に現れた星のような明かりが、小さな丸の窓から溢れている。

 こんな治安が悪そうな場所にある明かりに、俺は吸い寄せられていく。


 木造の小さな建物に蔦が絡まって、雰囲気がある佇まいをしている。


「ご……ごめんくださ〜い。お邪魔しますよ〜……」


 俺は真ん中にある木製の扉をゆっくりと開けた。

 チリンチリンと扉の上の小さな鈴が音を立てる。


 明るい室内に俺はほっと安堵した。

 天井にぶら下がっているランタンの心地い明かり。


 店内の壁の棚には瓶がずらりと並んでいる。

 中に薬草とかが入っているんだろうか?


 俺も錬金術師の端くれ。

 ちょっと中がどんな物なのかを拝見させて――


「いらっしゃい……あら、初めて見るお客さんね?」

「え、あ、はい……」


 妖艶さ漂うお姉さんが、戸惑う俺に優しく声をかけてきた。

 胸元が大きく開かれて、胸の谷間が強調されている衣服に視線が釘付けになる。


「どうしたの? ふふふ、ずいぶんと鼻の下が伸びてるわよ」

「え……あはは。そ、そんな顔なんてしてませんよ。と、ところでここって道具屋なんですか?」


「――ええ、そうよ。魔道士専門の道具屋」


 優しく微笑んでるお姉さんは、この店の店主だろうか。


 魔道士専門の道具屋ねぇ。

 そんな道具屋なんて聞いた事はないけど……

 まあ、せっかく珍しい道具屋に来たんだし、何か買って帰ろうかな。

 落ち込んだ気分を少しでも変えたいしな。


 改めて店内の壁に設置された棚を見て周る。

 瓶詰めにされた素材は、何処にでも有るありふれた物ばかりが多いが、中には見た事がない素材もあった。


 古びた本も何冊か置いてあるのに目が止まる。


「あら。あなた、いい趣味してるわね」


「え? ああ、俺昔っから本が好きなんですよね」


 本が好きすぎて『本の虫』なんて揶揄された事もある。

 ま、本好きが高じて錬金術師になったくらいだしな。


 並んでるどの本にも背表紙にタイトルすらない。

 装飾は施されていて、どれも高価な本のように見える。


「ねえ、あなた」

「え、な、なんすか!?」


 本に見惚れすぎて、急に声かけられて驚いてしまった。


「そんなに本が好きなら……いい物を見せてあげるわ。ちょっと待ってなさいね」


 お姉さんはそう言うと、奥の部屋へと入っていった。


 シーンとした空気。

 時計が動いてる音しか聞こえない。


「はい、お待たせ」


 時間にして一分くらい。

 奥から戻ってきたお姉さんの手には、一冊の本と銀色の指輪があった。


「……それなんです?」

「ふふ。何って本と指輪よ? それ以外に何に見えるのかしら?」


 まあ確かに本と指輪にしか見えない。


「はい。これをあなたに」


 お姉さんがいきなり持っていた本と指輪を、俺に手渡してきた。


 ずっしりと重い本。

 上質な質感の革を使用した表紙。

 指輪も触り心地から察するにミスリル製のようだ。


 どうしたらいいのか分からない俺に、お姉さんは微笑んで見ている。


「えーっと……?」

「ふふ。それをあなたに譲ってあげたいの」

「え!? こんな高価そうな本と指輪、いいの!?」


「ええ。いいのよ……ずっとあなたを待っていたんだから」


 待っていた?

 どう言う意味だ?


 このお姉さんが俺を待っていたって言うのか?


 手にした本と指輪を俺は黙ってずっと見つめていた。


読んで頂き本当にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どう昔の仲間を見返していくのか楽しみです。 ブクマと評価させていただきました。 よければ私のもご覧くださいませ
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