異種族交流会へ
「えーっと……?」
海上に顔と尾ビレを出して、緑の長い髪を波に漂わせている人魚が見つめているのは、空中にホバリングしている小さな妖精がひとり。お互いに言葉を扱う知能は高いが、使っている言語の体系が違うため言われたことを理解するのには、そこそこ時間がかかる。
妖精がずっと空中に止まっているのは、人間で言えばずっと爪先立ちしているのと同じようなもので、不可能ではないが少々疲れる。それを知っている人魚は近くの岩場に妖精を誘うと、自分もその岩のひとつに乗って話を続けた。
「回ってくれようとしてた……のとは違うかな、あー……うーん。とりあえず、ウチはこのまま港に行ってもいいんだよね?」
山に棲むもの、海に棲むもの、それぞれ集まって人の街へ繰り出してみようということで、人魚は移動中だった。他にも、もしかしたら、砂漠に棲むものやら森にいるものやら増えるのかもしれないが、参加者を募るのは言い出しっぺに任せているので、集まってからのお楽しみだ。
そう、お楽しみ。早く会いたいのと、そのためのカウントダウンは、両方が幸せの心地。
人魚は、距離が長いので他の生息地から来るものよりもかなり早い段階で出発している。ただの港ならもっと近くにもたくさんあるのだが、尾ビレを期限付きで足に変える薬ーー販売許可を得るのが難しいーーが必要なため、人魚族が陸へ上がれる港は限られており、やや遠めの港へ向かって泳いでいるというところだ。
岩場の熱気でほどよく温められた尾ビレを海に戻して、ちゃぷり。と、体の大きさにしては控えめな水音を立てながら人魚が海路に鼻先を向ける。泳ぎ出す前に振り向いて、妖精へ笑顔で告げた。
「遠くまで、伝言ありがとう。また調整が必要だったら教えて。でも、無理はしないでね」
潮風で羽根が傷むでしょう?
言って手を振ると、人魚はいそいそと泳ぎ出した。